台風接近の中、福岡から記者会見に飛んできた小説家・三崎亜記/1970年生まれ。2004年、『となり町戦争』で第17回賞小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー。これまでの著書に『バスジャック』『失われた町』『鼓笛隊の襲来』『廃墟建築士』『コロヨシ!』『逆回りのお散歩』などがある。幻冬舎刊の最新作は『玉磨き』。その続編とも呼ぶべき『イマジナリー・ライフレポート』を「au ブックパス」で連載する。

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「私が20年来のauユーザーだから、白羽の矢が立ったんですかね?」

『となり町戦争』『失われた町』『鼓笛隊の襲来』など、日常の中に潜む非日常を描いた作品で人気の小説家・三崎亜記の新作記者会見が、10月15日、渋谷ヒカリエで行われた。
小説家が新作を書くのに記者会見? この意外なシチュエーションが生まれた理由は、発表媒体が「au」だから。
この秋、KDDIと幻冬舎とのコラボレーション企画として、三崎亜記の新作小説『イマジナリー・ライフレポート』がauの電子書籍ストア「au ブックバス」で配信されることとなった。
本日10月16日から配信スタートされるのが、その第1話「正義の味方」の前編。以降、2014年12月までに全6話(計12回)が随時配信される予定となっている。

「au ブックバス」とは、約130の出版社が保有する7,000冊超、金額にして約300万円相当の小説・コミック・写真集・雑誌などが月額590円で読み放題となるサービスだ。
(※Android版の数字。iOS版は総額2,400冊以上、約100万円相当分のコミック・写真集・雑誌が読み放題。また、好きなタイトルを一冊ごとに購入する「アラカルト購入」のプランもある)

三崎自身、普段からスマホでニュースを読む一方で、「電子書籍での読書体験」はこれまでなく、電子書籍を前提とした作品発表も初めてになるという。作家・三崎亜記は、電子書籍をどう捉えているのか?

「『電子書籍』というものについて、私自身は日本で普及し始める時から『一切語るまい!』と思っていました。というのも、そこで発言したことが、20年後30年後に絶対恥ずかしいことになるから。それこそ、明治の頃に、鉄道が敷かれたら宿の客が減るとか、田んぼで稲が育たなくなるとか、そういった形で反対していた人と同じことになると思って、自分では語るまいと決めていたんです」

それでも、作家として電子書籍とどう付き合っていくかは、やはり考えなければならないという。
「スマホで読む本、というのが普通のことになるためにも、今回の『読み放題』みたいなサービスは、その一歩になるんじゃないかなと思っています。そして、自分もその一助になることができれば、と思って参加した次第です」

新作『イマジナリー・ライフレポート』は、前著『玉磨き』の続編とも呼ぶべきストーリーだ。第1話、第2話は雑誌『パピルス』でも掲載されるが、以降の3話目以降は「au ブックパス」以外では読むことができない独占オリジナル作品となっている。
もともと『玉磨き』も雑誌『パピルス』で連載していたもので、連載時のタイトルは『イマジナリー・ルポルタージュ』。架空のルポライターが、架空の伝統産業や職業、失われゆく風習を探訪していく、というスタイルだった。

「『イマジナリー・ルポルタージュ』は、一人の私であり、私ではないルポライターがあるところに取材に行く、という内容でした。でも、その一連の取材をしていく中で、「やっぱり人って面白いな。もっと人そのものについて深く取材してみよう」と考えたところから出発した、というのが(『イマジナリー・ライフレポート』の)裏設定となっています」

こう語る通り、新作ではルポライターの探訪する対象が「職業」「風習」から「人」へと変わり、人と人との関係性やコミュニケーションのあり方を、三崎亜記ならではの世界観で展開していくという。

「評価の定まってしまった人を別の視点から見てみたい、という気持ちがあります」
新作のテーマについて、三崎自身が語る。
「たとえば、人ではないけど、『ドミノの駒』って今はドミノ倒しでしか使われない。私たちのほとんどが、そもそも『ドミノ』ってどんな遊び方なのかを知らないと思います。そういう『ドミノの駒』を人間で当てはめて考えてみる。そんな風に、今の世の中で奇妙な状況に置かれている人やモノっていうのを、ある個人に置き換えて考えてみたら、その人はどんな人生を送っていて、その人はどんな思いで今を生きているんだろう……と考えたところから、今回の『イマジナリー・ライフレポート』に落ち着いた感じです」

実際、『イマジナリー・ライフレポート』の第一話「正義の味方」は、そのものズバリ「正義の味方」の話ではあるが、いわゆる「ヒーローもの」のストーリーにはなっていない。かつて賞賛を集めた正義の味方が、いつしか糾弾される立場になった、という過程をルポルタージュしていく。スマホならでは、電子書籍ならではの表現方法などは意識しているのだろうか?

「スマホならではの……たとえば、悲しい場面で悲しげな曲が流れてくるとか、海の場面で波の音が聞こえてくるとか、そういった特殊性はありえるかもしれない。でも、こういうメディアだからこういうやり方が効果的だろう、といった押し付けがましい手法はかえって敬遠されるのかなと思っています。テレビドラマなんかでも、今までのヒットの法則が当てはまらなくなってきたのを考えると、感度の高い消費者の皆さんは、押し付けられるのは嫌がって、自分で面白さを探したい部分があると思う。だから、スマホだからこういう表現、スマホだからこういう見え方、というのを意識し過ぎるよりも、真摯に作っていくしか今のところないのかな、という気がしています」

この『イマジナリー・ライフレポート』以外でも、「au ブックパス」では今後、有名作家8名がオリジナルで執筆した恋愛アンソロジーを読み放題プランで配信する計画もあるという。今後発表される執筆作家と小説の内容・執筆状況については、「ブックパス幻冬舎特設サイト」で確認できるので、こちらもぜひチェックを!

(オグマナオト)