ブレイン・コンピューター・インターフェース開発企業のScience Corporationが2024年10月21日に、視野の中央がよく見えなくなる「地図状萎縮」に苦しむ患者38人に対し、網膜の下にわずか2mmのチップを埋め込んだところ、視力が大幅に改善したことを報告しています。Science Corporationは網膜インプラントを含む一連のシステムを「PRIMAシステム」と名付けています。

Study Details | Restoration of Central Vision With the PRIMA System in Patients With Atrophic AMD | ClinicalTrials.gov

https://clinicaltrials.gov/study/NCT04676854



euretina-2024-prima.pdf

(PDFファイル)https://science.xyz/images/euretina-2024-prima.pdf

Science Announces Positive Preliminary Results For Vision Restoration In Pivotal Clinical Trial | Science Corporation

https://science.xyz/news/primavera-trial-preliminary-results/

Researchers create brain implant that enables blind people to read again

https://www.tweaktown.com/news/101331/researchers-create-brain-implant-that-enables-blind-people-to-read-again/index.html

イーロン・マスク氏が共同創設した脳インプラント企業・Neuralinkの元社長のマックス・ホダック氏がCEOを務めるScience Corporationが開発した「PRIMAシステム」は、カメラ付きのメガネが視覚情報をキャプチャし、網膜の下に埋め込んだわずか2mmのチップに赤外線のパターンを照射するというもの。赤外線を電気刺激のパターンに変換したチップは、電気パルスを脳に送信し、脳はこの信号を画像として解釈するため、疑似的に失った視覚を取り戻すことができるとされています。



Science Corporationは38人の視覚障害者に対して臨床試験を実施しました。これらの被験者は、加齢に伴い目の網膜にある黄斑部が変性を起こす疾患である加齢黄斑変性がさらに進行した地図状萎縮に悩まされる患者で、視界の中央がほとんど見えなくなっているとのこと。

以下はPRIMAシステムを実際に用いた実験の様子。視力を失った患者でも文字の読み書きがスムーズにできることが示されています。

PRIMAvera Clinical Study: Patient Clips - YouTube

実験では、PRIMAシステムを使用した患者の多くがこれまでよりも小さな文字が見えるようになったことが報告されています。具体的な結果を示したのが以下の画像です。最上段の「H V Z D S」しか見えなかった患者にPRIMAシステムを導入すると、多くが「N C V K D」から「K D N R O」まで見えるようになったことが示されているほか、最も効果が現れた患者ではさらに細かくなった「S Z R D N」まで識別できるようになったことが明かされました。



また、インプラントを埋め込んでから6カ月後と12カ月後の被験者の視力を測定した結果が以下。縦軸のlogMARは0を起点として、数値が大きいほど視力が悪いことを示しています。PRIMAシステムを導入した患者は、時間の経過に伴って視力の改善が続いていることが報告されました。



さらに、PRIMAシステムには補助機能としてズーム機能が搭載されています。Science Corporationによると、ズーム機能は視野が小さくなるものの、見える文字や物体を拡大できるとのこと。



PRIMAシステムの開発に携わったボン大学のフランク・ホルツ教授は「この結果は、加齢性黄斑変性による地図状萎縮によって引き起こされる失明の治療におけるマイルストーンを示しています。これまで、地図状萎縮の患者に対する効果的な治療選択肢はありませんでした。PRIMAシステムによって、加齢性黄斑変性のために悪化した網膜でも視力を改善できることが可能になりました」と述べています。

ホダックCEOは「私が知る限り、スムーズに文字を読むことができる能力を視覚障害者に与える研究は今回が初めてです。この結果は、この分野にとって大きなターニングポイントであり、今後数年間でこの重要な技術を市場に投入できることを非常にうれしく思います」と語りました。

なお、海外メディアのTweakTownは「PRIMAシステムは現状、色を認識することはできません。そのため、PRIMAシステムは視覚に障害を持たない健康な人に向けたものではありません」と指摘しました。