開幕前、誰がこれだけの活躍を予想しただろうか。

福岡ソフトバンクホークスの新守護神・千賀滉大(せんがこうだい・20歳)。愛知県立蒲郡(がまごおり)高校から2010年の育成ドラフト4位でプロ入りし、過去2年間での1軍登板は2試合のみ。そんな無名投手が、今季はすでに29試合に登板し、防御率は驚異の0・71(6月26日時点)。ソフトバンクの2年ぶり4度目の交流戦優勝にも貢献し、さらに6月26日の北海道日本ハム戦で記録は途切れたものの、救援投手としてパ・リーグ記録に並ぶ34回1/3連続無失点を達成するなど、大車輪の活躍を見せている。

スポーツライターの田尻耕太郎氏が千賀の魅力をこう説明する。

「武器は最速156キロ、コンスタントに150キロ台をたたきだす伸びのあるストレート。しかも、スピードガン表示以上のすごみがある。全盛期の藤川球児のように、わかっていても打てないストレートといえます。さらに、打者の視界から消えるほど落差の大きいフォークボール。このふたつのボールだけでもすごいのに、最近はスライダーのコントロールも安定してきた。打者からすれば、手がつけられない状態でしょう」

また、ソフトバンクの選手を追い続けるカメラマンの繁昌(はんじょう)良司氏はこう評価する。

「普段の彼は素直でおごるところがない好青年ですが、マウンドの上ではなんともいえないオーラを漂わせる。ファインダー越しに気づいた点として、彼は左足を上げる際に、正面の3塁側のカメラマン席を一瞬見る。このしぐさをするのは私が撮影してきたなかではダルビッシュと斉藤和巳くらい。あの姿が妙にダルや斉藤とかぶるというか、同じ空気を感じる」


そもそも入団当時の千賀は、最速144キロといわれていたが、実際はほとんど130キロ台で、決して速球派ではなかった。実際、入団1年目に参加した新人合同自主トレの際、彼は同期ドラフト2位入団の外野手・柳田悠岐のキャッチボールを目の当たりにし、「野手なのに俺より球が速い」と危機感を募らせるほどだったという。

「その危機感があったから今の千賀があるといってもいい。とにかくプロの世界で生き残るためには、死に物狂いでやるしかない。その危機感を胸に、倉野信次3軍投手コーチの下、最初の3ヵ月で徹底的に体幹トレーニングに励んだ。それが見事にハマり、本人も驚くほど劇的な球速アップに成功しました」(スポーツ紙・番記者)

一部ファンの間で「倉野の魔改造」ともいわれる肉体改造のおかげで、なんと、1年目の夏には最速152キロをマーク。そして、さらなる転機は2年目にやってきた。

「プロ入り初のオフに、彼はスポーツトレーナーの鴻江寿治(こうのえひさお)さんが主催する合同自主トレに参加しました。この自主トレには、中日の吉見一起やチェン(現オリオールズ)、ソフトボール女子日本代表エースの上野由岐子らも参加。千賀は制球難を克服していなかったので、球界屈指のコントロールを誇る吉見に積極的にアドバイスを求めたそうです。そして、この自主トレで彼は体の使い方を学んだのです」(前出・田尻氏)

千賀は今年1月にもこの合同自主トレに参加。今年はフォーム改良に着手し、同時に吉見の指導で完成度の高いフォークをマスター。さらなる進化を遂げた。

「それでも本人の中ではまだ本当にしっくりくる投げ方にはなっていないそうです。今までに何球か『これだ』と手応えを感じる球があったが、それがどんな投げ方だったのか“再生”することができないと言っていました。そういう意味では、彼は未完成の投手ともいえますね」(田尻氏)

育成枠から飛び出した新星は、どこまで進化を遂げるのか。

(取材・文/コバタカヒト)