酒井の10年間とは、いろいろなステージに立ち、ぶち当たった壁や試練を前に、それを克服するために、「何をすべきか」と考えてきた10年だったのだろう。だからこそ、「試合に出られなくても別にいいと思った」と飛び込んだシュトゥットガルトで、みるみるうちに頭角を現していった。
「毎日が本当に楽しい。あんなこともしたい、こんな修正もできるんじゃないか。あの選手にはこういう風に言えば伝わるのか? もっとこうするべきだったとか、本当にたくさんサッカーのことを考えられる。レベルの高い相手とあたって、何が足りないかが実感できる。もう本当に毎日が楽しくてしょうがないんです」
 
 いろいろなチームへ行き、様々な指揮官やチームメイトのもとでプレーし、数多くの対戦相手と戦う……そんな風にサッカー選手としての“体験”は出来ても、それを“経験”に変えるスピードの差が、選手の能力に大きく影響するように思う。もちろん、体験で何を感じとり、そこから何を吸収し、どんな風に消化させ、自分の経験に変えていくのか、という質の問題もある。
 そう考えたとき、酒井高徳は、体験を質のいい経験に変える力に長けた選手だと思う。それは、四人兄弟という大家族の中で、育ったことも影響しているのかもしれない。

 今後、新たな気づきのもと、貴重な経験を積み重ねるためにも、今後、彼がどんな体験をするのか、とても楽しみだ。