石井大裕(いしいともひろ) プロフィール
東京都出身。1985年生まれ。6歳でテニスを始め12歳で「修造チャレンジトップジュニア」に選出。高校1年時の2001年、錦織圭選手(当時小6)とともに松岡修造氏主催の強化合宿に参加し、慶応高卒業後は世界を転戦した経歴を持つ。2010年TBS入社。同局営業局勤務の兄・大貴(ともたか)との音楽ユニット「Well stone bros.」で今年ミュージシャンとしてメジャーデビュー。185センチ、75キロ。

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アジア40億人の頂点へ! 韓国・仁川で開催される4年に一度のアジアの祭典「アジア大会2014」。本日9月14日から先行開幕する男子サッカーを皮切りに、20日(土)からはゴールデンタイムぶち抜き14日間、計80時間に渡ってTBS系列で生中継される。そこで、大会期間中、韓国・仁川のスタジオで司会進行役を務めるTBS・石井大裕アナウンサーにアジア大会の見どころを聞いた。

《アジアの文化の拡がりや多様性も実感できる大会》
─── 今回で17回目を迎えるアジア大会ですが、五輪やサッカーW杯に比べると、なじみのない方も多いかと思います。大会の意義や特色、という部分はどんなところでしょうか?

石井 4年に一度開催される“アジア最大のスポーツの祭典”、それがアジアのオリンピックといわれる「アジア大会」です。実施競技数は五輪を凌ぐ36競技(ロンドン五輪が26競技)が行われます。そこに、アジア40億人の代表という威信もかかってくる。取材でいろんな選手に話を聞いていますが、どの選手も本当に気合いが入っていますね。

─── 五輪にはない、アジア大会ならではの難しさ、面白さっていうのはどういったものがありますか?

石井 面白さ、という部分では、アジアそれぞれの国に根付いたスポーツが楽しめるところだと思います。例えばカバディですとか、セパタクロー、スカッシュといった五輪では実施されない競技もありますし。45の国と地域からさまざまな選手が出場するにあたって、“アジアの文化の拡がり”や“多様性”も実感できるのがアジア大会ならではの魅力じゃないでしょうか。

─── 選手にとってのアジア大会の意味とは?

石井 選手にとっては、ひとつの壁といいますか目標といいますか。私自身もずっとテニスをやっていたんですけれど、現役時代は「アジア大会に出たい。日本の代表としてやっていきたい!」という思いがすごくありました。今回、スペシャルアスリートプレゼンターを務めていただく競泳の北島康介さんに話を聞いても、「2002年のアジア大会(韓国・釜山)で世界記録を出してキッカケを掴んだ。そこから、2004年のアテネ五輪での金メダルにつながっていった」とおしゃっていました。あるいは、現・柔道男子監督の井上康生さんにしても同様で、アジア大会(98年タイ・バンコク)で優勝したことで、シドニー五輪(2000年)の金メダルにつながっていく。ある意味で、通過しなければいけない大事な場所といいますか……

─── 登竜門的な。

石井 そう。登竜門ですよね。アジア大会では選手村もありますので、まさに五輪さながらの雰囲気が味わえる。これを経験することによって次が見えてくる、という舞台なんじゃないかなと思います。

《アジアが今どういう状況なのか》
─── 取材や準備で忙しいところだと思います。取材は海外へも?

石井 そうですね。いろんな国の選手たちに取材をしています。私自身、実況アナウンサーとして、入社以来さまざまな国に行かせてもらいました。去年だけで17、18カ国で取材をしました。その過程で感じたのがアジアの幅広さです。中国は最近、水泳に力を入れていますし、モンゴルは柔道が強くなっている。五輪では当然、世界中の選手を見るわけですが、アジアに集中して見ると、国ごとにどの競技に力を入れているのか。その背景にある宗教的なこととか、女性アスリートの躍進だとか、いろんな部分がより深く理解できるようになる。それは大会を通じて、視聴者の方にも伝えていきたいことですね。

─── アジア大会だからこそ、みたいな競技や選手というと?

石井 個人的にはセパタクローですね、もうタイがめちゃくちゃ強いんですよ。そのタイの絶対的名エースに、ティナゴン・パンテート、通称ヌンっていう選手がいるんですけど、

─── ヌン!

石井 もう、このティナゴン・パンテート、通称ヌンがとんでもない選手なんですよ。今年32歳になりまして、いよいよ熟練の技を見せてくれるという。もうとにかくすごいんです。練習の映像を見てると「なんだ!?」っていうぐらいで芸術なんです。オーバーヘッドキックを連続でできるっていう。すごく特徴的な選手で、プレイ中は頭にタオル巻いてるんですよ。調べてみたら、「汗が目に入らないから」という、いたって普通な理由で(笑)。あとは、ウィラウット・ナ・ノンカーイ、通称レモンっていうニュースターもいて、とにかくタイのセパタクローが強いんです。

─── レモン!

石井 セパタクローはミャンマーも強いんですが、とりあえず、タイのティナゴン・パンテートとウィラウット・ナ・ノンカーイ、通称ヌンとレモンだけでも押さえていただければ。

─── とりあえず、ヌンとレモンは覚えました。

石井 あと、五輪にない競技でいえば、スカッシュはマレーシアとインドが強いですね。私自身、やっぱり日本人選手達にメダルを取ってもらいたい、という気持ちは心のどこかにあるんですけど、気をつけなきゃいけないのは、「ニッポン頑張れ!」だけじゃなくて、アジアが今どういう状況なのかをしっかり伝えていかなければ、と強く思っています。

─── アジアを伝える大会である、と。

石井 これから2020年の東京五輪を迎えるにあたって、東京は「アジアの中のひとつ」なんだという意識を持っていなければ、世界のいろんな文化を迎え入れることはできないんじゃないでしょうか。アジアの国々はもちろんライバル国ですが、スポーツ=平和の象徴、という意味では、手を取り合って世界と立ち向かう、くらいの感覚を持つことが大事になると思います。たとえば、日本のお家芸・柔道にしても、井上康生コーチが66kg級の高上智史選手をモンゴルに送り込みました。モンゴルって今、すごく柔道のレベルが上がってきているんです。日本だけでは補いきれないもの、アジア同士でいいモノをしっかり取り入れていく。我々もそういった部分をちゃんと伝えていかなきゃいけないと思っています。

《若い選手が活躍すれば、それがW杯にもつながっていく》
─── 今日(14日)、男子サッカーから、アジア大会が先行して始まります。

石井 男子サッカーは、リオ五輪を見据えてU-21代表メンバーでアジア大会に挑みます。先日、手倉森監督に話を聞いてきました。今回のアジア大会の舞台が韓国。韓国で韓国代表と対戦することになります。「敵地で日の丸を背負って勝った選手っていうのは、もうそれこそ自信になる。アウェイの韓国で勝つっていう経験をした選手は絶対に成長する」と言っていました。

─── 注目選手は?

石井 野津田岳人(サンフレッチェ広島)選手と鈴木武蔵(アルビレックス新潟)選手のFW勢に期待したいです。国を背負う戦いになるわけですが、それは相手国も同じです。当然、どのチームもすごい意気込みで来ます。そういう舞台で戦えることは選手にとっては大きな経験値になると思いますので、もうワクワクしますね。

─── なでしこはいかがでしょうか?

石井 2010年、前回のアジア大会(中国・広州)で、なでしこジャパンは初めて金メダルを取りました。女子サッカーはずーっと北朝鮮の牙城がありましたから、なかなかアジアのチャンピオンにはなれなかった。その日本が初めてアジア大会で金メダルを取り、翌2011年のドイツW杯で優勝するという快挙。そこからなでしこが一気にブームになって、今ではTBSでも高校女子サッカーを中継しているという。そういった意味では、ひとつの文化を作るっていう意義がこのアジア大会にはあるし、なでしこにとってもターニングポイントになったんじゃないかなと思います。

─── アジア大会も注目ですが、来年にはもう次のW杯が迫っています。

石井 佐々木則夫監督の話を聞くと、アジア大会のメンバーには、来年のW杯に行くであろう選手を中心に選出していることがわかります。特に今回は、大学生がメンバー入りするなど、今まで呼んでいない選手が3人メンバー入りしています。若い選手が活躍すれば、それがW杯にもつながっていくわけですから、経験を積む、という意味でも結果、内容とも期待したいですね。

─── 特に今回は、あえて澤選手を代表入りさせなかったわけですからね。

石井 そうですね。それだけに、20歳の猶本光選手、23歳の高瀬愛実選手といった若手に注目したいです。

─── そして、先行開幕するサッカーに続いて、9月20日からは本格的に競技が始まります。

石井 大会序盤の期待はやはり柔道です。特に柔道男子100kg超級の王子谷剛志選手に注目です。まだ22歳。このアジア大会をキッカケに更なる飛躍を! という意味で期待しています。ちょうど王子谷選手が東海大に入学した年に井上康生さんが助監督として大学に戻ってきて、そこからずっと井上康生さんの指導を直接受け、大学4年の今年、遂に全日本選手権で優勝を果たしました。

─── 風貌は、もう癒し系みたいな優しさがにじみ出ている選手ですよね。

石井 ずっと取材をしているんですけど、彼は本当に不器用な男なんですね。でも、コツコツコツコツやるんですよ。練習を見ていても、ひとつひとつ丁寧に取り組む朴訥なところに好感が持てるというか、応援したいと周りに思わせる選手なんです。そんな中、東海大学のキャプテンになって、自分のことだけじゃなく、周りも見えるようになりました。それも井上康生監督の采配だと思うんですけど、結果として全日本選手権で優勝することができた。今度はその責任感を、日の丸を背負って出して欲しいと期待しています。

─── そして、大会最終日(10月3日)に登場するのが男子マラソンの川内優輝選手です。

石井 川内選手、遂にアジア大会で金メダルを取るときが来たんじゃないかなっていう。27レースですよ、今年走ったの。おかしいでしょう(笑)。今年だけでマラソンを7回走ってますから。すごいですよねえ。メダルを争うライバルは、モンゴル代表のセルオドバトゥチル選手。デッドヒートになるんじゃないかと言われています。日本の選手の活躍はもちろんなんですが、出場する45の国と地域にはこんな選手がいるんだ! という気づきや、この選手はどうやって育ってきたのか?というバックグラウンド、そういう部分もしっかり伝えていきたいと思います。

「アジア大会2014」
9月14日(日)夜7時、男子サッカー先行開幕!
20日からは、TBS系列で14日間連日、ゴールデンタイム生放送!

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(オグマナオト)