食通気取りはめんどくさい、ゆっくりご飯を食べさせろ!『私のご飯がまずいのはお前が隣にいるからだ』は、食通がウンチクを語るがゆえに落ち着いて飯を食えないあるあるを描いたマンガ。でもなぜか読み終わると楽しかった気分になるのはなんでだろう? それにしてもサユちゃんはかわいい。

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けしからん!
美味しいものは、ゆっくり楽しみながら味わいたいんだよ。
それなのになんということだ。
『私のご飯がまずいのはお前が隣にいるからだ』で描かれるのは、食事の際に横でウンチクを語る食通気取りがいる、という食欲をそそらないシチュエーションばかりではないか。
なんと気が滅入る漫画なのだ!
なのになんでこんなに面白いのだ!

例えばとんかつ。あの脂っこさとサクサクジューシー感が実にたまらない。
だが横に、自称食通のとんかつうんちく語りがいると、途端に食事が嫌なものになる。
「レモンなんかかけちゃったらせっかくの衣のザクザク感台無しだよねー」
「レモンによりサッパリキャラ30%増しで輝くみずみずしいキャベツは、飯屋における救世主!」
あー! 鬱陶しい! 黙れ食通かぶれ!
お前が隣にいるからせっかくのご飯が美味しくなくな……あれ、でもおかげで改めて美味しさが、悔しいけど分かるような……いや、くどい!うざい!いい加減にしろ!

うんちく語り系食通と食べる食事は、実によろしくない。
こちらはリラックスして、食の一時を味わいたいのだ。
なのにやれ、「カレーにお水はお出しできないんですよ……そもそも食事中に水を飲むという行為は胃酸を薄めムダに身体に負担をかけることです」だ? カレー辛いんだから水出せよ!
あ、でもちょっと身体の新陳代謝良いような……いやそれはさておきだな!

蕎麦屋にいけば蕎麦通気取りのおっちゃんが「どっぷり浸すのはご法度だ、つけんのはほんの先っぽだけ、オレに言わせりゃ濃い店のつゆだったら3割だってつけすぎだ、半分以上も浸しちまった日にゃ蕎麦が土左衛門であの世逝きだ」と「わかっちゃいねえ」と語りだす。
やかましい! 好きに食べたいだけんだこちとら、え?!
あ、でもワサビを蕎麦に直づけですするってのはちょっといい……いやそれはそれだ!
ああ、げに面倒臭き、「ゆっくり食べたい時の食通のウンチク」。

そうとも、この作品イヤミな出来事しかない!
……だが、読むと意外にイヤミがないどころか、読後感が実にいい。
ヒロインのOLサユちゃんがかわいらしくて、こんだけ嫌なことにあっているのに美味しいものを一人でも食べに行くパッションにあふれているのが、まずひとつの理由。
なんせ食通のおっちゃんに囲まれても負け……てるけどめげない。

もう一つは、食通達がどんなに面倒くさいことを言い出そうとも、結局はそれは食べ物への愛で、最終的においしいものへの理解が深まる作りになっているからだ。
よくできているのは11話。餃子のヒダにやたらこだわる父親と、そんなの割とどうでもいい母親がバトルを繰り広げる。
ぶっちゃけ、父親の餃子のヒダのウンチクなんてどうでもいいのだ。最終的にうまければ。母親というカウンターで「割れ鍋に綴じ蓋」となり、大団円。餃子も美味しそうだ。結果オーライである。

一度は体験したことがあるであろう、「食通気取りの、聞いてもいないウンチクを聞きながらの困った食事」。できるなら避けたいシチュエーションだ。
この「あるある」をうまく再現しながら、最後うまく「やっぱおいしいよね、おいしいんだよ」とまとめる技量、見事というしかない。
なんだかんだで、ヒロインも本当に腹が立つ時は、漢らしくバッサリ成敗するから、実に気持ちいい。

うーんけしからん。実に美味し……けしからん漫画だ。
こんな漫画があるのならば、続きを読まないわけにはいかないではないか。
次の一杯、よろしく頼む!

いのうえさきこ 『私のご飯がまずいのはお前が隣にいるからだ』

(たまごまご)