官僚から見た「優秀な政治家」とは?

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 2011年9月2日、菅内閣の退陣を受けた民主党の代表選挙で勝利した野田佳彦氏を総理大臣とする野田内閣が発足したが、依然として国内政治は長い停滞にある。その理由の一つとして、総理大臣をはじめとする内閣が短期間で次々に代わってしまい、腰を据えて仕事に取り組める状態にないことが挙げられる。
 ところで、政治家とタッグを組むべき官僚や役人にとって、現在の状況はどう感じられるのだろうか。前回に引き続き今回も著書、『「規制」を変えれば電気も足りる』(小学館/刊)が話題を呼んでいる、元経済産業省の役人であり、現在は政策コンサルタントとして活躍している原英史さんにお話を聞いた。

■官僚から見た「優秀な政治家」とは?
―元官僚である原さんから見て、優秀な政治家とはどのような人ですか?

原 「一言でいえばコミュニケーション能力ということになると思います。
役人から見て、この政治家すごいなと思う人ってどういう人かと考えると、役人と話す時には役人との間で通じる言葉で政策の話をし、ポイントはしっかりつかんで議論できる。一方で、一般の有権者を相手にする時は全く違う言葉に翻訳して、わかりやすく語りかけることができる。そして政治家同士で議論をするという時にはまた別の言語で相手を説得できる、そういう多言語を操れる人だと思いますね。
役人はどうしても付き合っている人の幅が狭くなるんですよ。たとえば経済産業省なら、産業界の人とお付き合いをするとか、厚生労働省で医療行政をやっているなら医師と接するとか、コミュニケーションを取る人が限られています。
政治家はそれではだめで、色々な人に自分たちのやっていることを語り、説得し、交渉することができなければなりません。民主党が政治主導を掲げた時、彼らは大きな勘違いをして、役人がやっていることの代わりをやろうとしたんですね。たとえば、役人が作るような予算資料を作ったりとか、法律の条文を書いたりとか。でもそんなことは必要ないんです。そうではなくって、官僚がやっている政策のポイントを見極め、おかしいと思ったら指摘して正し、その政策を役所の外の世界につなげていく。それが政治家の役割だと思います」

―では、国会議員(政治家)と官僚の理想の関係とはどのようなものだとお考えですか?

原「基本は政治家が大きな道筋を決めて、官僚はそのためのオプションを示してあげる、具体的なプランを練り上げていくということだと思います。車のドライバーと行き先を指示する人という関係。でも今は、道筋を示してもドライバーは言うことを聞かず、全然違う方向に突っ走っているという状態だといえます」

―以前、田中真紀子さんが外務大臣になった時に、外務省を“伏魔殿”と称して批判していました。当時のメディアの取り上げ方としては、極端に言えば“悪の温床に切り込む田中真紀子”というものだったかと思います。そのように悪者としてメディアの取り上げたことで困ったことはありましたか?

原「メディアはある意味しょうがないんですよね。叩く対象を決めたらしばらくはそこを叩くので。困るって言えば困りますけど仕方ないですよね」

―そういった報道に触れた人が「政治家と官僚って仲が悪いのかな」と思う可能性もありますが、これは必ずしもそういうわけではないのでしょうか。

原「そうですね。お互いに信頼感をもって仕事をしている場面もたくさんあります。でも、これまでは、役人の言うがままになってしまっている政治家が多すぎた。その意味では、まず少しは戦ってみるということをしないと、なかなかうまくいかないかもしれません」

―私たち国民は政治家のどのような点を見て評価すればいいのでしょうか。

原「国会議員を選ぶ時に“国会でこの人は何をやったのか”ということは最低限チェックした方がいいと思います。今の選挙は地元を一生懸命回って挨拶してくれたとか、地元の有力者のところを回って票固めをしたとか、そういうことばかりで決まってしまいます。もちろん、政治家にとって、多くの人の声を聞くことは大事なので、そういうことも否定はしませんが、それだけでなく、政策を作るとか、国会で法律を作るとか、地方議会なら条例を作るという、政治家本来の仕事をどれだけやっているのか、ということもチェックしてほしいですね。
実際、何にもやっていない人だっているわけですよ。国会に出たって質問するわけでもない、議論に参加しているわけでもない、ただの採決要員になってしまって、本会議で賛成の時に起立だけするっていう人がたくさんいます」

―国会議員の数は減らしたほうがいいと思いますか?

原「思いますね。ごっそり削っちゃえばいいんですよ(笑)国会議員は数十人でいいと思います」

 経済産業省を離れた後は、政策コンサルタントとして活躍している原さんだけに、政治や政治家のあるべき姿、また役人と政治家のあるべき関係について明確な芯を持っているように感じた。
 『「規制」を変えれば電気も足りる』は、原さんが役人時代に感じた役所の違和感を元に、日本にはびこるおかしな規制に切り込んだ一冊。おかしいのは政治家ばかりでなく役人も一緒である。無駄な規制、無駄な利権、無駄な組織ができる背景に何があるのか、本書を通じて触れてみてほしい。
(新刊JP編集部/山田洋介)


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