■はじめに
 僕はサンフレッチェ広島のサポなので、なぜ川崎の試合を見るかというと、「風間八宏監督の志向するサッカーに興味があるから」「広島を強くするヒントがあると思うから」です。そういう視点であること、つまり川崎サポから見ると無責任で他人事な部分もあるかと思いますが、事実として他人事ではある(当事者になれるのは広島)ので、そのあたりをご了承いただきつつお読みいただければ幸いです。

 ということで、ちょうどこないだの名古屋戦(●0−1)、仙台戦(●1−2)という2試合を見ました。以下、それを踏まえての感想を。


■風間サッカーとは何か?
 一言でいえば「相手を外し、正確に蹴って正確に止める」サッカーです。エッセンスのすべてはそこにある。まず大前提として正確なボール扱いがあり、どんなボールに対しても1発でコントロールすれば相手は飛び込めない、パスを出せる態勢になる、つまり味方が動き出せるということ。
 
 次に、相手を外す。「どんな選手でも動く瞬間に矢印が出る、その矢印の逆を取ればどんな相手だろうと裏をかける」、これは風間さんのDVDでも繰り返し強調されていることなので、拙文で不足を感じる向きはAmazonでご購入をば。
 
 そして「正確に止める」「相手を外す」技術は全員に「前提として」要求されるため、つまりどんなスピードでも止められる技術があるという前提のもと、ボールはすべて足元足元となる。
 
 もちろんこれは理想であり、そこにたどり着くために日々のトレーニングがあるわけですが、そこで思い出してほしいのはそもそも日本でプロになる選手というのは大小なりエリートであり、才能あるサッカー選手の中でも傑出した存在であり、技術的にも高い水準に達しているということ。

 少なくとも18歳までにそうした技術は大小なり身に着けているはずで、プロになって試合出場が少なくなりカンが鈍るということはあっても、技術はあるはずだということ。ゆえに、こうしたサッカーを志向することは間違っていない、どころか日本人に最も相応しいものではないかと。
 
 フロンターレの試合を数試合、そして風間さんのDVD、さらに木崎伸也さんの筑波大学練習レポをメルマガで読んだりした上での理解は上記のようなものです。


■川崎の現状(第24節終了時)
 状況としては風間さんが4月下旬に指揮を取り、9月で実質4ヶ月目。川崎の現状は、24節を終えて9勝5分け10敗の13位で、勝ち点32。16位アルビレックス新潟との勝ち点差は8だが、このところ5試合で2分け3敗と勝てていない、というか10試合に広げると1勝4分け5敗、5月に3連勝あったきり勝利からかなり遠ざかっている。
 
 さらに特殊な状況として、上記のとおり風間さんのサッカーは独特であるため、選手選考がかなりシビア(人によっては「不可解」と解釈される)。ゆえに、自分の基準を知り尽くす選手たちとして実子である風間宏希、風間宏矢という2選手を獲得、なんと19節から6試合すべてにスタメンで使っている。
 
 彼らはボランチと攻撃的MFだが、試合によってはワントップで使われるケースもあり、アシストはあるがまだ両者ともゴールがない。ともに第24節終了時点で518分出場で無得点。一方、13節の仙台戦(3−2で勝利)以降得点がないとはいえチームトップの6得点を挙げているFW矢島卓郎が、風間兄弟の加入以降なんとサブにすら入っていない(追記:公式発表ないがケガという情報あり)。
 
 他にも、日本代表経験があるMF柴崎晃誠は風間体制になってからベンチぐらしが続き、すでに東京Vに移籍しているし、やはり日本代表経験のある稲本潤一は使われたり使われなかったり、という状態にある。
 
 上記のとおり、結果は出ていないものだからこれを「縁故採用」と批判されている。まあ、結果が出ていない以上そう言われても仕方ないことではある。僕の意見は別にあるので後述するけれども、川崎サポーターがフラストレーションを溜めるのは無理からぬことだろうと思う。

 ここまでが客観的な状況。以下は、僕の意見となる。


■世界トップへのパスポート
 風間サッカーは、日本を確実に一歩先に進める可能性がある。なぜなら、これまで漠然と語られてきた「運動量」「動きの質」「パスの精度」といったものが非常にクリアに整理され、どのような状態が「良い動き」なのか、何が「良いパス」なのかが明確だから。そして、求められるレベルはとても高く、世界のトップリーグでもそれができたときは得点が生まれ、できないケースでは生まれていないことが多いから。

 もう少し踏み込むと、「風間サッカーという特殊な何か」があるのではなくて、「確実に相手を崩す方法」というものが提示されているだけ。「それを継続的にやれるかどうか」がいま焦点になっている。風間八宏監督の提示するサッカーそのものに、「正しくない」「正しい」の議論は必要ない。それが実現すれば、相手を崩せるのは論を俟たないから。

 現に、川崎でも監督の求める「外す動き」「強い足元へのパス」がハマったときはどんな相手でも崩せているし、絶対的な決定機となっていることが多い(そしてそれを外すこともとても多い!)。
 
 その観点でいくと、風間兄弟の獲得はよくわかる。他の選手がダメだったかどうかはわからないが、兄弟は物心ついたころから風間八宏の薫陶を受けており、監督の志向するサッカーをかなりのレベルで理解している。外す動きも、ボールを正確に止める技術も、彼らがチームトップレベルで高い。そういう選手を獲得すること自体は間違ってはいないし、それがたまたま息子だったという感覚ではないかと思う(事実は知らないが)。
 
 さらにいえば、香川真司がなぜマンチェスター・ユナイテッドに加入できたかというと、まさしく「正確に止める」技術が高いから。ファーストタッチで完璧にコントロールする技術で彼は上り詰めた。ここに「相手を外す」が同じ精度で加われば、彼はユナイテッドでも絶対的な存在になれるし、まさに現状そこが求められつつある。
 
 日本人にとって「外す」「正確に止める」そして「足元に強いパスを出す」というのは、高いレベルで身につければ世界トップレベルにチャレンジするパスポートになりえる。そう思う。
 
 僕は川崎サポではないので無責任なことをいうと、このサッカーを継続すれば川崎は間違いなく常勝チームになれると思う。広島サポとしてミハイロ・ペトロヴィッチのサッカーを6年経験し、守備練習をやらない、受け手と出し手の関係性をあの手この手で詰めていくサッカーがどれほど魅力的で、チームを強くし、選手個々のスキルを伸ばすか、この目で見てきた。チームを去った柏木陽介、槙野智章、李忠成、現在も在籍する青山敏弘、森脇良太、高萩洋次郎らはいずれもミシャのサッカーで大きくその可能性を広げた。

 風間監督のサッカーはミシャとは異質だが、ベクトルとしては同じだ。そして選手に求めているスキルは、恐らくミシャより高い。なにせミシャサッカーにおけるキーである「運動量」を、「それほど動く必要はない」(中村憲剛)としているのだから。それほど動かないでも、外す動きと正確な足元へのパスで崩す、ということはそれらの精度を非常に高いレベルで求めるし、ゆえにそれまでのレギュラークラスでも躊躇なく外す、ということなのだと思っている。
 
 やはり中村憲剛が「ボールを受けてから(ボールを)置く位置や、自分のパスの質が明らかに変わってきている」というように、彼のようなベテランすら伸ばす余地があるわけで、現在指導を受けている若い選手はこれから劇的な進歩を遂げる可能性がある。
 
■ということで
 今シーズンは、広島と並行して川崎フロンターレを追っていこうと思う。何しろ現状は13位で、少し負けが込めば16位以下の成績次第では残留争いの危険すらある。先行きはかなり不透明であり、重ねていうが僕は広島サポなので「J2に落ちてもこのサッカーを」とかは口が裂けても言えない。
 
 川崎というチームの選択として、風間八宏監督ではJ1残留が厳しいと考えるタイミングが出てくれば、解任ということもありえるかもしれない。実際、基準となる勝ち点35のラインにはあと3ポイントなのでそれほど大きい心配ではないと思うが、10試合で1勝しかしていない以上楽観もできないだろう。
 
 ただ、このサッカーが巷間言われるような「縁故採用だ」とかの低い次元の批判にさらされたまま消えるのは惜しいし、何とかして形になってほしいとは思っている。そのためには、絶対的な決定機を一つでも決めていくことだし、相手の圧力に屈しないメンタルを手に入れることだし、継続的にトレーニングで積み重ねていくしかないんだろうなと。
 
 川崎サポ各位に於かれましては、私などたんなるヲチャーにすぎませんので一つ適当に生ぬるく見守っていただければ幸いです。