17番目玉のライからバンカーショットをミス これで勝負は決まった(Photo by Darren CarrollGetty Images

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 マット・クーチャーとハンター・メイハンの決勝マッチを迎えたアクセンチュア・マッチプレー選手権会場は異常なほどの寒気と強風を上回る熱気に溢れていた。
デジャヴが起こる初優勝シーン
 08年以来、5年ぶり7度目の米国人選手どうしの決勝マッチ。どちらが勝っても米国人の勝利だが、昨年覇者のメイハンが優勝すれば03年大会と04年大会を制したタイガー・ウッズに続く史上2人目の大会2連覇達成となる。それゆえ人々の拍手と歓声は、どちらかと言えばメイハン贔屓で始まった。メイハン自身、「楽しいマッチになるはずだ」と、自信の笑みさえ浮かべていた。
 だが、蓋を開けてみれば、クーチャーが前半だけで4アップの大量リード。後半はメイハンがやや盛り返したが、17番で力尽き、クーチャーが2アップで勝利を掴んだ。
 なぜ、メイハンは2連覇を逃したのか?なぜ、彼は敗北したのか?「そのwhyの答えは僕にもまったくわからない」。2位に甘んじたメイハンは悔しさを噛み締めながら「わからない」を繰り返した。それならば、「why」の答えを、あれこれ探ってみようと思う。
 マッチ開始直後から嫌な予感はあった。なぜなら1番ティで先に球を打ったのはクーチャーで、オールスクエアのまま進んだ2番、3番、そして4番のティでもオナーはずっとクーチャーだったからだ。メイハンはオナーにこだわっていた。「先に球を打ち、歩き出す。それが僕のリズムになる」。その意味は、単にあるホールで先に打つという行為のみならず、マッチの早い段階でリードを奪い、主導権を握るという希望が含まれていたはずだ。
 実際、メイハンは同大会で通算100ホール以上の不敗記録を更新しつつあった。が、決勝マッチではクーチャーに続けざまにホールを奪われ、前半でメイハンがオナーになることは、ただの一度もなかった。
 その原因はパットだった。6番は3パット。7番、8番はどちらもカップに蹴られた。「読みに確信が持てる。何の疑いもなく打てる」と言っていたパットへの自信が打ち砕かれたことが彼の心とゴルフを乱したのか。
 それでもメイハンは折り返し後の10番でバーディパットをきっちり沈め、11番も見事なアップ&ダウンでバーディ。4ダウンを2ダウンまで巻き返し、16番を奪って、ついに1ダウンまで挽回した。
 敗北会見でメイハンは「10番は悪い流れを好転させる転機だった。そこから先は、いいプレーができた。でも、あの転機はあまりにも小さく、あまりにも遅すぎた」と振り返ったが、それは悔し紛れに言い放った言葉に過ぎなかったはず。実際は残り2ホールで逆転勝利するチャンスはあったはずなのだ。
 けれど、現実は17番で勝敗が決してしまった。2人のティショットは、どちらも右のフェアウェイバンカーにつかまり、ほぼ横並び。だが、クーチャーのボールはグッドライ、メイハンのボールは目玉。クーチャーは第2打でピンそばを捉え、メイハンの第2打はグリーン右のウエイストバンカー内のブッシュの中へ。その瞬間、万事が休した。
 オナーになれず、オナーを取れず、主導権を握れず、リズムをつかみ損なったこと。絶好調だったパットが突然狂い、自信が打ち砕かれたこと。そして最後は、ボールを取り巻く微量の砂にショットコントロールを奪われたこと。そのどれもがメイハンの2連覇を阻止した理由ではあるが、彼はやっぱり「わからない」を繰り返し、そして、こう付け加えた。「わからないけど……僕が人間だから……かな?クーチャーは超越した強敵だった」
 メイハン自身も解明できずじまいだった敗北の理由。はっきりわかっていることは、この日、この決勝マッチで、クーチャーのゴルフがメイハンのそれを上回ったという事実、ただ一つだけだ。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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