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●年間700杯以上を食べ歩く“ラーメン官僚”こと田中一明氏が、日本全国のローカル・ラーメンの最新事情&行く価値のある名店をご紹介します。今回は福島県のラーメン事情をお伝えします。

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 福島県といえば、北海道、岩手県に次ぐ全国第3位の面積を有する、非常に広大な県だ。県西部の会津若松市から、東部のいわき市までの直線距離は約120kmもある。県域の広さは、ラーメンシーンの多様さをもたらす。一部のエリアを除き、県の東西南北にバランスよくラーメン店が存在する“ラーメン王国”、それが福島県だ。

 ざっくり分けると、以下の3つのエリアに大別できる。

・「会津地方」(会津若松市・喜多方市)
・「中通り」(福島市から白河市・西郷村)
・「浜通り」(主にいわき市)

 そして福島県のラーメンシーンを語る上で必ず押さえておきたいのが、ご当地ラーメン「喜多方ラーメン」と「白河ラーメン」の存在である。

 喜多方市を中心に分布する「喜多方ラーメン」は、「札幌味噌ラーメン」、「博多豚骨ラーメン」と並び“日本三大ラーメン”のひとつに数えられるご当地ラーメンの代表格。1926年に潘欽星氏が創業した『源来軒』を祖とし、『坂内食堂』、『食堂はせ川』、『喜一』、『食堂なまえ』、『大安食堂』、『松食堂』、『一平』など、錚々たる名店をきら星のごとく輩出している。

 もう一方の雄、白河市を本拠地とする「白河ラーメン」も、「喜多方ラーメン」に勝るとも劣らない実力派ご当地ラーメンだ。「白河ラーメン」の存在を日本全国へ知らしめたレジェンド『とら食堂』を筆頭に、『火風鼎』、『手打中華すずき』、『やたべ』、『いまの家』、『カネダイ』など、こちらも名店がズラリ。分布圏の広さも特徴的で、白河市のほか、南は栃木県北部から北は福島市周辺に至るまで、白河から遠く離れた一都三県にも「白河ラーメン」の店が立て続けに誕生している。

喜多方ラーメンの本拠地・喜多方市の喜多方駅

 県全体を俯瞰すれば、これら2つのご当地麺以外にも、「会津山塩ラーメン」「郡山ブラック」「冷やしラーメン」など各地域にさまざまなご当地麺が存在するほか、2000年代以降、“非ご当地ラーメン”店も「中通り」の福島市・郡山市などに急増中。例えば『伊達屋』、『えなみ』、『うろた』、『二階堂』、『HOME』、『うから家から』、『こばや』、『若武者』、『トクちゃんらーめん』、『正月屋』、『信成』などがそれ。またいわき市を中心とする「浜通り」にも『チーナン食堂』、『味世屋食堂』、『やま鳶』、『麺遊心』、『さ近』など、個性豊かな店舗群が独自のラーメン文化を築き上げている。

 と、ここまでで約30軒のラーメン店の名を挙げたが、これでもなお、福島県のラーメンシーンを満足に紹介できているとは到底言いがたい。福島県のラーメンシーンの全容が理解できるようになるには、少なくとも100店舗以上のラーメン実食経験が要るのではないかと筆者は考えている。全国を見渡しても、ここまで多くの“ラーメン実食経験値”が要求される都道府県はそうそうない。まさに福島県は稀有な“ラーメン王国”なのである。

 前置きが長くなってしまったが、ここ数ヶ月の間に私が訪れた福島県のラーメン店の中で、特に印象に残った店舗をご紹介していこう。その一つが、2024年3月にオープンしたばかりの「白河ラーメン」の注目店『手打中華そば もり』(白河市)だ。

名店『とら食堂』のDNAを受け継ぐ『手打中華そば もり』(白河市)

 2024年3月15日にオープンした『手打中華そば もり』。この店が今、白河エリアで大フィーバーを巻き起こしている。それもそのはず。同店の店主は、白河を代表する実力店『とら食堂』で、10年間みっちり修業を重ねた上で満を持して独立を果たしたベテラン。しかも、『とら食堂』現店主の娘婿その人だ。

 白河エリアには、『とら食堂』を修業先とする店舗は複数存在するが、その中でも『もり』は別格。『とら食堂』のDNAを特に色濃く受け継いだ新星ということになる。

『手打中華そば もり』の玄関

 店舗の場所は、JR白坂駅の出口から徒歩5分程度。JR白坂駅は、福島県白河市に位置するJR東日本東北本線の駅。一日当たりの平均乗車人員がわずか63人しかいない無人駅であり、地元客以外の方がアクセスするには、上り・下り共に1時間に1本あるかないかという電車をつかまえる必要がある。つまり、他に目ぼしいスポットもないため、わざわざこの店を目指さなければ、まずアクセスしないような場所なのだ。

 にもかかわらず、同店に到着した際に、まず視界へと飛び込んできたのは、黒山の人だかり。 同店の開店時間は午前11時。現在、記帳制を導入しており、私が同店を訪れた11時過ぎの段階で、約50名の先客がボードに名を連ね、約2時間待ちという驚異的な人気ぶりだった。いかに今、『もり』が熱い店であるのかを示す証左だろう。

 同店が提供するのは、「中華そば」と「つけ麺」。加えて、「中華そば」のバリエーションである「焼豚麺」、「ワンタン麺」、「焼豚ワンタン麺」。中でも人気なのが、「白河ラーメン」の代名詞とも言われる「ワンタン」がトッピングされる「ワンタン麺」だ。

「ワンタン麺」[食楽web]

 注文してから約5分。恭しく眼前へと供された「ワンタン麺」は、特に自家製手打ち麺が驚くほどハイレベル。麺が口内へと飛び込んだ瞬間、その瑞々しい香気によって、頬が落ちそうになる感覚を明確に実感することができる。麺のクオリティがおしなべて高い「白河ラーメン」提供店舗の中でも、啜り心地、風味共に頭ひとつ抜きん出た完成度を誇り、思わず、大盛を頼まなかったことを後悔したほどだ。

 鶏ガラと豚ガラを絶妙なバランス感覚でブレンドした出汁感豊かな清湯スープも、穏やかなテイストでありながら、内に秘めたるパンチ力があり、食べ終わりまでレンゲを持つ手を止めることができない。ワンタンの衣に数本の麺を包み込み、スープと共に勢い良くすすり上げれば、幾種類ものうま味が舌上で一体化し、味覚中枢を心地良く刺激。食べ手を桃源郷の境地へと誘う。

 食べ終わる頃には、2時間待ちの苦労も、どこかへと吹き飛んでしまっていた。

●SHOP INFO

店名:手打中華そば もり

住:福島県白河市白坂三輪台243-3
TEL:0248-29-8468
営:11:00~材料が無くなり次第終了
休:木曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。