ボンテージやSMのイベント、セクシャルマイノリティカルチャーイベント、オタクイベント、分類不能の表現のイベントまで。『アンダーグラウンドイベント 東京』は、東京で行われるマイノリティカルチャーのイベントの写真と情報を掲載した、イベントガイドブック。初心者の人はもちろん、主催者インタビューも多いのでイベントに詳しい人でもしっかり楽しめる一冊。

写真拡大

CAY:逃げ場という言葉はおかしいと思うんです。むしろ、ようやく見つけた自分の居場所ですよね。
フクサコ:居場所がメジャーな世界になかったということですね、ただ単に。こっちにあった。どこにあったかだけの問題だとおもう。ただ圧倒的にそういう場は少ないから、見つからないと不幸だなと思う。

ほっとできる居場所を見つけるのって、本当に難しい。
まして、自分がマイノリティな趣味の持ち主だとしたら。
今はネットがある分気持ちは楽だけど、やっぱり直接人に会いたい。

『アンダーグラウンドイベント東京』は、主に東京で開催されているアンダーグラウンドなイベントの写真と紹介をしている、写真集&ガイドブック。

違法なイベントガイドではありません。
お酒が出るため18禁なイベントもありますが、決して風俗ではありません。
その上で成立している、イベントの数々です。

この本では「アンダーグラウンド」を、大きく5つに分けています。
「フェティッシュ」:セックスではない性的エロス文化。SM、ボンテージなど。
「アンダーグラウンド」:タナトスベクトルの文化。ゴス、デス系音楽、エログロなど。
「セクシャルマイノリティ」:同性愛、異装などマジョリティではない性文化。
「オタク」:アニメ・マンガを主体に愛情表現を示す文化
「サブカルチャー」:その他雑多な、メインカルチャー外の文化

単純な線引は難しいです。
ただ、みんな何かに特化して強い信念を持っている。それを「アンダーグラウンド」という言葉で理解するために、この本ではあえて分けています。

例として、本に取り上げられているイベントをいくつか挙げてみます。

まずは『女装ニューハーフ プロパガンダ』。
毎月最終土曜日に開かれる、女装子(じょそこ)やニューハーフのためのイベントで、300人以上が集まります。
キャバレー風の洒落た空間に、もう女性にしか見えない男性がいっぱい。
女装をした人が多く集まるので、逆に本物の女性は「純女(じゅんめ)」と呼ばれる、そんな空間です。

次に『東京ゲイナイト』。
毎月第一土曜日に開かれる、新宿最大のゲイイベント。女性はごめんなさい。
基本的にショータイムメイン。ドラァグクイーンやテキーラボーイが会場を盛り上げます。
ノンケの人は、行っても大丈夫かな……と考えるかもしれませんが、そこはこう書かれています。
「ゲイの人たちも相手を選びます(笑)。あなたが選ばれると思っているなら自意識過剰ですよ」おっしゃるとおりです。

サブカル・フェティッシュ系の総合デパート『デパートメントH』は、毎月第一土曜日開催。
ほんとジャンル分けのしようがない、なんでのありの場所です。
女王様と奴隷もいれば、全身タイツやドーラー(キグルミ)の集まりもいるし、ラバー愛好家も集まれば、キャットファイトやサスペンションにSMショーもある。
クラブとは違い、音楽を延々流すでもなく、お酒の販売もない。
「面白いものがあればいい」という考えで開かれるイベントです。

オタクの祭典として、欠かせないのは『コミックマーケット』。夏冬二回。
超有名でケタ外れに大きいです。ただ「非日常」な空間で、コスプレしたり、好きなものに対してのコロニーを作ったりと、「好きなことをする」精神は何より強い。
他のアンダーグラウンドイベントは比較的「見に行って面白い」のに対し、コミケは「ここにフラっと来ても、正直あまり面白くない」。むしろ並んでばっかりで苦痛。
うん、変なイベントよね。でも楽しい。

他にもコルセット愛好家の集いや、人体改造やタトゥーのショー、女性がSで男性がMのみの空間、無料のアニソンダンスパーティー。
ものすごく多様な価値観があり、頻繁にイベントが開かれているのがわかります。

この本は「アンダーグラウンド」のイベントに対して、二つ大きなテーマを持って作られています。
一つは壁を打ち破ること。
女装イベント「プロパガンダ」主催のMOCAはこう語ります。

MOCA「仮にメガネをかけるのが恥ずかしい世の中だったら、そういう人たちが集まってカルチャーをつくることになる。でも実際は、メガネをかけるのは恥ずかしくないから、「メガネカルチャー」ってものはないですよね? 女装カルチャーがあるのは、女装の人たちがほかでは行きられないから集まってカルチャーを形成している。そうじゃなくて、一般と女装カルチャーの境界線がない方がいいと思ってます。」

新しい文化に触れるのが、様々なイベントです。
文中では、イベントに行くことを「言葉の通じる海外旅行」と称しています。

もう一つは居場所を見つけること。
やっぱ趣味嗜好で生きづらいこともある。
でも非日常で自分の求めていたものに出会えたら「生きていてもいいんだ」って思えるかもしれない。

興味があるだけの「なんちゃってアングラ」だって、自分のスピリットを広げていくんならそれでいいじゃないか、とも述べられています。
新しい、今の形の「アンダーグラウンド」観が見て取れる一冊です。

にしても、まあドラッグは問題外として、タバコやお酒にもルールを設けたイベントが多いのには驚きました。
そうよね、みんな酔いたいわけでも、ナンパしたいわけでもない。
イベントを楽しみたいんですものね。

フクサコアヤコ、Photo'Gate 『アンダーグラウンドイベント東京』

(たまごまご)