気軽に海外へ出かけたり、インターネットで海外とリアルタイムに情報交換したりできる今、個人が資産運用するときも、日本だけでなく、海外の資産や金融商品を利用するのが当たり前になっています。

資産運用で大切な“分散”の考え方からも、資産のすべてを日本円建てのものに投資するより、一部を外貨建てのものにして、通貨を分散させることが必要だといわれています。

でも、外貨建ての資産への投資には為替のリスクがつきもの。

例えば外貨建ての債券に投資する場合、その債券を売却したとき、購入したときより円高になっていると、為替によるマイナス、つまり為替差損が生じます。

債券そのものの価格が上がっていたとしても、為替差損がそれを打ち消してしまうし、為替差損のほうが大きければ売却損が出ることになります。

これが為替リスクです。

日興アセットマネジメントが実施した「『ヘッジ』の理解度に関する調査」というアンケート調査によると、約7割の人が為替リスクについて理解しているようです。

こうした為替リスクを避けるために、海外の資産に投資する投資信託の中には為替を“ヘッジ”するものがあります。

ヘッジというのはもともと「垣根」という意味。

為替ヘッジは、垣根を作って為替リスクの影響を食い止めることといえます。

為替をヘッジするための“垣根”に当たるのが“為替予約”という仕組み。

将来取引する円と外貨の為替レートをあらかじめ決めておく方法です。

価格が1万米ドルの債券に投資する例で見てみましょう。

この債券を買うのに、為替レートが「1ドル=80円」のときだと80万円必要です。

1年後にこの債券を売却するとき、債券の価格が変わらなくても、為替レートが「1ドル=70円」と10円円高になっていたら、売却して得られるのは70万円ですから10万円のマイナスになってしまいます。

そこで、債券を購入するときに、銀行とのあいだで1年後の予約レートを決めておき、1年後に債券を売却して得たドルを、予約レートで円に戻す(銀行にドルを買ってもらう)ようにするのです。

これなら、為替のレートが変動してもその影響を受けずにすみます。

ただ、為替ヘッジにはデメリットもあります。

1つは、ヘッジすることによって為替による差損を避けることができる代わりに、円安になったときに得られるはずの為替の差益は得られなくなってしまうこと。

もう1つは、為替ヘッジにはコストがかかるということです。

為替予約をするとき、予約レートは自由に決められるわけではなく、2つの通貨の金利差に応じたレートが使われます。

例えば、「1ドル=80円」のとき、日本の金利が1%、米国の金利が3%だとします。

銀行は、今ドルを買って1年持っていれば3%の金利が得られるのに、為替予約によってドルを買うのが1年後になると、1年間は円を保有することになり日本の金利である1%しか得ることができません。

それでは銀行にとってソンですから、金利差である2%を考慮した予約レートが適用されます。

計算すると、それは78.45円となります。

つまり、為替のリスクを避けるためには、1ドルあたり<80円−78.45円=1.55円>のコストがかかってしまうわけです。

米国の金利が5%の場合だと、予約レートは76.95円となり、ヘッジコストは金利差が大きいほど高くなることがわかります。

このように、為替をヘッジすると金利の高い外貨建て資産に投資しても金利分はコストで相殺されてしまううえ、円安になっても為替差益は得られないので、外貨建て資産に投資する意味があまりなくなってしまうといわれてきました。

実際のところ、為替ヘッジありと為替ヘッジなしが選べるファンドの場合、ヘッジなしのほうが運用成績がよいのがふつうでした。