『高校野球 神奈川を戦う監督たち2 神奈川の覇権を奪え!』(大利実/日刊スポーツ出版社)
王者・横浜に挑み激戦区・神奈川の頂点を狙う監督たちのライバル物語第2弾。

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サッカーW杯決勝戦が行われた7月14日。
神奈川県にある保土ケ谷・神奈川新聞スタジアムには平日にも関わらず、そしてまた県大会1回戦にもかかわらず1万人を超える来場者が詰めかけた。改めて、神奈川の高校野球人気の高さがうかがい知ることができる。

お目当ては、甲子園出場校同士の戦いとなった横浜隼人対横浜商大高という、決勝戦でもおかしくない好カード。試合は最終回に横浜隼人がサヨナラ勝ちをおさめるという劇的な幕切れ。高校野球を語る上で、今年も神奈川の情勢は外す訳にはいかない、と改めて感じることができた一戦だった。

だからこそ、オススメしたい本がある。
『高校野球 神奈川を戦う監督たち2 神奈川の覇権を奪え!』。
昨年上梓され、話題を集めた『高校野球 神奈川を戦う監督たち』の続編にあたる本作は、「神奈川にはまだまだ熱い監督がたくさんいる」という著者・大利実の言葉通り、神奈川県の高校野球を盛り上げ、そして影響を与え合う指導者たちが次々に登場する。

その中では、冒頭で述べた横浜隼人と横浜商大高の浅からぬ因縁も紹介されている。
「今はカベにぶつかっていますね……。あと一歩が勝ちきれない」と吐露した横浜商大高の金沢哲男監督が、そのカベを打ち破るために刺激を受けたのが横浜隼人の体作りだったという。

果たして、その横浜隼人の前に敗れてしまった横浜商大高だが、まさにどちらが勝ってもおかしくない試合展開だったのは間違いなく、成果は少なからず出ていたのではないだろうか。
何よりも、選手だけではなく、監督自身も変わらなければならない、という危機感が、神奈川の高校野球のレベルを一層上に引き上げるのだろう。

そして今日、15日は今春の関東大会で準優勝という好成績をおさめ、シード校としてこの夏を戦う向上高校が登場する。何を隠そう、本書で登場した監督の中で私が一番感銘を受けたのも、向上高校の平田隆康監督だ。

夏の大会前には120名を超える部員全員に手紙を渡し、自分が感銘を受けた本があれば選手全員分の冊数を買ってプレゼントするという気配り力に加え、コメント力も抜群にすばらしい。

「俺も常に自分らしく生きようと心がける。監督という立場は偉い、怖い、強いというイメージがあるみたいだが、ひとりの野球を愛する野球人として、自分を育ててもらった野球の良さを伝えていきたいと思っている。俺もお前たちと一緒に成長できればと思う」

こんな言葉を投げかけられたら、この監督のためにも頑張ろう、と素直に思えるのではないだろうか。
《組織のトップがこれだけの気遣いをすれば、選手はプレーしやすいはずである》と著者・大利は綴るが、まさに、こんな上司が欲しかった!と思わせる人物像だ。

平田監督に限らず、名将と呼ばれる監督たちは、人の心を動かす言葉の力を持っている人たちばかりだ。
本書の「序章」では、昨夏の高校野球の主役の一人、桐光学園の松井裕樹(現・楽天)と野呂雅之監督のやり取りも紹介されている。

昨夏、神奈川県大会で横浜に敗れたあと、野呂監督は松井に「運命はどうやったら変えられるか」というテーマで次のように語ったという。

「運命を変えてくれる人と出会えるかどうか。逆に運命は人との出会いじゃないと変わらないものなんだよ」

本書を読み終えたあと、改めてこの野呂監督の言葉に触れると、神奈川の監督たちの関係性もまた、運命を変えるような出会いの連鎖によって導かれたのでは?と感じずにはいられなかった。

横浜・小倉清一郎コーチからの中華街での野球教室で開眼した平塚学園、八木崇文監督。
横浜隼人・水谷哲也監督から「同じ野球ばかりしていたら勝てない」と教わった横浜創学館の森田誠一監督。
日大藤沢・山本秀明監督から「また神奈川に面倒くさい監督が増えたな」と称された弥栄高校、加賀谷実監督 etc.

頻繁に交流をはかり、いいところは影響を受け合いながら、それぞれのチーム力と野球観を高め合っていく。
《良きライバルであり、良き仲間でもある指導者たちが切磋琢磨し、刺激し合うことで、神奈川全体のレベルが上がり、甲子園での結果にもつながっていくはずだ》と綴る著者の言葉も、また説得力を持つ。

折しも大会前には、これまで神奈川の高校野球を引っ張ってきた横浜高校・小倉清一郎コーチの勇退が発表され、世代交代も注目されている今大会。さらに深く、熱く楽しむためのガイドブックとして、本書『『高校野球 神奈川を戦う監督たち2 神奈川の覇権を奪え!』が最適な一冊であるのは間違いない。

【第1章】八木崇文監督(平塚学園)
【第2章】金沢哲男監督(横浜商大高)
【第3章】平田隆康監督(向上)
【第4章】森田誠一監督(横浜創学館)
【第5章】桑元孝雄監督(武相)
【第6章】加賀谷実監督(弥栄)
【第7章】川村靖監督(湘南)
【特別編】荒井直樹(前橋育英)

(オグマナオト)