映画「DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う」パンフレット
昨年大晦日の紅白歌合戦で突然卒業を発表した大島優子が、6月にグループを去るまでの過程を軸に、研究生やドラフト生など新人たちがグループに溶け込もうとする様子などを通して、絶えず変わり続けるAKB48の姿を伝える。

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「AKB48は簡単な場所じゃありません」
去る6月に行なわれた「AKB48選抜総選挙」で2位になった指原莉乃(HKT48)が、その開票イベントでのあいさつのなかで口にした言葉だ。AKB48のことを、組織などといった言葉ではなく「場所」と表現しているのが興味深い。実際に在籍する彼女たちにとって、活動をともにするメンバーが絶えず入れ替わり続けるAKB48は、やはり場所以外の何物でもないのだろう。そんなことを、先週末に全国で上映の始まった映画「DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う」を観て、あらためて思った。

「DOCUMENTARY of AKB48」は2011年以来シリーズ化され、毎年1作のペースで公開されてきた。高橋栄樹監督にとっては、これが同シリーズ3作目にあたる。高橋が初めてメガホンをとった2012年版では、前年の震災直後のグループの動向のほか、まるで戦場のようなコンサートの舞台裏を描いて波紋を呼んだ。続く2013年版では、恋愛問題などさまざまな理由からグループを離れたメンバーにもスポットを当てたことが特筆される。さて、今年はどんな切り口となるのか? 高橋は《過去2作品で良くも悪くもフォーマットができすぎてしまったという反省もあり、今回は違うやり方でアプローチしないといけないなとは思いました》と本作のパンフレット所収のインタビューで語っている。

高橋の言葉どおり、本作はシリーズのこれまでの作品とは趣きがだいぶ異なる。従来の「DOCUMENTARY of AKB48」が1年間を振り返る形になっていたのに対して、今回とりあげられるのは、昨年11月の「AKB48グループ・ドラフト会議」から、まだ記憶も新しい6月の選抜総選挙および大島優子の卒業セレモニーまでの実質半年間と短くなった。ファンとしては、昨年6月の日本武道館でのAKB48グループの研究生コンサート、さらに夏の5大ドームツアー、そのなかで行なわれた篠田麻里子・秋元才加・板野友美の各卒業セレモニーなど、ほかにも入れてほしかった映像はもちろんある。だが、それらはDVDにもなっていて見られるわけだし、あんまりあれこれ詰めこんでも、テーマがぼやけてしまったことだろう。あくまで現在進行形ということにこだわった監督の判断は賢明だったと思う。

コンサートなど大きなイベントとあわせて、その舞台裏や練習中でのメンバーたちのさりげない光景を収めるのは前作までと変わらないが、今回はとくに後者に印象深いシーンが多かった。たとえば、あるコンサートの舞台裏、AKB48のチーム4の前田美月と岡田奈々が一緒にいるところへ、指原莉乃が現れ、ステージでの前田の活躍を褒める。憧れの先輩からの思いがけない言葉に感激する前田。それに岡田も「よかったね。ちゃんと見てくれてる人はいるんだよ」と一緒になって喜ぶ。……って何だ、この岩井俊二の映画にでも出てきそうな一コマは! 岡田はそのあとにも、チーム4で一緒だった内山奈月(現在はチームB)と登場する場面があり、そこでのやりとりがまたいい。私にとってはこの場面が本作のベストシーンだ。

今回の撮影では、高橋監督がじつに15年ぶりに自らカメラを持ったという。その位置も、《メンバーの隣に自分もいるような体感をしてもらいたかったので、メンバーのすぐ横とか肩越しとかで》《みんなから『近すぎです!』なんて文句を言われつつ》撮ったのだとか(映画パンフレットより)。そう語るだけあって、今回はいつになくメンバー同士の関係に踏み込んだ場面が多い。

先の場面のほかにも、大組閣祭りでともにAKB48から名古屋のSKE48への移籍が決まった佐藤すみれと岩田華怜のやりとりは、先輩・後輩の関係の深さを強く印象づけた。家庭の事情などから移籍を断念せざるをえなかった岩田は、結局一人で名古屋に行くことになった佐藤に「すみれさんと一緒に行きたかった」と泣きじゃくる。これほどまでに岩田が佐藤を慕っていたとは知らなかった。

「大組閣祭り」は、グループ内の各チームがそれまで築いてきた結束を崩してしまうのだから、ある意味残酷なイベントともいえる。しかし、AKB48が姉妹グループも含めてこれほどまでに巨大なものになると、新陳代謝がなければ、いずれマンネリ化してしまうであろうことは当然予想される。先輩・後輩・同期とメンバー同士がチームで深めた絆は一生変わらないだろうが、彼女たちの活躍する場所は絶えず変わり続ける。それこそがAKB48なのかもしれない。

そこへ来て、AKB48という場所を揺るがす大きなできごとがあった。言うまでもなく、去る5月に岩手県内での握手会でメンバーが襲われた事件だ。同事件についてはすでに、当エキレビ!でも青柳美帆子が、映画でどのように描かれるのか懸念する記事を書いている。これまで「DOCUMENTARY of AKB48」では、数々の理不尽な場面に遭遇しながらも、それを乗り越えてゆくアイドルの姿を伝えてきた。だが、今回の事件のように《「いきなり赤の他人に傷つけられる可能性がある、しかもそれは本人に全く非はなく、避けるのも難しい」……そんなつらい現実を描いても、メンバーの内面になんらプラスにはならない》と青柳は疑念を呈したのだ。

はたして実際に映画のなかで事件はどう描かれたのか? 私が観たかぎり、メンバーたちが事件を内面的に克服するということよりも、むしろ事件によって一旦は断たれたメンバーとファンとの関係が修復されていく過程を追うことに重点が置かれていたように思う。

そのことは、メンバーたちが事件後初めての劇場公演に、ファンのためにと臨んだ場面もさることながら、やはり事件後初めてとなる被災地訪問で、それまでしばらく自粛されていたメンバーとのハイタッチが、子供たちを相手に再開される様子に象徴的に表れていた。事件が被災地で起こったことを思えば、それも当然だろう。事件直後のインターネット上での反応として作中、メンバーたちが何度となく訪れている岩手県山田町のご当地ヒーロー・マブリットキバの《「今度はわたし達がメンバーを守る番ですね!」と町の方々は言った》というグーグルプラスへの投稿がとりあげられていたのも、胸を打った。

どんなアイドルもファンなしにはありえない。ファンもまた、AKB48という場所を形成し、維持されていくためには欠かせない存在なのだ。今年の「DOCUMENTARY of AKB48」は、そんな当たり前のことを再認識させてくれる。
(近藤正高)