石破首相と日銀、じつは「アンチ安倍仲間」で急接近していた⋯!? 水面下で日銀が進めた「石破取り込み作戦」の一部始終

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首相自身が「石破ショック」に狼狽

日銀が石破茂新政権との「間合い」の取り方に苦心している。

「アベノミクスの継承をうたう高市早苗氏が首相にならなくて本当に良かった。うちへのシンパシーがある石破首相なら金融正常化路線を進められる」

植田和男総裁ら執行部が9月27日の自民党総裁選の結果にこう胸を撫でおろしたのもつかの間。週明け30日の市場では、「利上げ容認」「緊縮財政」志向の首相誕生への警戒感から、前週末に1ドル=146円台だった円相場が一時、141円台まで急騰。日経平均株価も前週末終値比1900円以上も急落する「石破ショック」が起き、日銀内の楽観論まで吹き飛ばした。

急激な円高・株安の実相は、「金利を今、上げるのはアホ」と言い放った高市氏の総裁(首相)就任を勝手に当て込んだ投機筋による「高市トレード」の巻き戻しだったが、衆院解散・総選挙を目前に控える中での市場の変調に石破首相は狼狽。就任翌日の10月2日には早速、植田総裁を官邸に呼び出した。

会談後には記者団に「個人的には、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と語るなど、利上げ容認イメージの払拭に躍起だった。総裁選では「金利が健全に機能することが大事だ」などと公言していた首相の豹変ぶりに、株価は急回復した一方、為替相場は円安傾向が続き、10月22日には一時1ドル=151円台と7月末以来の円安・ドル高水準を付けた。輸入物価高が家計や中小企業の経営を圧迫する事態が再び懸念される中、三村淳財務官が「市場の動向を高い緊張感を持って注視したい」と投機筋を牽制する事態に。

急激な円安・ドル高の直接の要因は、9月の米雇用統計が市場予想を上回る強い内容となり、米連邦準備理事会(FRB)の大幅利下げ観測が後退したためだが、石破発言で「日銀の追加利上げが遠のいた」(米銀ディーラー)と見られたことも影響した。「総選挙後の12月から年明け1月早々には政策金利が0.5%に引き上げられる」との相場観を醸成してきた日銀にとって大きな誤算と言える。

選挙後に「腹合わせ」のつもりが…

最大の後ろ盾だった岸田文雄前首相が8月半ばに退陣表明して以降、日銀も政局には敏感となっていた。植田総裁が9月以降「経済・物価の見通しが実現していけば金融緩和の度合いを調整していく」と金融正常化路線を堅持しつつ、新政権の発足や早期の解散・総選挙を念頭に「政策判断に当たっては時間的余裕がある」と、性急な利上げに走らないハト派寄りの姿勢を示していたのはそのためだ。

「余裕」ができた背景には、財務省による大規模な円買い・ドル売り介入と7月の金融政策決定会合での「前倒し利上げ」の効果で、行き過ぎた円安が是正され、1ドル=140円台前半で安定してきたことがあった。

内田真一副総裁(1986年入行)ら企画局ラインは、円相場が当面大きく動かないことを前提として、12月か1月の追加利上げを念頭に、衆院選をこなした石破政権と本格的な腹合わせしたい意向だった。

経済・物価情勢を見て金融政策を判断するのが日銀の建前だが、実際には「政治」や「為替」の動向を無視して政策変更するわけにはいかない。為替については、黒田東彦総裁時代の異次元緩和の隠れた狙いが、景気や物価に悪影響を及ぼす円高の是正だったことは「公然の秘密」(霞が関筋)。植田日銀が市場の想定を覆して7月利上げを強行したのは、円安に歯止めを掛けるためだった。

官邸の理解を得ることはもっと重要かもしれない。安倍晋三権時代には言い出すことさえ憚られた異次元緩和の幕引きに、植田日銀が今春着手できたのは「岸田官邸と脱アベノミクスを目指す方向性で一致していた」(内田副総裁周辺筋)からだ。

「アンチ安倍」という共通点

「日銀は石破氏ともかねて近しい関係を築いてきた」。日銀OBはこう解説する。

党内最大勢力の安倍派議員らから、「デフレからいつまでも脱却できないのは金融緩和が手ぬるいからだ」と激しいバッシングを浴びた2008〜2013年の白川方明総裁(1972年入行)時代に、「アンチ安倍」という同類意識からか両者は接触を重ねた。

当時、副総裁だった山口広秀氏(1974年同)ら白川総裁体制下のプロパー幹部には、インフレ目標を押し付け、中央銀行の独立性を脅かそうとする安倍氏らリフレ派に対抗する狙いがあったという。

2012年末の安倍政権となり、リフレ派の黒田東彦元財務官が総裁に送り込まれて以降、日銀の現役幹部が「党内野党」の石破氏のもとを訪れることは難しくなったが、山口元副総裁に連なる有力OBがパイプを繋ぎ続け、石破氏を日銀シンパとして抱え続けてきた経緯がある。

5度目の総裁選挑戦を成就させ、石破政権が発足した今、本来なら、日銀の長年の苦労が報われようというものだが、政治の世界はそんなに甘くはない。

「市場に歓迎されない首相」とのレッテルを貼られることを警戒する石破氏は一議員時代のように「金利を上げていかなければ日本経済は正常化しない」などと正論を吐くだけでは務まらない。総裁選で惜敗した高市氏が自民党総務会長ポストを断るなど対立姿勢を鮮明にする中、仮に石破氏が利上げ容認に傾き、株価が大きく崩れれば、政権批判の格好の材料にされかねないからだ。

石破側近の赤沢亮正経済財政・再生相が就任早々の閣議後の記者会見で「首相が金利引き上げに前向きだと言われるのは、全体の絵として必ずしも正しくない」と市場やマスコミを牽制したのは、党内基盤が脆弱な事情を熟知していたからだ。

「利上げメガネ」と言われるのか

岸田前首相は「増税メガネ」と綽名され、財務省シンパのレッテルを貼られることを嫌って定額減税やガソリン・電気代補助の大盤振る舞いなどに走った。石破首相の場合、株安を誘発しかねない「利上げメガネ」と言われることを嫌がり、日銀の金融正常化路線の前に立ちはだかる可能性も無きにしも非ずというわけだ。

キシダノミクスの継承を掲げる石破首相に、岸田前首相と同様の利上げ路線支持を期待していた日銀だが、新政権との間合いの取り方は想定以上に難しそうだ。足元では、米国の大幅利下げ観測の後退で再び1ドル=150円を大幅に超えるような円安進行がぶり返す懸念も強まっている。

現実になれば、日銀は市場から追加利上げを催促される展開となりそうだが、石破官邸がすんなりと受け入れるとは限らず、市場と政治の板挟みで身動きが取れなくなる恐れがある。

「国際的に著名な経済学者」の植田総裁と「日銀随一の秀才」である内田副総裁、「霞が関随一のインテリ」という氷見野良三副総裁(1983年旧大蔵省、元金融庁長官)の現執行部は「史上最高頭脳のトロイカ」と評されてきた。一方で、3氏とも政治との折衝に精通しているとは言い難いのが最大のアキレス腱。

新政権との間合いの取り方を誤れば、金融正常化戦略が泥沼に嵌まりかねない。

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