『ペテロの葬列』 TBSの2014年7月期月曜ミステリーシアター。原作宮部みゆき。主演小泉孝太郎。

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長塚京三、すごいねー。
すごい説得力。
銃を運転手につきつける。誰もホンモノだと思わず「そんな、おもちゃ、とっとと引っ込めろ」と声が飛ぶ。
天井に向けて発砲。
静まり返るバス車内。
「わたしは本気なんです」
と言った後の冷静でありながら少し歪んだ笑い顔。
すげー。
乗客は7人。女性運転手。そしてバスジャック犯。
佐藤一郎(長塚京三):バスジャック犯。
前野メイ(清水富美加):パティシエになりたいと思っている少女。
坂本啓(細田善彦):大学中退の青年。
田中雄一郎(峰竜太):金属加工業の社長。
迫田とよ子(島かおり):老人ホームを訪ねた帰りの老婦人。
柴野和子(青山倫子):運転手。
園田瑛子(室井滋):広報室編集長。
手島雄一郎(ムロツヨシ):その編集部員。
杉村三郎(小泉孝太郎):その副編集長。
計9人。

月曜ミステリーシアター「ペテロの葬列」第1話は、ほぼバスジャックのワンシチュエーション、緊迫の2時間。
宮部みゆきの原作のもつスピリッツをていねいに掬い上げて描いた良質なドラマでした。
「名もなき毒」に続き、キャスティングがばっちり。
これ以上ないハマりっぷり。
脇役でありながらドラマでは妙な存在感のあった「睡蓮」のマスター水田大造(本田博太郎)。
原作『ペテロの葬列』でぐっと活躍シーンが(後半にちょっとだけどね)増えて、これって、宮部さんがドラマに逆に影響を受けたんじゃないかって思ったり。
原作とドラマの違和感が、ほんとない。
主人公の杉村三郎を演じる小泉孝太郎は、宮部みゆきさんのイメージ通りだとか。

今回の第1話、原作とドラマの一番大きい違いは、手島雄一郎・テッシーの存在。
原作では登場しないのだが、ドラマでは一緒にバスに乗っている。
テッシーの将来の夢がカフェをやることってのも、わかったりしてwww

小説は、杉村三郎が語り手なので、彼の心中が描かれる。
が、ドラマではそうはいかない(ボイスオーバーで心中を語る方法はあるのだが、あまりやりすぎるとくどくなる)。
それを映像的な視点にうまくアレンジし、テッシーにいくつかのセリフを受け渡して会話を交わすテンポをあげた。
バスジャックという異常事態でありながら、みんなが犯人にのせられて奇妙な連帯感やほのぼの感まで醸しだしてしまう。
むずかしいニュアンスと展開を描き出した。

第1話2時間スペシャルでバスジャック事件は終結する。
一件落着。といいたいところなのだが、落着しない。
ここからキーになるのは、慰謝料だ。
人質となった人たちに慰謝料を送ると犯人は約束した。
そのお金は、本当に届くのか。
人質だった者たちは、そのお金をどうするのか。
さらに、バスジャック犯の目的は何だったのか。
彼が連れて来いといった三人は何者なのか。
「あたし、あなたのような人を知ってますよ。嫌いだから、すぐ分かるんです、あなたの同類」と犯人に言い放った園田編集長は何に気づいたのか。何を知っているのか。

そういった謎に迫るなかで、また思いもかけない事実が浮かび上がってくる。
というか、原作を読んでいると、
あのあのあのあのあの後半の展開に俺は耐えられるのか、
どれだけショックを受けるかなどと怯えながら、
同時に、観たひとの反応やいかばかりかということを楽しみにすらしている。
原作『ペテロの葬列』のAmazonレビューをみれば(ってもネタバレ多いのでレビューを先にみないほうがいいけど)、賛否まっぷたつ。
でも、否の意見は「小説がつまらなかった」という冷めたものじゃない。
物語世界に感情移入しまくった読者がその驚愕の展開に理性を完全に失っていて「許せない」と作者に抗議しているタイプ。
原作の持つ力が(毒が!と言っていいかもしれない)、どれほど読者の感情を揺さぶったのかっていうのが★1の評価から逆に伝わってくるのだ。
ドラマを観るみなさんも心して観るがいいよ、と脅しとくねー。
あと、ネタバレされちゃわないためにも、そして観てるほかのひとと気持ちを共有するためにもリアルタイムでドラマ観るほうが楽しめると思うよ。
「ペテロの葬列」月曜夜8時からです。(米光一成)