TBS「おやじの背中」(日曜夜9時〜)の第一話では、田村正和と松たか子が16年ぶりに共演。写真は『父と娘の往復書簡』(松本幸四郎・松たか子著/文春文庫)。幸四郎・たか子親子はお互いを「君」「あなた」と呼びあっていた

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「好きだったのに……ここのもずくの天ぷら」
「まいりましたね。こういうときは瞳子さん?」
「外食はすっぱり諦める!」
「そう! 何か買い物して帰りましょうか」

7月13日(日)から始まったドラマ「おやじの背中」シリーズ(TBS日曜夜9時〜)。10組の脚本家&キャストによる競作の第一話目は岡田惠和×田村正和・松たか子による「圭さんと瞳子さん」だ。

樋口圭太郎(田村正和)は一人娘の瞳子(松たか子)と二人暮らし。
瞳子が小学生のときに妻を亡くし、男手ひとつで娘を育ててきた。
圭太郎のお弁当を作るのは日課。
昼どきになると、圭太郎は自身が経営する小さな照明店から走り出て
瞳子が働くオフィスビルに向かって手を振る。
瞳子は、そんな圭太郎の姿を窓ごしに眺めながらお弁当をひらく。

「圭さん」「瞳子さん」と呼びあい、仕事が早く終わる日には
待ち合わせて外食に出かける。その仲むつまじい様子は
親子というより、年の離れた夫婦のようでもある。

二人が名前で呼びあうようになったきっかけはドラマの後半で明かされる。

「圭さん…今日からそう呼ぶの」
「瞳子さんって呼べばいいんだね。了解、瞳子さん」
瞳子と母親は一緒に交通事故に遭い、瞳子だけが一命をとりとめる。
退院した瞳子は母親と同じように台所に立つ。
そして、母親と同じように、名前で呼びあうことを父親に宣言する。
(圭太郎は妻のことを、ゆかりこさんと呼んでいた)

ドラマの感想ツイートを見ると、
「親子にしては距離が近すぎる」「名前で呼びあうのはちょっと不自然」
と指摘する声もあった。一種の気持ち悪さを感じた人も少なからずいたようだ。
でも、そこにある違和感こそが瞳子が望んだものだったのではないかとも思う。

妻が亡くなったのは30代半ば。
娘はまだ小学生ともなれば、わんさか再婚話が降ってきても何の不思議もない。

「他人が一緒に暮らすなんてうまくいかないと、あの子にとって唯一の家族である私以外と一緒にいようとしなかったんですよ。妻が亡くなってからずうっとね」
圭太郎は“娘が結婚しない理由”として語っていた。でも、それは圭太郎自身が“再婚しなかった理由”でもあったのではないか。

仮に後添え候補が現れても、下の名前で呼びあい、幼妻のようにかいがいしく父親の世話をやく娘をまのあたりにしたら、微笑ましく思うより先に不安を覚えるだろう。気持ち悪いと感じるかもしれない。でも、“第三の女”に家庭に入り込まれたくない娘にとっては、願ったりかなったりである。

父親のほうは、さほど深く考えなかったように思う。
娘が望むのであれば、その望みをかなえようじゃないか、ぐらい。

「何かあったら電話しなさい」が口癖で、実際に駆けつける父親に育てられた私にとって、
このドラマは“父娘あるある”の宝庫だった。
うちでは朝早く起きて弁当を作るのは父の日課だったけど。

娘のことをよろしく頼むとお願いしに行ったつもりが
「じゃあ、瞳子の好きなもの知ってますか?」
「好きな小説は?」
「映画は映画館で見るより、うちで見るほうが好きなんですよ!」
と張り合ってしまう圭太郎。
娘を理解してほしい。でも、理解していると言われると、
「何がわかるって言うんだよ、君!」
と、声を荒げてしまう。わははは、お父さん!

夜を一人で過ごせない瞳子が、恋人と泊まりがけで旅行に出かけるとき、
圭太郎はこう言って送り出す。
「つらくなったら、ちゃんと重松君に頼りなさい
それでも、どうしようもなくなったら圭さんに電話するんだ。
すぐに行くから。車で飛ばせば、そんなにかからない」

そして、ずっと待っている。
電話はかかってこない。メールも来ない。
でも、夜明け近くまで携帯電話を片時も離さず待ち続ける圭太郎の姿が泣ける。

「おやじの背中」第二話は、坂元裕二×役所広司・満島ひかりによる「ウエディング・マッチ」。
まったく違うテイストで濃密に寄り添う父娘が描かれる。

「こっちは27年間捧げてきたんだ!」と娘が吠え、
父親は「あのノックアウトはお父さんの宝物だ」と天を仰ぐ。
予告だけでもう引き込まれる。

今週末、20日(日)9時から放送です。
(島影真奈美)