2014年の夏の甲子園は、前橋育英の高橋光成(たかはし・こうな)、済美の安樂智大(あんらく・ともひろ)、浦和学院の小島和哉(おじま・かずや)の、いわゆる"ビッグ3"が地方大会で敗れてしまい、つまらなくなるのでは......と考えている方がおられるとしたら、それはちょっと違うようだ。"ビッグ3"のさらなる成長を期待していたファンにとっては残念だが、彼らに代わってこの夏の甲子園を沸かせてくれそうな球児たちが何人も出場している。

 盛岡大付(岩手)のエース・松本裕樹(3年/右投右打)は、150キロのストレートに高校通算54本塁打と、大谷翔平(日本ハム)を彷彿させる"二刀流"で注目を集めている。だが、彼の真骨頂は力で圧倒する投球もできれば、変化球をうまく使い緩急で打ち取ることもできる"投の二刀流"にある。初戦で対戦する優勝候補の東海大相模(神奈川)相手にどんなピッチングをするのか見ものだ。

 打者では、春のセンバツで高校生離れした長打力を見せつけた通算73本塁打の智弁学園・岡本和真(3年/内野手/右投右打)。パワーもさることながら、バッティングに対する心がけが素晴らしい。試合前、スイングを繰り返すナインの横で左肩を開かずにステップする岡本の姿があった。相手投手が外しか投げてこないのを見越して、センターから右へ打球を運ぼうとする意識がはっきりと表れていた。初戦で明徳義塾とぶつかるが、好投手・岸潤一郎(3年/右投右打)を打ち崩せるのか楽しみだ。

"城島健司2世"という表現がピッタリなのが、九州国際大付の捕手・清水優心(しみず・ゆうし/3年/右投右打)。選手への評価が厳しい若生正広監督に、1年春からずっと4番を任されてきたのがこの清水。右方向に大きな放物線を描いたと思えば、左方向には猛烈なラインドライブ。こうした打球が打てるということは、インサイドアウトのスイング軌道と抜群のスイングスピードを持っていることを表している。

 おそらくこの3人が、今年の甲子園の"新ビッグ3"として注目を集めるだろう。さらに、神奈川大会決勝で20奪三振をマークした東海大相模の吉田凌(2年/右投右打)、センバツ優勝校の龍谷大平安(京都)の核弾頭・徳本健太朗(3年/外野手/右投左打)らの活躍に期待がかかる。

 そして注目度では彼らには及ばないが、「甲子園でぜひとも見てほしい」逸材たちがいる。

 たとえば、九州国際大付の山本武白志(やまもと・むさし/2年/内野手/右投右打)。ボディサイズは清水よりひと回り大きい187センチ、87キロ。構えた姿から発する威圧感やスイングスピードは特別。そればかりでなく、目を奪われるのがベースランニングだ。これだけの体を持ちながら、大きなストライドでベースターンもスピーディーにこなす。グイグイ加速して、二塁打コースを三塁打にしてしまう脚力は一見の価値あり。ちなみに、父は元ロッテで監督を務めたこともある山本功児氏。

 同じく2年生スラッガーで注目したいのが東海大相模の豊田寛(2年/外野手/右投右打)。神奈川大会では右へ左へ3本の本塁打を放ち、一躍注目を集めた。力みのないスイングからこれだけの飛距離が出るのは、インパクトのタイミングの良さとバットの芯で捉える技術がある証拠。このふたつの要素は、覚えようと思っても簡単に身に付くものではない。おそらくバットが木製に変わっても、同じような結果を残すだろう。まさに"天性"と言い切ってしまっていいほどの才能の持ち主である。

 また、関西(岡山)の二塁手・小郷裕哉(3年/右投左打)はDeNAの石川雄洋のような選手になれると見る。インコースの140キロ前後のボールを引っ張ってライナー性の打球を打てる高校生はなかなかいない。変化球に泳がされても、右半身に壁を作り、ギリギリまで辛抱してバットに乗せる技術を持つ。それだけでなくスピードも一級品。彼が1年の秋、明治神宮大会で初めて見た時の印象は"小鹿"。フィールディングのしなやかさと軽快な身のこなし、さらにスピード感のあるベースランニングは華麗で美しかった。そして今、ふた回りほど体が大きくなったが、スピード感はまったく落ちておらず、立派な"牡鹿"に成長した。

 守備のうまさなら、近江(滋賀)のショート・上田海(3年/右投右打)。ひと目見たとき、ロッテなどで活躍した名手・小阪誠(現・日本ハムコーチ)のフィールディングを思い出した。ちょっとおおげさに言えば、左から右に風がさぁ〜っと吹いて、その間に打球が拾われて一塁に送球されるイメージ。スピードと正確性の共存。おそらく、誰かに教わったわけではないだろう。持って生まれた感性のまま動いている印象だ。天才肌のフィールディングは、ぜひ甲子園で実際に見てほしい。

 そして最後に、大分高のエース・佐野皓大(さの・こうだい)。最速150キロのストレートが魅力の投手だが、何より低めの伸びが素晴らしい。とにかく腕が振れる。だからこそ、低めの球もボールが垂れず、一直線に捕手のミットに納まる。とにかく、甲子園では"最速150キロ"の称号にとらわれないでほしい。彼の本質はスピードではなく、ボールのキレと制球力。140キロ以上を投げる投手は今年の甲子園に何人もいるが、打者がボールの高さを判断できないようなスピンのかかったストレートを投げられる投手は、この佐野だけだといってもいい。

 もちろん、この他にもスカウトが熱い視線を送る選手はたくさんいる。"ビッグ3"のいない夏、新たなヒーローが誕生するのか。いよいよ、甲子園が開幕する。

安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko