『モデルグラフィックス』12月号は、プラモを元に船の解説をした、とてもわかりやすい艦これ特集号。史実解説盛りだくさん。読み応え満点すぎる楽しい一冊。

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『モデルグラフィックス12月号』の、40ページに及ぶ艦これ記事は、見事だったなあ……。
実は「艦これに関係する記事の載っている本を全部買おう!」と、最初思っていたんです。
今、挫折し始めています。
多い上に、競争激しすぎる……(悲鳴)

定点観測していると、「艦これ」を記事にする時、ゲーム部分だけを記事にしづらいというのがわかって来ました。
なぜかというと、どうあがいても公表できない・わからない部分が多すぎるからです。
たとえば建造レシピ。250/30/200/30でレア駆逐艦が出る確率が高い、なんてよく言われますが、これは紙媒体に載せられない。「絶対」ではないので、「出ないじゃないか!」と言われても仕方ないから。プレイヤーがデータを集積して、大体何%みたいなのまで出していますが、そういうみんなで情報収集してwikiを作っていくのも楽しさの一つなので、そこは攻略として書けません。
中破で轟沈するのかしないのかすら、それ一つ書くだけで艦これユーザーは大きく揺れてしまいます。
攻略を書くとしても、多分チュートリアル+陣形などの細かい部分解説+用語解説どまりでしょう。
それでも、梯形陣とかわけわかんないですからね。
自由度において同人誌やネット攻略記事に、どうやっても勝てないんです。

ではどうすればいいのか?
三つに方向はわけられます。
1・艦娘のキャラクターにスポットを当てた、萌え路線
2・イラストやマンガでストーリーを追っていく路線
3・ガチミリタリー解説を入れていく路線
あとはインタビュー。ゲームに近い部分の話はインタビュー記事を読むのが一番です。
1は『娘タイプ』などを中心に絶賛展開中です。2は『コンプティーク』で正式にコミカライズがスタート。アンソロジーをはじめ今後もコミカライズはガンガン増えるでしょうし、その余地のあるゲームです。
で、3です。これが難しい。
やるならガチミリタリー系雑誌が最適なのですが、ミリタリー雑誌での常識は、新規で始める人には通じづらい。あと艦船の写真は古いものはそこまで揃ってるわけでもない。イラストで乗り越えていくくらい。

これを華麗に飛び越えたのが、ガルパンで波に乗っている『モデルグラフィックス』の12月号です。
艦娘絵は既存のものしか載っていませんし、全部は掲載されていません。
史実写真もほとんどありません。
でもこの雑誌は、模型雑誌です。
艦船のプラモデル写真をモデルに、細部を解説するというアプローチで、艦これの深いところに迫った。
これが、めちゃくちゃわかりやすい。

例えば「九四式爆雷投擲機」とか「21式対空電探」とか「12cm30連装噴進砲」とか、開発装備パーツって今までほとんど触れられませんでした。
それを、「プラモデルのこの部分」と写真を見せて、詳しく解説を入れています。「えっ、こんなところにつけてたの?」みたいな発見も、あると思います。
仕組みがわかればゲームにそれが反映されているのも理解できるというもの。わかりづらい「艦上戦闘機」「艦上攻撃機」「艦上爆撃機」「艦上偵察機」「水上偵察機」「水上爆撃機」の違いも、元々がなんなのかの仕組みがわかれば、ゲームでの運用もできるようになります。

なんで夜戦は攻撃力があがるの?なんていう豆知識も山ほど。ゲームでの細かい設定それぞれには、ちゃんと意味があります。
その他にも、ここぞとばかりに「駆逐艦とはなにか」「軽巡と重巡の違い」などのミニコラムもごっそり掲載。艦娘の最上を例にした重巡解説を見ると、いかにゲーム内の絵がこだわっているのかもよくわかります。

そして、最も参考になると思うのが、「海域」と「陣形」の解説。ゲーム内の「鎮守府海域」「西方海域」などの元ネタをしっかり解説。
なぜ3-2は駆逐艦のみでクリアしないといけないのか、単縦陣が攻撃力が高く、単横陣が防御型なのかを、艦の動きを説明しながら、しっかり解説しています。同航戦、反航戦、T字戦の意味も、詳しくない人でもわかりやすく解説。うーん勉強になる。

その他にも「ハイパー北上さまの五連装魚雷発射管は史実にはない夢の装備」とか「日本各地の鎮守府探索」とか、台詞やイラストから元ネタを推察とか、実に自由にのびのび書いています。
「プラモデル大作戦」というフローチャートでは、1つ目の質問が「FXってなんやねん。」。艦これプレイヤーなら、なんのことかお分かりですね。
「フローチャートがアテにならなくても那珂ちゃんのことは嫌いにならないでください!」
やりたい放題だな、おい!

さて問題のプラモデルですが、『モデルグラフィックス』を読んでいる人仕様なので、慣れてないと「こんなの作れるわけないよー!」というものばかり掲載されていて、心折れるかもしれません。
というか折れかかりました。だよねー船は難しいよね……。作れる人尊敬します。
でも一生に一度はこのくらい作りたい。少しでも近づきたいんだよあの領域に。今は無理だけど。
そんな魅力に溢れているので、見て損はないです。憧れます。
どこか、艦船プラモ素人向けムック出してくれませんかね……。

田中謙介:艦これを支え、育てていただいたのは艦これをプレイし、その感想、イメージしたイラストや自作の漫画、さまざまな形の紹介動画などを作り、再発信してくれた提督の方々です。(中略)艦これの影響もあって、艦船模型が模型売り場でもその存在感を盛り返しつつあるとのこと。艦これの発想のひとつのベースとなったものに少しでも恩返しができたなら、本当にうれしいことです。
(モデルグラフィックス12月号より)

この本は、執筆者が艦船プラモ大好きすぎるのが伝わってきて、楽しいです。
本物の戦艦三笠(時代的に艦これに出てきませんが)を見て「700倍でかい!」っていうのに笑いました。そうね、普段1/700ですもんね。ネットでよく使われるコネタもさり気なく挟まれています。
『モデルグラフィックス』のこの「プラモデル中心に史実紹介とディティール、作り方を紹介する」という切り口は、今後他の艦でもできるので、シリーズ化できそうな幅の広がりを見せています。
是非今後もノリノリでやってほしいところです。
ガルパン特集も今後もお願いします。

『モデルグラフィックス12月号』
(たまごまご)