「an・an PLUS×リーガルハイ 伝え上手になる話し方」
マガジンハウス
堺雅人のセリフ術に学びたいものです

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先週、10月9日(水、22時〜)に放送されたドラマ「リーガルハイ」(リーガル・ハイ第2期)の第1話には大きな期待がかかっていた。というのは、主人公の変人弁護士・古美門研介を演じる堺雅人が、ついこの間まで主演していたドラマ「半沢直樹」の最終回が42.2%だったからだ。結果、「リーガル」も21.2%で、かなりの好発進。
第一期は一度も15%を超えたことがなかったことと比べると、堺雅人は今、最も見たい俳優になったことを証明したといえる。

本日、第2話。このまま、人気は持続できるのか? 初回を見た人も見そびれた人も、
2話がはじまる前に復習だ!

 チェックポイント1 半沢直樹との古美門の共通点はお金と、やられちゃったこと

半沢直樹は銀行員。「リーガルハイ」の古美門研介は弁護士である。
堺雅人演じる古美門は「お金と名誉をこよなく愛する辣腕弁護士」で、「我々の仕事は真実を追求することではない依頼人を守ることだ」という信念のもと、高額の報酬を出せる依頼人のために全力で働く。
第1話は、殺人容疑者の美悪女・安藤貴和(小雪)を、1億円の報酬で弁護することにする。
「半沢」の最終回、結局、半沢はがんばったのにやられちゃった(左遷)ところで終わり、物議を醸したが、「リーガルハイ」の第1話で古美門もやられてしまう。
明らかに黒である彼女を白にしようと策を弄する古美門だったが、彼女は死刑宣告を受けることに。初めて依頼人を守れなかった古美門は「人間をやめる」と思うほど一度は絶望するが、今一度、彼女を白に逆転させようと立ち上がる。

 チェックポイント2 半沢直樹と古美門の相違点は、「返す」もの


半沢直樹の「倍返し」は、黒い上司の陰謀に苦しむ労働者たちの気持ちを晴らすものなので、庶民にとって嬉しい行為だったが、古美門は、同じ「返し」でも、お金を払ってくれる人のために黒を全力で白にひっくり返してしまうこと。お金をもった人につく彼は、庶民から見たら唾棄したいやつである。
第1話で古美門は、美悪女に「世界中の人間がきみを憎もうと私だけは君の見方だ たとえ君がビッチで鬼畜で殺人犯であろうと私はきみを無罪にする」と宣言。
スパイ蘭丸(田口淳之介)を使って、バレたら犯罪でしょという行為をしてまで、美悪女の無罪を勝ち取ろうとする(結局、一回は負けてしまうのだが)古美門は、心正しき「半沢直樹」ファンには、いくら優秀だといっても、どうなの〜? とどん引きされるのではないだろうか。
しかも、古美門、一億円の報酬のほかに、すごいエロテクニックらしい「高速回転三所(みところ)責め」を得ようとしているのだ。
半沢は、妻ひと筋のいい夫だったが、古美門、独身とはいえ清潔感に欠け過ぎてますよ。


 チェックポイント3.半沢と古美門の共通点は、ダイナミックな動きとしゃべり。

「リーガルハイ」第1話の冒頭、古美門が法廷で、ドラマオリジナルのアイドルソングを歌って踊っていたのには、半沢との差別化を全力で図っているなあと笑わせてもらった。
顔演技と言われた半沢に対して、古美門は高くスキップしたり、法廷を狭しと動き回ったりして全身をフル稼働。
古美門、そもそも8:2のキッチリ横分けのヘンキャラではあったが、パート1よりも、エキセントリックさがパワーアップした気がする。

表現のベクトルは正反対の半沢と古美門だが、言葉を明晰に弾丸のように語って、相手を責めていく痛快さは似ている。また、相手にむけるドヤ顔の迫力も。
これは、半沢よりも古美門の専売特許だったわけだが(第一期が12年に放送されているから)、半沢にも引き継がれたのだった。

逆に、半沢人気にあやからないわけにはいかないとあって、「リーガルハイ」後半、半沢の名台詞「やられたらやり返す」が登場。
無敗神話を誇る古美門だったが、安藤の裁判で初めて敗北してしまう。
落ち込みのあまり、人間をやめて植物になろう(考えがヘン過ぎ!)とする古美門を励ます古美門のパートナー弁護士・黛役の新垣結衣が、「やられたらやり返す」をテレビ目線で発し、そのあと続けて「倍返しだ」と言いかけたところを、元祖倍返しの堺雅人が彼女の前にかぶって「やられてなくてもやり返す 身に覚えのないやつにもやり返す 誰かれかまわずやつあたりだ」と盛りに盛って語り出す。
それをガッキーが冷静に「それはただの迷惑なやつです」と嗜めた。

テレビドラマって、それこそ「(受けたネタは取り入れ)やられたらやり返す」世界なんだな、と思う。それこそ何倍にも面白くしようとして。月9でも「じぇじぇじぇ」って言ってたし。


 チェックポイント4.主人公なのに古美門は打倒されるべき存在に?


半沢は、保身のために部下を酷い目に合わせる権威を打つところが、視聴者の共感を呼んだが、「リーガルハイ」では、若く才能あふれる青年弁護士・羽生晴樹(岡田将生)が登場、「リッチマン、プアウーマン」のNEXT INOVATIONを彷彿とさせる弁護士事務所NEXUSを立ち上げる。

羽生が目指すのは「勝ち負けじゃない みんなが幸せになる世界を作ること」。「古美門をほんとうの意味で倒したときが時代が変わるときだ」と希望に燃えて、古美門に立ちはだかっていく。
第1期は、ガッキー演じる黛が、古美門と正反対に、真実は必ずあると信じている真面目ちゃんで、ふたりが異なる価値観をぶつかり合わせていったが、今回は、黛よりも能力もありそうなイケメン君と古美門の闘いになることで、黛はむしろ、古美門の名実ともにパートナーになるのだろう。

脚本家の古沢良太は、人気ドラマのパート2を作るに当たり、ずいぶんとハードルを上げてきたなと思う。ドラマの主人公が新しい時代のために打倒されそうになる話を描くなんてチャレンジャーではないか。
そもそも、古美門の生き方は自分の能力の生かし方が人道的ではないので、共感できないところだらけなのだが、なぜか憎めない。おそらく堺のユーモラスな演技や存在感が、嫌いになりそうなキャラをギリギリのところで留めている。
その古美門にさらに強敵をぶつけて、それでも己の信念を貫けるか試すなんて、ドSである。

イケメン羽生の「勝ち負けじゃない みんなが幸せになる世界を作ること」という理想はとてもすばらしいが、勝つことがすべての古美門の持論はそのまま駆逐されるのか、それとも古美門の生き方に逆転の可能性はあるのか。
古美門がただのいい人になってしまってはつまらないけど、やっぱり世の中、勝ち負けじゃないし、お金が第一でもない、と思いたい。そんな時代の空気に古美門研介は何をもたらしてくれるのか。本日、第2話! (木俣冬)