『DVD映像で蘇る高校野球不滅の名勝負 vol.1 2006年夏決勝早実VS駒大苫小牧』(ベースボール・マガジン社分冊百科シリーズ)。以降、毎月2日に刊行予定。創刊号のみ1,000円(税込)。2号目以降は1,620円)

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1924(大正13)年8月1日に誕生した甲子園球場。
つまり2014年は甲子園生誕90周年のメモリヤルイヤーにあたる。それだけに、本屋のスポーツコーナーを眺めると「甲子園名場面」「甲子園トリビア」などの「高校野球を振り返る」系の企画が目立つ。

どれもこれも読み応えがあるし、それぞれに切り口が違っていて面白いのだが、高校野球の記憶は球児たちの躍動もさることながら、打球音や甲子園に響く歓声、実況アナウンサーの名言、解説の○○さん、ブラスバンドなどなど、音や映像も含めた記憶として心の奥底に刻まれていることが多い。

そこでオススメしたいのが、今月創刊された
『DVD映像で振り返る 高校野球不滅の名勝負』全12巻。
朝日放送の甲子園中継を再編集し、さらに試合の裏側に迫るインタビューや検証記事をベースボール・マガジン社が制作するという、夢のダッグが実現したのだ。

振り返れば、これまでにも同様のタイトルはあった。
たとえば、朝日放送が5年ごとに制作する『夏の甲子園 不滅の名勝負』シリーズ。
ムックや書籍でも同様の企画は多いが、最近でいえばベースボールマガジン社が昨年『甲子園名勝負物語50』を刊行している。

甲子園大会、高校野球を語る上で外すことのできない2社がタッグを組んだ、いわば甲子園の思い出決定版。その創刊号『2006年夏決勝早実VS駒大苫小牧/ハンカチ王子VS北の怪物』からしてやはり見どころ満載だ。

タイトルからもわかる通り、2006年夏(第88回大会)の決勝戦、早稲田実業対駒大苫小牧の延長引き分け・再試合の2試合が、映像(66分)と読み物(34ページ)で振り返ることができるようになっている。

この手の企画で陥りがちな斎藤佑樹と田中将大の比較論で終わることなく、一歩踏み込んだ企画になっているのがさすが。たとえば、両チームのキャプテン(早実:後藤貴司、駒大苫小牧:本間篤史)の証言で試合を振り返ることで、ベンチ裏の事情も含めた試合の分水嶺を窺い知ることができる。

これまで、映像系の企画で消化不良だった「勝負の肝」をしっかり押さえつつ、読み物系の企画でモヤモヤが残った「こう書いてあるけど、実際はどんな場面だったっけ?」という部分も解消できてしまうのだ。

個人的には、「マー君がヘッドスライディングする場面なんかあったんだ」ということを今更ながら知ることができたし、地区大会まで田中がキャプテンだったのに、甲子園ではメガネの本間君にキャプテンが変わったのはなぜだったんだ?と疑問も、本間キャプテンの証言で氷解することができた。

また、球史に残る名実況「甲子園のエース。紛れも無い、君だ、斎藤佑樹!」も、実際には歓声でかき消されていてほとんど聞こえなかったのが驚きだった。おそらく、その後「熱闘甲子園!」の映像などで何度も「音声調整済み」のニュース映像を見たことで記憶が固定されていたのだろう。

こんな充実の企画がこれから1年間、毎月楽しめるとは。
というわけで、毎月2日に登場する次号以降のラインナップはこちら。

第2号/1983年夏・決勝:PL学園vs横浜商〜怪物1年生・桑田&清原
第3号/1979年夏・3回戦:箕島vs星稜ほか〜板東・村椿 白熱の延長・名勝負
第4号/2010年夏・準決勝:興南vs報徳学園〜興南、沖縄初の春夏連覇
第5号/2007年夏・決勝:佐賀北vs広陵〜逆転満塁弾の「がばい旋風」
第6号/1996年夏・決勝:松山商vs熊本工〜奇跡のバックホーム
第7号/2003年夏・決勝:東北vs常総学院〜怪物ダルビッシュ東北勢の悲願届かず
第8号/2009年夏・決勝:中京大中京vs日本文理〜9回二死からの脅威の粘り
第9号/2004年夏・決勝:駒大苫小牧vs済美〜北海道勢初制覇
第10号/1992年夏・2回戦:明徳義塾vs星稜〜ゴジラ松井5打席連続敬遠
第11号/記憶に刻まれた名投手たち〜江川卓、荒木大輔ほか
第12号/1998年夏・準々決勝:横浜vsPL学園〜延長17回、平成の怪物・松坂250球完投
(※創刊号のみ特別価格1000円で、以降は定価1,620円)

90年代後半〜2000年代前半に偏り過ぎじゃないか?とか、 70年代・80年代の名勝負がもっと見たいなぁ……という不満はあるものの、それでもやはり楽しみなラインナップであるのは間違いない。

それぞれの巻末には「甲子園熱球史」と題した、第一回大会(1915年)からの資料集も充実。
売り上げ好調なら空白部分も続々続刊されるかも。期待しています。
(オグマナオト)