6000店規模も! 中国「巨大チェーン」が日本に続々上陸する「切実すぎる裏事情」

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’25年、スシローや鳥貴族が上海で長蛇の列を作ったニュースは記憶に新しい。だが今、水面下でそれとは真逆の、より巨大な「地殻変動」が起きているのをご存知だろうか。

街で増え続ける「読めない看板」と「ガチ中華」の行列。実はこれ、単なる個人店のブームではない。中国本土で数千店舗を展開する「飲食巨人(メガチェーン)」たちが、続々と日本上陸を果たしているのだ。なぜ彼らは海を渡るのか? その背景には、中国国内のあまりに意外で切実な事情があった。

日本を席巻…中国発「6000店級」巨人の正体

’24年から若い女性を中心にブームになったマーラータン。’25年の新語・流行語大賞にもノミネートされ、東京以外の都市でも見かけることが増えた。

中国のチェーン店でいえば最も存在感があるのは『楊國福(ヨウゴフク)』だろう。中国で6000店舗以上を展開する大型チェーン店で、’17年の東京・池袋に出店してから上野や高田馬場、新大久保など在留中国人が多いエリアで少しずつ店舗数を増やし、マーラータンが日本人にも受け入れられるようになってからは吉祥寺や下北沢などといった若者が集まるエリアや福岡など東京以外にも出店エリアを拡大している。

肉、海鮮、野菜、練り物などがずらっと並んだショーケースからボウルに自分の好きな具材を選んでいき、特製の麻辣スープで茹であげてもらうカスタマイズ制が人気を呼んだ。

この成功の裏では、マーラータンブームをチャンスと捉えた中国のチェーン店も続々と日本進出を果たしている。

中国では『楊國福』と並んで知名度がある『張亮マーラータン』は横浜中華街や駒込などに、福建省を中心に展開する『親愛的麻辣湯(マーラータン)』は高田馬場や上野などに進出。大阪を中心に展開している『ディオス(刁四)マーラータン』に至っては、本国で2000店舗以上を展開するマンモスチェーンだ。

日本へ脱出…中国の「切実すぎる事情」

なぜ今、これほどまでに中国チェーンが押し寄せているのか。その背景には、日本のマーラータンブームだけでなく、中国国内のシビアな経済事情が大きく関係している。

中国国内の市場は景気の悪化に伴い、飽和状態になりつつある。街を歩けば似たような飲食店ばかりが乱立し、激しい価格競争が繰り広げられているのだ。こうした中国社会の過度な内部競争は「内巻」と呼ばれている。

この「内巻:過当競争」から抜け出すために各社が活路を見出したのが海外への進出(出海)なのである。

中国版インスタグラムであるRednoteをみると上述した『楊國福』は、日本以外にも、ヨーロッパや東南アジアなどでも積極的に出店を進めていることがわかる。特に日本は地理的な近さや在留中国人の多さ、食文化の親和性、ビザの取得のしやすさなどもあり、格好の「出店先」となっているのだ。

創業100年「極上の羊焼売」その破壊力

過当競争を避けるため、日本市場で「独自性」を打ち出すチェーンも現れた。’25年に中国から「出海」して東京・池袋に進出してきたのが内モンゴル料理レストランの『老綏元(ろうきえん)』だ。

1921年創業の店で、中国国内では内モンゴル、北京、上海など20都市以上で140店舗以上を展開している。同社のウェブサイトをみてみると〈’25年には内モンゴルから海外進出へ〉というプレスリリースがされており、日本、シンガポールやオーストラリアへ進出したことが報告されている。オーストラリアやシンガポールは、華人が多く住む国であり、やはり同様の戦略で海外進出を進めているようである。

看板メニューは、ラム肉を使った「焼麦(しゅうまい)」。日本の焼売のような豚肉の餡ではなく、ラム肉の餡を薄い皮で巾着のように包んで蒸した焼麦は羊肉の香りと旨味が凝縮されていて絶品である。

また、モンゴル料理には欠かせない「モンゴルスタイルのミルクティー」を味わうこともできる。粟やバターが入った甘くない塩気があるミルクティーで、まるでモンゴルに来たかのような気分を味わわせてくれる(甘いミルクティーだと思って飲むとイメージと違うと感じる人が多いので、スープだと思って飲むのがおすすめだ)。

他にも羊のハチノスを使って羊肉を包んだ料理や羊肉のしゃぶしゃぶ、羊肉のスープなど、あらゆるモンゴル料理が提供されており、ラム肉好きにもおすすめの店だ。

夜の決まった時間にはモンゴル族の伝統楽器である馬頭琴を使った生演奏も行われており、ガチ中華にありがちな四川料理や麻辣火鍋などとはまた一味違った異国情緒を感じることができる。 同店は’25年12月末に大阪・なんばにも2号店を出店させており、今後日本でのさらなる開拓を進めていく予定だという。

四川超え?「ご飯泥棒」と呼ばれる魔力

もう一つ、注目すべき新潮流が「湖南料理」だ。上野・御徒町エリアといえばアメ横を中心に多国籍な文化が入り混じる場所だが、近年はガチ中華集積地としても注目されている。’24年7月にオープンした『味上 湖南菜館』は、そんなガチ中華エリアに進出してきたチェーン店だ。

店名にもある通り、中国・湖南省の湖南料理(湘菜)を提供する店で、地元の湖南省を中心に50店舗以上で展開している。湖南料理といえば中国八大料理にも数えられており、四川料理の「麻辣:マーラー」に対して、「鮮辣(シェンラー)」や「香辣(シャンラー)」と呼ばれる、強烈な唐辛子の辛さや発酵唐辛子を使った辛さの中にも酸味を感じられるのが特徴の料理だ。

『味上 湖南菜館』の看板メニューが、湖南料理の代名詞とも言える「小炒肉(豚肉の青唐辛子炒め)」。大量の青唐辛子と豚肉を強火で一気に炒めたこの料理は、シンプルながらも唐辛子の強烈な辛さと旨味が同居し、ご飯が止まらなくなる味だ。中国では「ご飯泥棒」とも呼ばれている。

さらに、発酵唐辛子を使った「 剁 椒魚頭(魚の頭の唐辛子蒸し)」など、日本の中華料理店ではなかなかお目にかかれないディープなメニューもある。同店の創業者でもある劉さんは「湖南料理は唐辛子をたっぷり使った辛味と発酵唐辛子の酸味が特徴的で、一度食べるとクセになるんです」と話す。

東京のガチ中華も、近年では店が増えすぎて競争が激化し「内巻」状態になりつつある。どの店も他の店との競争を回避できるように工夫を凝らしているが、四川料理が増えすぎた影響で、「麻辣」とは一味違う「次なる辛さ」が楽しめる湖南料理を提供する店が増えてきている状況だ。

同店は湖南省が呼び寄せた料理人が在籍しているため、より本場に近い味が楽しめると在留中国人を中心に人気を集めており、週末は満席になるほどの人気ぶりだ。’26年には2号店となる店を新宿にもオープンさせる予定だといい、その勢いを感じる。

『楊國福』の積極的な出店がマーラータンブームを作ったように、湖南料理やモンゴル料理といった中国発のチェーン店の増加も日本の食文化のトレンドに影響を与えることがあるかもしれない。

取材・文・写真:阿生

会社員兼ライター。東京で中華を食べ歩く会社員兼ライター。大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、ガチ中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内を中心に新しくオープンした中華を食べ歩いている。■ブログ:https://chuka.tokyo/ ■X : https://x.com/iam_asheng ■Instagram : https://www.instagram.com/asheng_chuka/