好辞苑 知的で痴的で恥的な国語辞典の世界』(高井ジロル/幻冬舎)
名だたる辞典で、あの性表現はどう説明されているのか? いわば、ベストセラー『新解さんの謎』の下半身版。

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中学時代、友達から辞書を借りたとき、「S○X」やら「○enis」やらのページがなぜかめくりやすかったり、線が引いてあったりすると、「お前もかぁ」と妙に安心したことがあるのは私だけではないはず。いや、みんなあるよね、ね、ね?
地図帳で最初に探す島はエロマンガ島だったよね?(ちなみに最近の地図帳では「イロマンゴ島」という表記が主流らしい。以上余談)
まさに中2男子的なこの行動を、さらにアカデミックにつきつめて本にしてしまった愛すべき大人がいる。
高井ジロル『好辞苑 知的で痴的で恥的な国語辞典の世界』。

『広辞苑』『大辞泉』『大辞林』『広辞林』『言泉』『新明解国語辞典』などなど、日本を代表する22の国語辞典の中から「中2男子目線」で“いやらしそうな”言葉を片っ端からリストアップ。その語釈を比較、検証して味わい尽くそうという一冊だ。
「エッチ」「合体」「ふぐり」「陰茎」「インポ」「コンドーム」「ちんちん」「ダッチワイフ」「69」「ちんちん」………いやぁ、中2全開!

エロワードがひたすら並びつつもアカデミックな考察もあって、少し知的な気分になれるのが嬉しいポイント。
例えば、「巨根」はいくつかの辞書に記述があるのに「巨乳」はどの辞書にも載っていないという。
意外に思うと同時に、日本人の巨乳信仰はここ最近のことなんだなぁと無駄にいろんな思いを馳せてしまう。
あ、でも「ボイン」はいくつかの辞書に載っているらしい。なんだよその採用基準。
ちなみにその「ボイン」の語源は、大橋巨泉が深夜番組「11PM」で朝丘雪路の胸を見て言ったのが最初、というのは有名なエピソード。だが、どの辞書にもその語源の説明は載っていないんだとか。

私が好きなのは「勃起」の項。いや、勃起が好きなわけじゃないですよ。
・[興奮して]ペニスが立つこと。エレクト。(『三省堂現代新国語辞典』三省堂)
エレクトをセレクトした編者が誰なのかを知りたくる。
他には、
・急に力強く起つこと[狭義では、合体を思い、陰茎が伸びて堅くなることを指す]
これは『新明解国語辞典』の第四版。これが第五版になると、
・急に力強く起つこと[狭義では、性的衝動にかられるなどして、陰茎が伸びて堅くなることを指す]
と微妙に変わってくるのが面白い。
著者調べによると、『新明解国語辞典』では他のエロワードの説明でも「合体」の使用が版を重ねるごとに淘汰されているという。「釣りバカ」での合体シーンの減少と関係が? なんてことも邪推したくなってくる。
また、この「[興奮して]ペニスが立つこと。エレクト。」を紹介しつつ、実は「勃起」が使えるのは陰茎だけではなく、本来はたんに「力強く起つこと」で「勃興」と同じ意味であるとして、『現代国語例解辞典』に掲載されていた用例《愛国心が勃起する》を紹介。
愛国心といえば、選挙。つまり、どちらにせよ「エレクト」に繋がってくる……という連想ゲームは実に馬鹿馬鹿しくて、今後選挙のたびに「勃起」を思い出してしまいそう。

本書を読むまで私が誤解していたのが「ふるちん」。「ふりちん」の方が主流なんですね。
そして「ふるちん」と憶えていたからか、てっきり「フル(full)」に「ちん」を出しているから「ふるちん」なんだと思っていたのだけど、語源から考察すると「振り」「ちん」説が優勢なんだとか。
《「セミヌード」ではない「フルヌード」な「丸出し」感を優先させたいという意図が働いたんだと思いますが、「fullちん」では「フルに勃起したちんちん」とも捉えられますので、やはり「振りちん」「振るちん」説のほうが近いだろう》
いやぁ、勉強になります。

巻末にある「本書で登場しないその他のエロ用語」もあわせると、実に100以上のエロワードをこれ一冊で堪能することができる。
もちろん、それらは全て辞書に載っていたということ。
日本人、昔っからどんだけエロワード好きなんだよ!

(オグマナオト)