再審が認められ、両手を挙げる前川彰司さん(中央)=2024年10月23日午前10時4分、金沢市、金居達朗撮影

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 福井市で1986年に中学3年の女子生徒(当時15)を殺害したとする殺人罪で懲役7年の判決が確定し、服役した前川彰司さん(59)の第2次再審請求で、名古屋高裁金沢支部(山田耕司裁判長)は23日、裁判をやり直す再審を認める決定を出した。

【写真】事件とは無関係だと訴えてきた前川彰司さん(右)と父の礼三さん=2024年10月14日、福井市

 有罪の根拠となった知人男性(60)の目撃証言について、決定は「自身の覚醒剤事件で有利な量刑を得るため、捜査に行き詰まった捜査機関の誘導などの不当な働きかけに迎合し、うその供述をした疑いを払拭(ふっしょく)できない」と指摘した。証言の信用性を認めることは「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則にもとり、「正義にも反して許されない」と述べた。

 前川さんは「生徒と会ったこともない」と一貫して無罪を主張。指紋や足跡などの物証はなく、「血の付いた前川を見た」「かくまった」という男性らの供述の信用性が争点になった。

 高裁支部はまず、男性の供述を支えた別の知人(59)の証言を検討した。その知人はテレビ番組の場面をもとに「事件当夜の記憶」として前川さんと会ったと話してきたが、検察側が第2次再審請求で開示した捜査書類によって、番組の放映は別の日だったことが判明。この証言は「客観的な裏付けを失った」と高裁支部は指摘した。

 さらに、今回の再審請求審も含めて証人出廷のたびに証言が変わってきたことや、担当刑事から結婚の祝儀をもらっていたことを明かした点を重視。誘導されやすく、警察の不正な働きかけを受けた知人の証言は信用できないと指摘した。

 その上で男性の供述を吟味した。男性は覚醒剤事件で逮捕・勾留中に「(後輩の)前川が胸に血を付けていた」と言い始めたが、開示された捜査書類によって、取調官に「(自身が)減刑される方法はないか」などと持ちかけ、事件の情報を求められて供述を始めたことが発覚している。

 その後も「血の付いた服を隠した」などの証言を繰り返したが、裏付けが取れず、高裁支部は「男性の供述は無実の者を罪に陥れる危険なもの」と指摘した。有罪認定の柱となったこれら主要な証言の信用性を揺るがせた捜査書類などは、再審開始に必要な「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」に当たると結論づけた。

 この事件では、福井地裁は男性らの証言に「異常な変遷がある」として無罪としたが、高裁支部は「根幹は一致している」としてシンナー乱用による心神耗弱を認めて懲役7年とし、97年に最高裁で確定した。第1次再審請求で高裁支部は2011年に再審開始を認めたが、後に取り消され、前川さんは22年に第2次請求をしていた。

 今回の高裁支部決定に対し、検察は第1次請求と同様、異議申し立てをすることができる。名古屋高検の畑中良彦・次席検事は「決定文を子細に検討し、適切に対応したい」とコメントした。(椎木慎太郎)