【緊急レポ】まさかの断水北海道【江別市民大パニック】

写真拡大 (全3枚)

11日:PM6時
トイレに行って水を流した。
ふと貯水槽に貯まるはずの水が、ちょろちょろとしか出ないことに気づく。

北海道札幌近辺では、9月10・11日と豪雨に襲われており、避難勧告が出ていた。
深夜は目が覚めるほど雷が光り続け、雨は激しい音を立てて降り続けた。
エキレビの編集から「そっち大丈夫なの?」と連絡がくる。友達からも「大丈夫?」電話がかかってくる。
割りとすぐやんだので、ぼくは全く心配をしていなかった。案外当事者は気づかないものだ。

問題はその次の日だった。
ふとトイレの件を思い出して、普段使っている蛇口をひねる。
ちょろちょろ。
まずい、断水だ。

水道管破裂とか、補修とかの情報は聞いていない。
しかも、なんで豪雨なのに断水? こんなに水あるのに。
逆なのだ。降り過ぎたから断水せざるを得なくなったのだ。

今回の断水は、川の水が増水しすぎて激しく濁り、浄水能力が間に合わなくなってしまったのが原因。
浄水の仕組みはこれを見るとわかりやすい。
横浜市 水道局 浄水場のしくみ
この途中の処理が一つでも滞ると、正常な浄水はできなくなる。

浄水には、川の水からスタートして12時間かかる。
断水が始まったら、12時間は水が出ない、と覚悟をしなければいけない。
電気と違って、すぐに復旧というのはありえないのが、水だ。

11日:PM7時
これはまずい。
焦っていたのか、なぜか水が出なくなってから読みはじめていた『キルラキル脚本全集』を置いて、慌てて水を風呂場に貯めはじめた。
まあ浴槽半分でも貯まればいいだろう、くらいで蛇口をひねる。
出しっぱなしにしたものの、ちょろちょろ水では手首程度しか水は貯まらなかった。

11日:PM9時
夜。
水がついに出なくなった。
貯めておいたなけなしのダイエットコーラを飲みながら、ぼんやりと不安が浮かぶ。
まだこの時点では市から正確な発表はされていない。

不安だったのは食事だった。しかし、食べ物は意外となんとかなるものだと知る。飲み水さえあれば、お菓子なりなんなりでやり過ごせる。
ミネラルウォーターを被災用に買っていた過去の自分を褒めてやりたかった。
風呂は……まあ諦めよう。歯磨きは無理だな。洗顔はウォッシュペーパー。

問題はトイレだ。
小便は最悪、庭ですればいい。
大きい方がどうしようもない。貯めておいた風呂の水を流し込んでも、全く流れない。ペットボトル程度の水じゃ、流れない。
慌ててネットを調べる。
TOTO:断水・給水制限・停電時のトイレ使用について
「バケツ等に水をくみ、直接便器内へ流すことで、便器洗浄が可能です。」
ふむふむなるほど……って、そんなのは無理難題すぎることに呆然とする。
いつ終わるかわからない断水で、バケツ一杯、3から4リットルの水なんて、注ぎ込める余裕はない。
でも勉強になるので覚えておこう。ウォッシュレットの電源を落とす。

とりあえず、使ったトイレットペーパーは厳重につつんでビニール袋に入れて、流さないようにする。
洗面器でくんだなけなしの水をトイレに注ぎ、蓋を閉めて、シュッシュとスプレーをし、ごまかす。
これ、いつまで続くんだろう。

11日:PM10時
深夜、正式に発表が出る。
現在断水中。復旧の目処はたっていない。

12日:AM0時
なんとなく寝付けず、vitaで『討鬼伝極』の武器素材集めをしていたら、広報車が走って住民に勧告を放送していたのが聞こえてきた。
みんな寝てるだろうなーとか思いつつ、事態は思ったほど甘くないことを知る。
内容は、「断水中なので給水をします。場所はどこどこの学校や会館です」というもの。

なんだか、不思議とワクワクしてきた。
何か特別なことが起きていることに、変な興奮を覚えた。

12日:AM8時
朝。
水は出なかった。
風呂に貯めた水は尽きてしまった。
とりあえず朝食は考えないことにして、小学校に大きめのバケツを持って水をもらいにいく。

ポリタンクやバケツを持った人が、長蛇の列を作っていた。
スマホを見ると、市からの広報が変わっていた。
「濁度が現状のままであれば、本日午後6時頃の復旧を見込んでおります。ただし、状況によっては、給水開始が遅れる場合がありますのでご了承ください。なお、ご使用時の最初は赤水が出る可能性がありますが、トイレなどには十分ご使用になれます。」
トイレの水が出るならそれでいい。とにかくその一点しか頭になかった。

みんな冷静で親切だった。ある程度水をもらったら次の人にすぐ譲っている。混乱はない。
バケツに水をもらい、それと別に10リットル入る水袋を2つもらって、帰路に着く。
今後はこのビニール袋に水を貯めておこうと心に誓う。

12日:AM12時
沸かしたミネラルウォーターを注いだカップ麺と、サランラップを巻いたお皿で食事。
食後、水がないからコンビニに、北海道では金曜日発売の『週刊少年チャンピオン』を買いに行く。
道路を歩いていると、小学生が帰宅途中だった。

コンビニには案の定、パンやおにぎりが全くない。
処理が面倒な麺類は、意外にもどっさり残っていた。
コンビニ内には所狭しと、ミネラルウォーターとトイレットペーパーが積んであった。
やっぱり問題はトイレなのだ。

友人に聞くと、人の多い地域だとスーパー・コンビニからミネラルウォーターも枯渇しているらしい。
とりあえず、いつもよりちょっと贅沢をしようと、ダイエットじゃないコーラを買う。

帰り道、水の配給を自転車に詰んだおばあちゃんたちの笑い声が聞こえた。
「これで生きていけるね」
簡単に動けない老人にとって、断水はたった一日でも、死活問題だ。

道路には、豪雨の後の水たまりがまだ残っている。

12日:PM2時
市から提供されている「濁度(NTU)」を見てみる。
12日の深夜1時は、濁度2000NTUをはるかに超えている。
午前6時になって1000NTUを切った。

目安として、缶コーヒーの濁度は、2350NTU。
一般的には雨が降っている時、650NTU。降っていない時で10NTU。
水道水は濁度2NTU以下でないといけない。
まだまだ、安心はできない。

今は晴れていて、太陽の光が差し込んでいる。
だが雷の音が、途絶えること無く続いている。

12日:PM4時
江別市は5万3千世帯で、12万人が暮らしている。
そのうち約3万3千世帯の、7万5千人に影響が出ているとニュースで知る。

Twitterで「断水」を検索すると、混乱や怒りであふれている様子が見て取れた。
誰のせいでもない。みんな、落ち着かないのだ。
水がない、というのは想像以上にストレスになることに、初めて気付かされる。

断水時間が伸びるだの、もう終わっただの、情報が錯綜しはじめる。
市からの情報では今日の18時再開となっていた。しかしそれは消され、最長で明日の午後18時に延長。市議会議員のブログでも延長が発表される。Twitterが本格的にパニックになりはじめた。
江別の断水は、まだ続くことがわかりました:江別市議会議員 高橋典子のブログです。
正確な情報がほしい。

12日:PM7時
復旧予定だった18時に、広報カーが正式に断水延長を知らせ始めた。
本日二回目の給水。水のある地域から往復して、まだ給水している、という小学校まで車を走らせる。
相変わらず給水車には長蛇の行列ができている。みんな譲り合い、文句を言わずグッとこらえている。少し離れた地域に行けば水は手に入るからうちにおいで、なんて声も聞こえる。
給水車の往復が間に合わなくなり、学校地下にある貯水槽から水の汲み上げが行われ始めた。もちろん人力。

帰りのついでに、水源になっている千歳川を見に行く。
まるでコーヒーのように淀んだままだった。

日が沈んで真っ暗になっても、給水は続く。


12日:PM11時
水が出た。
どうやらポンプの試運転をしているらしく、完全復帰ではないようで、飲めるかどうかはわからない。
まだ明日まで予断を許さない状況だ。
一部地域は完全に復旧したとの告知が出ており、ネットでは喜びの声があがっていた。
その一方で「水が土臭い」という声もあがっている。
一時的に飲めない水が出ることは事前告知されてはいたものの、今は市のHPには書かれておらず、真偽の程はわからない。

ぼくが真っ先に行ったのは、トイレの洗浄とシャワーだった。
近隣の水が出る温泉は、超満員だったそうだ。
想像以上に「水が出ない」ことは、住民のストレスになっている。

問題なのは、これが「復旧」なのかどうか、わからないことだ。
ネットで市の情報やニュースを見るのが最もはやい。それでも、不明点が多い。

ネットを見ている人ばかりとは限らない。
むしろ再開の時間等を知らない人がいたことを市議会議員がFacebookに載せている。
田舎にいくと、街の中にスピーカーがあったり、各家に町内放送が流れる機械が設置されていることがある。
今回は、そのどちらもなかった。

これが避難勧告などだとしたら、情報伝達の差にぞっとする。
一人暮らしの老人や、赤ちゃんがいる家庭は、情報をちゃんと入手できていたのだろうか。
最終的に頼りになるのは、車による広報と、隣近所の声のかけあいだ。

遠く、旭川や倶知安(すごく遠いです)からも給水車が来ているらしい。
ふと、水を汲みに行った時のみんなの譲り合いの様子を思い出す。
案外世の中捨てたもんじゃない。

水の濁度は361NTUまで下がってきた(通常は10から30NTU)。

13日:AM11時
広報カーから、水が使えるようになっている、と正式なアナウンスが流れる。
どうにも何を言っているのか、聞き取りづらい。老人は聞こえるのだろうか。

市のHPを見ると全域の復旧にともない、「全ての給水所を11時をもって閉鎖いたします」と出ている。
少なくとも、ほとんどの地域で「飲める」ようになったということだ。

ところが、Twitterで検索をしていると「まだ出ない」という報告が相次いでいる。
アパートなど住宅事情で変わる。特にまだ水圧低下で水が出ない家庭はあるようだ。
何を持って「使える」と市が判断しているのかは、わからない。
出ない家には、個別給水をしている、という情報をネットで見つける。

今回TwitterやFacebookは、個々の発信する情報として非常に重宝した。
真偽入り交じっているものの、家族や友達のやりとりが行われる場になっていたようだ。
震災の時、電話がつながらなかった時にTwitterが活躍していたのを思い出す。

インフラが全て止まってしまうよりマシ、とは考えた。
しかし水ひとつ、一日から二日止まることで、市民のストレスが高まり、あっという間に色々なものが崩れることを知る。
休業したお店は多い。小中学校は給食が出ないため学校が昼までしか開けない。
給水所で、地下の貯水槽から必死に水を人力で汲み上げる姿が、忘れられない。

被災対策としてミネラルウォーターを買い置きしている家庭は多いと思う。
水洗トイレ対策は、どうすればいいのかの知識を持っていたほうがいい。これが最大の悩みになるはずだ。
普段からお風呂の水を捨てないでおくのが、一番の手だとネットの声で知る。
赤ちゃんのいる家庭、ペットを飼っている家庭は、十分に対策をねった方がいい。

もし電気や水道などのライフラインが止まってしまった場合、給水車など人の集まる場所に行くといい。
みんな苦しんでいるのを黙って耐えている。譲り合っている。
24時間体制で必死に働いてくれている人がいる。それを見るだけでホッとする。
個々の家庭の事情の声を生で聞くのは、ネットの文字よりも心強い。

いかに正確な情報を伝えるかは、市の最大の課題になっただろう。
市民の最大の不安は「わからなさ」だった。
全国のテレビニュースで事情を知る、なんていう逆転現象があったくらいだ。
一人暮らしの老人の家には情報がいかなかったため、婦人会で連絡を一件一件回していた。

ぼくはというと、今は安堵感が半端ではない。たかが一日水くらい……甘い考えだった。
身体より心が疲弊してしまった。
同じ市民の方で、ぼくの記事を読んでくださっている方が多数いた事実を知ったのが、最大の心の励ましだった。
ゆっくりお風呂に浸かりながら、『キルラキル脚本全集』の続きを風呂読しようと思う。
(たまごまご)