日本国民ひとりあたりの所得は、欧州でいえば“中の下”。日本はすでに経済大国でないことを自覚すべきと説く飯田氏

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 2010(テン)年代になっても日本経済の見通しは依然として薄暗く、若い世代にはよりシビアな近未来が待っているようだ。そんな「若者をめぐる経済問題」を見晴らしよくしてくれるのが、飯田泰之さんの著書『脱貧困の経済学 日本はまだ変えられる』(雨宮処凛と共著/自由国民社・1500円)にある「経済学的な考え方」である。

 例えば、税や年金を通した「所得の再分配」は格差是正が目的のはずなのに、日本では再分配することで逆に20〜30代の貧困率が増えている。さらにイタいのは、そんな貧困層にえてして冷たい「中間層」(年収600万〜800万円)も、「国家財政への貢献度」から見れば実は貧困層と同じカテゴリーであり、なのに「自分は金持ち」と思い込んで「今の若者はだらしない!」と叩いているってことだ。

「労働市場などの“パイ”が大きくならない状況では、人は『自分よりちょっと下』を叩くことで自尊心を満たしがち。だから(『脱貧困の経済学』の対談相手で社会活動家の)雨宮さんも肌で感じているように、貧困層の中でも派遣がフリーターを叩き、フリーターがニートを叩き……と『下叩き』の連鎖が起きる。そこで雨宮さんは『本当の敵はもっと上にいる!』と、世間の目線を変えさせようとするんですが、僕はそれも難しいと思うんです。なぜなら今の日本では既得権者のほうが若者や貧困層より人口が多く、お金も持っているわけですから勝てっこない」

 大人たちが小さな既得権にしがみつき問題を先送りにしながら「自分は金持ち」と思い込む……なんともカッコ悪い「こじらせ」国家ではないか、今の日本って!

「でも、『こじらせ』という意味で一番の問題は、『日本は経済大国と呼ぶにはすでに微妙』ってことを皆が理解してない点です。ひとり当たりの所得は、すでに欧州の“中の下”くらい。今は円高なのでイタリア・スペインより上ですが、少し円安に戻れば抜かれるし、このままだと10年以内に韓国にも抜かれるでしょう。自分らが金持ちだと思い込んで守りに入っている場合じゃないんです」

 その一方で、「もう経済はゼロ成長でOK。別の幸せを探そう」という最近の一部の風潮にも飯田さんは異議を唱える。

「企業は、おのずと経営を効率化させ続ける存在であり、パイが一定なら必ず労働力は年に数パーセントずつ余剰となる。結果、失業率は増え続けます。やはりさまざまな問題を改善するには、需要や労働市場といった“パイ”全体が大きくなる経済政策を本気で考えるしかありません。僕は、増税は反対、再分配と金融改革とTPPは賛成です。インフレを起こして国内需要を増やすと同時に、円安にして海外市場にどんどん出ていくしか日本に道はありませんから。

 ビジネスの世界には2種類の『努力』がある。ひとつは『増やす努力』、つまり新しいマーケットやビジネスを生み出す努力で、もうひとつは『奪う努力』、つまり他人の席や他社の顧客を奪う努力です。全体のパイが大きくならない今は、同じ100万円儲けるのも、席取りゲームに勝つイノベーション(奪う努力)のほうが『市場を増やす努力』より効率的(ラク)で、ビジネス書も基本的にそういうスタンスで書かれている。僕だって皆さんに、目の前の仕事では『奪う努力』をしてくださいとしか言えない。でも一方で、政治的な見解としては『増やす努力が効率的(おトク)』な社会に転換させる政策を選んでほしい。パイが大きくなってこないと、誰も『増やす努力』をしませんからね。90年代のアメリカで起きたIT産業のイノベーションだって、パイが大きくならない80年代のアメリカでは生まれえなかったと思うんです」

(撮影/本田雄士)

■飯田泰之(いいだ・やすゆき)
東京都出身。東京大学大学院経済学研究科中退。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。専門は経済政策、マクロ経済学。飯田さんの「経済学的な考え方」に興味をもったら『世界一シンプルな経済入門 経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン・1365円)、『経済成長って何で必要なんだろう?』(光文社・1050円)も

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