――今回のタナカ大佐という役、様々な顔を持っていて、一筋縄ではいかないような役でしたが、どのように解釈をして演じましたか?

渡辺:最初は、何を行動規範にして生きているんだろうというところで、なかなか共感出来ないキャラクターだったんです。少しずついろいろなことを、断層的に切っていって考えていったら、これだけ冷静で緻密に生きている、ロジカルに生きている人間が、かなり重たい職務というか責務を国単位で背負わされている。その中で、彼は、心の奥に秘めているある種の“ロマンチシズム”みたいなものを脱出の方法論として用いたような気がするんですよ。こういう生き方はもう嫌だって。でも結局は、自分が背負わされているものから逃げ切れない訳ですよね。そういう揺らぎみたいなものを感じた時に、「あ、これは1人の人間として、男としてあり得ることだな」という風に非常に役との距離が縮まったんです。

――タナカ大佐は、複雑な心境を内に秘めている人間ですね。

渡辺:最後に彼はある種、堰が切れたように彼の心の中にあったものが吹き出してしまうんですけども、それまでは、非常に表情というか心の奥底を見せないシーンが多かった。でも、ある意味でいうと彼の心の闇というか毒針みたいなものをちょっとずつお客さんにチクッともさせずにスッと刺していくみたいな、そういう瞬間をいろいろなシーンの中に織り交ぜたかったんですよね。それは結構、監督と話しながら。目線の配りであったりとか、立ち位置とか、フレームの中にいる収まり方であったりとか、そういう中で表現していこうというのがありましたね。

――今回の作品は、たくさんのキャストやスタッフが関わっていると思われますが、その中で「この人が印象深かった」という方はいらっしゃいましたか?

渡辺:あのね、衣装のおばちゃんが強烈な人だったんですよ(笑)

菊地:すごかった、あの人!すごくポエティックな人でしたよね(笑)

【『シャンハイ』の衣装担当ジュリー・ワイス豆知識】
 30年にわたり、映画、テレビ、舞台と幅広く活動してきた衣装デザイナー。『12モンキーズ』『フリーダ』でアカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされたこともあるすごい人である。

渡辺:家が近所なんですよ。

菊地:ロスに住んでるんですね。

渡辺:よくファーマーズ・マーケットで会ったりするんですよ。

菊地:その時は、結構普通のおばちゃんなんですか?

渡辺:うーん、まあ、まあ普通っていうか、ああいう感じなんだけど。相当キャラクター強い人なんですよ。思いがある分だけ、デザインとかにも凝るんですけど、なかなか職人肌のユニークな人でしたね。

――どんなところが一番すごいと思われましたか?

渡辺:それは、見てみないと分からないな。適切な表現かどうかは分からないけど、妖怪っぽいっていうかな(笑)すごくインパクトがある。

菊地:そうそう、なんかヘビっぽい!

――ヘビっぽいんだなんて、何やらすごそうな人ですね。会ってみたいですね。

渡辺、菊地:すごい人ですよ(笑)

渡辺:ただやっぱりこの時代の男性陣も非常にファッショナブル。アンティークでありながらもファッショナブルなスーツだったり、ハットだったりとか。そういうものを作りこんできたので、それはちょっとかっこ良く着こなしたいなって思いましたよね。