ライブドア・ニュースの取材に応じる田中康夫さん=東京・平河町の新党日本本部で(撮影:吉川忠行)

写真拡大 (全2枚)

ライブドア、アイフル、村上ファンド、中央青山監査法人、日本銀行、三井住友海上火災、第一生命、福島県、和歌山県、宮崎県、近未来通信、日興コーディアルグループ・・・。

 今年1年間に、企業・組織やその責任者個人が引き起こしたマネーにまつわる不祥事は枚挙にいとまがない。経営トップが頭を下げ、釈明原稿を棒読みするような謝罪会見がニュース番組や新聞のトップを飾るのは、もはや日常的な風景と化した。

 「時代の寵児」の一見華やかな言動は、経営者の脆弱な遵法意識や制度上の抜け道など日本経済の問題点を次々と露呈させた。また、多くの企業が危機感から企業価値向上に目覚める一方、少子高齢化などで先行き不透明な市場での生き残りをかけて、名門企業が次々とM&A(合併・買収)や非公開化に奔走した1年でもあった。

 「いざなぎ超え」の景気拡大をよそに、新興市場の低迷基調が続く中、混乱する日本経済に揺るぎない価値観で対峙してきた各現場のキーパーソンの言葉からこの1年を振り返りたい。まずは、総論として、『なんとなく、クリスタル』などの著書や市民運動、地方自治を通じて、「ほんものの豊かさ」を追求してきた作家の田中康夫さん(50)に聞いた。(全5回)

 ◆ ◆ ◆

── お金をめぐる企業不祥事が相次いだ1年だったが。

 この5年半で250兆円も借金が増大して世界一の借金国となった「小泉偽装改革」のウソが露呈しているんじゃないの。いろんな場所で、同時多発的に。悪役を買って出る人がいる案件だけ、聞こえのよいワンフレーズを絶叫して、改革したように見せかけた。

 道路公団も民営化しただけで通行料金は下がらない。1キロあたりの建設費用は同じく民営化したイタリアと変わらないのに、料金は3倍以上。ローマ─ミラノは東京─神戸と同じ580キロで4000円弱。日本は1万3000円だよ。

 ファミリー企業も増えて、天下り先が確保された日本は役人天国だぜ。設備投資する会社を対象にした2兆円にも達するという企業減税にしても、旧来的な重厚長大型産業の延命に過ぎない。サービス業や福祉、医療などの分野には何もメリットがない。

── 重厚長大型の産業が改革を重ね、21世紀型に生まれ変わったという見方もできるのでは。

 日本のものづくり産業が本業では採算が合わなくなってきているので、まったく関係のない金融やIT、環境に手を出して、一見変わったように見えるだけ。

 造船や鉄鋼のメーカーなのに、ごみ処理の最新技術であるガス化溶解炉を作って息を吹き返している企業がある。でも実態は、今あるごみ処理施設が使えるのに国の方針で導入させて、海外より2、3倍の建設費用を自治体に負担させて暴利をむさぼっている。

 保有する意味がないから、3年経っても人口の1%にも満たない国民しか取得しない住基ネットにしても、全国で維持費用が年間300億円もかかる「カネ食い虫」システム。それで利権を握るIT企業がある。

 結局は「ハコモノ」の利権が聞こえの良いITや環境に変わっただけなんだ。超少子・超高齢社会で人口が減り、右肩上がりなんてありえない中で、どういう産業構造にしてどう成熟を保っていくか。そういう発想がない。

 象徴的なのは、「キッザニア東京」(民営の職業体験型テーマパーク)が子どもたちで満杯になっていること。一方で、郵便局が民営化で採算が合わないからといって「子ども郵便貯金」を廃止してしまう。目先の話だけで、地に足が着いていないよね。

── 景気拡大が続いているが、個人の資産を取り巻く現状は。

 内需拡大といっても、1500兆円もの個人マネーがあるのに、じいさん・ばあさんは使っちゃいない。それは、社会に対して不安だからだ。へそくりを使わぬまま昇天して、遺族も知らない口座の預金は銀行の不労所得となっている。パロディーだよ。