劇場版 SPEC ~結~ 爻ノ篇 スタンダード・エディション 
DVD発売中
井上真樹夫が声の出演をしています

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「私を捨てて、好きに生きろ」
認知症の老いた父親・清太郎(井上真樹夫)が、妻・民子(浅田美代子)と娘・游子(松雪泰子)に言います。
「家族だからって縛られることはない」

TBS金曜10時「家族狩り」第2話(7月11日放送)のワンシーンです。
そんなこと言われても、はいそうですか、そうしますとは言えないのが、情。
娘・游子は、母・民子の提案で、施設に話を聞きにいったものの、気乗りがしない様子です。
母は「もう耐えられないのよ、この染み、このニオイ、あのいびき、全部もういやよ」と今週もヒステリックになっています。
そうですよね、ほんと辛いです。

相変わらず、辛いこと満載の「家族狩り」(原作・天童荒太、脚本・大石静)。
第2話で、最も胸が痛くなったのは、老いて頭髪の前も後ろも薄くなり、36歳の娘を小学生と勘違いしたり、椅子に座ってポカーンとしていたりする父親を演じている俳優が、誰あろう、キャプテンハーロックの声を演じている井上真樹夫さんであるということでした。

あの、颯爽としたヒーロー、ハーロックの2枚目声の方が、麻雀を一緒にやっていたかわいい女性を「おさわりあるか?」とやらしい目線で見るだけでなく、彼女のふっくらした胸を揉んでしまうのです。
「命を捨てておれは生きる」はハーロックの主題歌の一節ですが、「私を捨てて、好きに生きろ」。ちょっと似ています。

井上真樹夫は、「ルパン三世」の石川五ヱ門の声もやっていました。
あのストイックな、女嫌いなキャラの声を演じていた御方が、「おさわり」。あああ。時間は人をかくも変えるのか・・・。いや、もちろん、俳優ご本人は演じているだけですけどね。それはわかっているけれど・・・です。

ある意味、残酷なキャスティングではありますが、逆に考えると秀逸でもあります。なぜか。
それは、年をとった声優の姿を見せることは、アニメで育った者たちに、老いという変化を実感させるのではないかと思うからです。
老いは「家族狩り」で突きつけてくる問題のひとつですから、愛するキャラクターの声優が老いを演じることで、見ているほうが絵空事ではなく、自分とも関わりある問題として見ることができるかもしれません。
これを意識的にやっているとしたら、そらおそろしい。

「家族狩り」のプロデューサー・植田博樹は、「キャプテンハーロック」が好きで、映画「SPEC結 爻ノ篇」にもドラマ「安藤ロイド」にも、井上をゲスト出演させています。SPECでは声の出演です(田島クイーンエメラルダス令子とのカップリングですよ)。
そして、今回は、こんなにヘヴィな役でレギュラー出演であります。

井上演じる年老いた清太郎は、若いときは、いい仕事して、たくさんの人に尊敬や信頼を勝ち得ていた人物ということで、現在も、時々正気に戻ることもあり、そんなときのかっこよさと、またぼんやり、正気を失ってしてしまうときのギャップを鮮やかに演じています。
さすが、演劇の基礎がある俳優です。例えば戸田恵子もそうですが(この方はすでに声優という認識より女優としての認識のほうが強いですが)ベテラン声優は、たいてい舞台を経験しているんですよね。井上も劇団出身です。

2話の最後、リクライニングの椅子の上で、ポカーンとしている清太郎の姿は強烈に何かを訴えかけてきました。台詞なしで、あの美声が聞こえないにもかかわらず、惹きつけられました。アニメファンとしては、意外な体験であります。
これから、このお父さんがどうなっていくのか、見守っていきたいと思います。

共生することで幸せになれると思っていたのに、いつのまにか変貌し、幸福とはほど遠くなっている家族関係のこわさ。2話では、このお父さんをはじめとして、いろいろなタイプのこわさが描かれていました。

1話で話題になった、「わたし生むから女」(BY渓徳(北山宏光))・美歩(山口紗弥加)は、2話では「いつも見てるから」女に。ターゲットである伊藤淳史(役名は浚介)の行動を常に監視しているらしいことを匂わせます。ほんと、こわいです。このひとの場合は、変化というより進化中な感じですね。

2話でこわかったのは、遠藤憲一演じる刑事・馬見原の妻・佐和子(秋山菜津子)。
ハードな夫の仕事に振り回されて精神を病んでしまったらしい彼女は、入院していた病院から、家に帰ることになりますが、別人のように性格が変貌してしまっています。
治療のためのクスリを飲んで、やたらとテンションがハイになって、派手な服を着て、バレエなんかも習っています。
あえて、夫が気に入らないと思って排除してきたことをして、言い争ったり、話し合ったりしながら、夫婦としてやり直そうという考えなのですが、一方的過ぎて、夫、置いてきぼり状態です。

この人も「いつも見てるから女」美歩も、靴やスリッパを脱ぎ散らかすところが似ていました。そこのとこ、直さないと、男をうんざりさせてしまうよ〜と、よけいなお世話ですが、思います。
脱ぎ散らかし問題以外でも似ているのが、妙に男の行動をチェックしているところ。
馬見原(遠藤憲一)が佐和子(秋山菜津子)の入院中、心の安らぎにしていた女性・綾女(水野美紀)とその子供をつれて富士山旅行に行っていたとき、佐和子は警察に電話して、休みをとっていることを聞いたと、ちくっと夫に言います。何か感づいているのでは? こわい。といった感じです。まあ、彼女は彼女で、可哀想なんでしょうけれどね。

このように、遠藤憲一演じる刑事・馬見原の人間関係も、波乱ありそうです。安らぎ美女・綾女(水野美紀)にも問題があるようで・・・。

「クレームばばあ」こと游子は、2話ではもうチョップしなくて、自分のクレームを反省してしまっていますが、彼女が、赤羽、大森、世田谷、3つの場所で続けざまに起こった家族の無理心中事件に関係しているかも? という物的証拠が出てきて・・・。

さて、7月18日放送の3話では、どんなに身の凍るような家族事情が描かれるでしょうか。
(木俣冬)

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