高校選手権が佳境を迎えている。前回は異常な割合を示すそのPK戦について一言いわせてもらったが、今回は卒業後の話。

 かつて、有望な高校生プレイヤーはその大半がJリーグを目指した。そしてJリーグに入ると、早いうちから出場した。中堅、ベテランとのポジション争いにかなりの確率で勝利を収めたのだ。若手のレベルは高かった。少なくとも技術では、ベテランを大きく上回っていた。Jリーグを見渡せば、そうした魅力的な若手は簡単に目に飛び込んできた。

 だが、当時の若手がベテランになったいま、彼らを凌ぐ若手は簡単に目に止まらない。その絶対数は減っている。若手が上の世代を次々に追い越していった時代から、簡単には抜けない時代に変化した。彼らがJリーグでスタメンの座をつかむことは容易ではない。上が詰まった状態にある。

 受け皿が少ない。まもなくJ3ができるという話だが、それでもまだ少ないと思う。有望な高校生が大学の体育会サッカー部でプレイする理由の一つだ。スペイン、イタリア、イングランド等々、クラブが無限に近いぐらい存在する欧州各国と比べればそれは一目瞭然。

 日本の人口は、欧州諸国より遙かに多い。サッカーがドゥースポーツとして野球よりポピュラーになったいま、それなりのレベルの選手が誕生する可能性は、欧州諸国より高いぐらいだ。受け皿も、それに相応しい数である必要がある。J3はおろかJ6でも足りないと僕は思う。

 高校のサッカー部はクラブの絶対数が不足する分を補っている格好だが、選手は18歳になると卒業する。自然に外に追い出される。そこでの選択肢は主に3つ。Jリーグか大学か、辞めるか、だ。18歳といえばまだ伸びる可能性を秘めた年齢だ。辞めるにはあまりにも早い。時間稼ぎこそが、大学を志望する有望選手の動機だと思う。

 大学のプレイ環境は一昔前よりだいぶ改善されているが、同年代の選手としかプレイできない問題を抱える。試合数も少ない。そこで22歳までプレイを続けることになる。4年経たないと新たな決断はできない仕組みだ。19歳、20歳、21歳では、Jリーグへ転向しづらい。20歳でJリーグでやれる! という確信を抱いても、身動きは取りにくい。大卒プレイヤーはJリーグにいま急増しているが、20歳で入っていればと思いたくなる選手は何人もいる。2年間のロスを嘆きたくなる選手は少なくない。

 有望選手が大学に進学する理由は、この時代に学歴が高卒で終了する怖さもある。実家が自営業で、その後を継ぐことがあらかじめ決まっているとか、学歴に左右されない将来が待っているならともかく、一般的なサラリーマン家庭で育った選手には、将来への不安がつきまとう。「Jリーガーにはなって欲しくない。ちゃんとした会社に就職して欲しい」とは、ある有望選手の母親の言葉だ。

 そりゃそうだろうなと思う。客観的に見て、いまのJリーグに、一人の人間の半生を懸けたくなる魅力があるかと言えばノーだ。少なくとも金銭的な魅力があるようには映らない。夢が感じられないのだ。

 何といっても、トップ選手の年俸が安すぎる。日本人で1億円以上もらっている人はわずか数人。プロ野球とは約4、5倍の開きがある。平均でも2000万強。しかも選手寿命は野球より短い。野球かサッカーか。いかにも能力な高そうな子供が、選択に迷ったとき野球を選ぶことは見えている。センターフォワード、センターバックになかなか優秀な人材が生まれない理由と、それは大きな関係がある。ダルビッシュや田中将大のようなタイプは、サッカー界には見あたらない。

 一方で、200〜300万しかもらえないJ2の選手の年俸については、それは仕方のないことだと僕は思う。もちろん、もう少し上がって欲しい気はするが、J2、そして近い将来できると言われるJ3の存在こそが、野球にはない魅力。J4以下が早くできて欲しいと思う理由でもある。18歳(もっと若くても構わないが)から22歳の選手がチャレンジする場所として、大学より適していると思う。

 確立して欲しいのはJに属しながら、大学に通える環境だ。ガンバ大阪に所属しながら同志社に通った宮本恒靖のような例はまさに理想。さらに言えば、大学リーグを解体し、各体育会サッカー部をJに組み込んでしまう必要も感じる。

 ともかく、能力が高い選手がいまの大学リーグでプレイをする姿を見ると、とても惜しい気がする。18歳から22歳までの選手が、スムーズに上のレベルを目指せる環境を構築しないと、日本の将来は明るくないのではないかと僕は思う。