ブラジルでのデモおよび通貨レアルについて

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ブラジルでは先週、インフレや汚職、公共サービスの質の低さなどに対する抗議デモが拡がり、全国で100万人を超える市民が参加したと報じられています。デモが拡大・激化し、大混乱に発展するようであれば、通貨レアルにとって少なくとも短期的には悪材料となる可能性もあり、注意は怠れません。ただし、デモが過激なものへと発展しない限り、レアルへの影響は限定的で、むしろ、長期的にはプラスに働く可能性も考えられます。なぜなら、政府の取り組みが不十分であった、汚職の根絶、インフレの抑制、ヘルスケアおよび教育を含む公共サービスの向上など、同国経済の高度化が中間層の台頭などに伴ない、構造的に求められるようになったと捉えることができるからです。

ことの発端は、今月2日にサンパウロ市でバスや地下鉄の運賃が約7%引き上げられたことを受けて6日に始まった、学生を中心とした小規模な抗議行動でした。しかし、ゴム弾や催涙ガスを使用するなど、警察側の不適切な取り締まりの様子がメディア等で広まると国民の間で関心が高まり、13日には数十万人の市民が主要都市で抗議を行なうようになりました。ただし、銀行や政府機関の建物を破壊しようとの動きが一部で見られたものの、これまでのところ、デモは全体としては平和的なものであり、参加者の多くは今後も過激なことは避けたいと考えている模様です。

(※上記グラフ、データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。)

デモは現状、特定の政党や大統領に向けられたものではなく、参加者の中心は、教養のある、中間層とされています。病院や学校の設備、公共交通インフラが貧弱なことや、過去10年程度で数百万人もの人々が貧しい生活から抜け出し、中間層に属する人々が倍程度に膨らんだことなどを考えると、今回のデモは予期こそされていなかったものの、起きることに何の不思議もありません。なお、2014年のサッカー・ワールドカップや16年のオリンピック向けに政府の支出が膨らんでいることも、人々の激しい怒りにつながっているとされています。なぜなら、そうした支出が汚職に絡んでいるとの見方があるほか、厳しい予算でやりくりしている、学校や病院向けの支出を優先すべきとの声が強くなっているからです。

ブラジルはデモが盛んではなく、今回のようなことは20年ぶり以上の出来事です。これまでのところ平和的なデモも、警察を含む当局の対応があまりに厳しいものとなれば、大きな混乱につながる可能性も考えられます。ルセフ大統領は、訪日予定を取りやめ、21日に緊急閣議を開くなど、デモへの対応を最優先しています。同氏は軍事政権時代に反政府運動に傾倒し、捕らえられ、拷問を受けた経験の持ち主ということもあり、これまでのところ、デモに対して理解を示しています。また、選挙の前年ということも考え合わせると、大統領は今後も、厳しい対応をとるのではなく、人々をなだめようとする可能性が高いと考えられます。なお、サンパウロ市は公共交通料金の引き上げを取りやめました。ただし、これがデモの要求拡大につながり、当局がそうした要求を次々と呑むようなことになれば、財政悪化につながる可能性もあります。

米国で年内にも量的緩和策が縮小される可能性が高まったことなどから、足元で新興国資産が幅広く売られる展開となっています。6月に入り、レアルは21日までに対米ドルで約5%の下落となっており、新興国通貨の中でも特に軟調です。世界の投資家が積極的に投資してきた通貨の一つであるだけに、その反動を考えると、こうした軟調も驚くにあたりませんが、インフレや為替に対するブラジル当局の曖昧な姿勢が、投資家心理に悪影響を及ぼしている面もあるとみられます。今回のデモも、足元の投資家心理にマイナスに作用している可能性がありますが、適切な対応が採られ、大混乱を回避できるようであれば、新たなレアル安要因とはならないと考えられます。