■スタジアムが埋まらなかったスペインvsフランスのW杯予選

現在スペインにて取材中のため、16日にマドリードのビセンテ・カルデロンで行なわれたワールドカップ欧州予選のスペイン対フランスの試合に足を運んできた。結果はフランスが試合終了間際のジルーのゴールで1−1の引き分けに持ち込み、スペインにとってはホームで「勝ち点2を落とした試合」となった。試合前日の会見でフランスのデシャン監督が「今のスペインは歴史上最高の代表チーム」と評したように、EURO連覇とW杯王者のスペイン代表にはここ数年、基本的に景気のいい話がつきまとってきた。

今回の仏戦を前にしても、日産が新たにスペインサッカー連盟(RFEF)とスポンサー契約を結んだことが発表され(※2年で推定5億円のスポンサー料)、17日に発表された仏戦の視聴率は44.1%(瞬間最高視聴率49.8%)とW杯予選では史上3番目に高い数字を叩きだした。しかしながら、試合2日前の時点でのチケットの売れ行きは不調で1万枚以上が売れ残り、試合直前のチケット売り場にも「完売」の張り紙はなかった。正確な観客動員数の数字は出ておらず、17日の『マルカ』紙には4万2000人、『アス』紙には5万5000人と相変わらず適当でいい加減な数字がレビュー記事に掲載されていたが、おそらく5万人前後ではなかったか。

■今後、スペイン代表の放映権料は激減する?

とはいえ、今のスペイン代表試合で、ましてやW杯予選において大一番の仏戦でスタジアムが満席にならなかった点が、国内経済に大打撃を与えている不況の影響がスペイン代表周辺にまで及んでいる事実を明らかにしている。更に衝撃的だったのが、先週12日に行なわれたW杯欧州予選のベラルーシ戦。何とこの試合のスペイン国内での中継はなく、スペイン国民はスペイン代表の試合をTV観戦することができなかった。

この試合は、ホームのベラルーシサッカー協会がドイツの『スポーツ・ファイブ』という制作会社に放映権を推定1億円で売り、同社がスペインのキー局にスペイン国内での放映権料の交渉を行なっていたが、3億円からのスタートにスペインの全局が首を振り、試合直前には同社が約1億1千万円にまで落としたもののそれでも買い手がつかずに結局、スペイン国内での中継はなくなってしまった。

その腹いせなのか、試合当日には『スポーツ・ファイブ』がスペインの各ラジオ局に対して突然中継料として約50万円を要求し、スペインのラジオ5局がスタジアムからの中継をボイコットする事件も起きた。これによって、スペインの各ラジオ局は、ホテルからテレビを見ての中継を行なう異例の処置をとった。一方、仏戦の視聴率を見ても明らかなように、確実に高視聴率を稼ぎ出せるスペイン代表の試合はテレビ局にとってこれ以上ない優良コンテンツであるのだが、ベラルーシ戦後の報道ではスペイン代表の放映権料が現在の4分の1以下に激減する可能性があるという。

■不況の影響が代表にも忍び寄る

現在、スペイン代表の試合放映権を持っているのは国営放送の『TVE』で、RFEFは2007年に年間10試合の放映権料を約40億円で同局に売っている。1試合の単価が4億円ということになるのだが、不況の影響で思うようにスポンサーが付かなくなっており『TVE』は次の契約について大幅な減額オファーを検討しているのだという。『TVE』以外の民放キー局も「1試合1億円以上は難しい」という認識を示しており、スペイン国内では「いよいよ不況の影響がスペイン代表にまで忍び寄ってきた」というコメントが出始めている。

先日、欧州サッカー界の研究ではスペイン随一のバルセロナ大学のホセ・マリア・ガイ教授の「スペインサッカー界は死にかかっている。余命5年がいいところ」という発言が話題を呼んだ。リーガ・エスパニョーラの放映権料問題が未だ解決を見ず、クラブ毎の管理に任せてバルセロナとレアル・マドリードにリーガ全体の50%以上の放映権料が配分されている異常事態に長年警鐘を鳴らし続けてきたガイ教授の言葉だけに説得力がある。