2024年10月14日、出雲駅伝を優勝し、仲間に胴上げされる國學院大のアンカー、平林清澄 写真/日刊スポーツ/アフロ


(スポーツライター:酒井 政人)

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青学大の「かっとばせ大作戦!」は不発

 10月14日に開催された出雲駅伝。前日の記者会見で関東の有力7校の指揮官たちが登壇して、大会の意気込みを語った。戦略上すべてが本音とは限らないが、実際のレースはどうなったのか。その“答え合わせ”をしてみたい。

 今大会のV候補だった青学大。原晋監督は、「盛り上がっている野球界に負けないように作戦名は『かっとばせ大作戦!』です。距離が短い出雲は前半の遅れが致命的になるので、チーム内5000m最速ランナーの鶴川を1区に置いてかっとばしていきたい。3区黒田で先頭に躍り出て、独走態勢を築ければ理想な展開だと思います」と語っていた。

 狙い通りに1区鶴川正也(4年)が区間賞で飛び出すも、2区野村昭夢(4年)で3位に転落する。3区黒田朝日(3年)がトップを奪い返したが、リードはわずか4秒。独走態勢を築くことができず、チームは3位に終わった。

 駒大は佐藤圭汰(3年)が登録外ながら、貪欲に3連覇を目指した。藤田敦史監督は、「1区は確実に前にこないと勝負にならない。試合で外さない強さがある1年生の桑田を抜擢しました。3区は青学大の黒田君が来るのを想定して、昨年3区で好走している山川をぶつけました。1〜3区の出来がカギになる。そこで好走できれば、6区に絶対的エースの篠原を置いているので、勝つ確率が高くなると思っています」と話していた。

 1区桑田駿介(1年)がトップと15秒差の6位でスタートすると、3区山川拓馬(3年)は青学大・黒田と接戦を演じた。4区伊藤蒼唯(3年)でトップに立ち、三大駅伝初出場の5区島子公佑(2年)も区間2位と好走。6区篠原倖太朗(4年)が4秒先に走り出した國學院大・平林清澄(4年)に追いつくも、中盤に引き離されて、逆転Vはならなかった。

國學院大は狙い通りの連続区間賞

 前回3位の國學院大は「駅伝3冠」を目指して、出雲で5年ぶりの優勝を狙っていた。前田康弘監督の思惑は以下の通りだった。

「主将・平林が最後にいる心理的な優位が働くと思っていますし、4区と5区のつなぎはどの大学にも負けません。3区辻原は平林と同等の練習ができているので、そこがしっかり機能すれば面白い駅伝ができるかなと思っています。1区は10000m27分台の力がある青木で流れに乗って、中盤粘り、4区と5区でアドバンテージをとって、平林にいいかたちで渡したい」

 1区青木瑠郁(3年)が青学大・鶴川と8秒差の3位で滑り出すと、3区辻原輝(2年)も区間4位と好走。3区終了時で青学大と20秒差の3位につけた。そして狙い通りに浮上する。4区野中恒亨(2年)と5区上原琉翔(3年)が連続区間賞。トップで平林清澄(4年)にタスキをつなげた。最後は絶対エースが駒大・篠原を突き放して、歓喜のゴールに飛び込んだ。

エース欠場も2区吉田が爆走した創価大

 前回、2番目(失格)にゴールした創価大。榎木和貴監督は「2区の吉田響がいい状態で仕上がっていますので、3区ムチーニでトップに立つ展開ができればなと思っています。4区には主将・吉田凌を据えていますし、アンカー小暮栄輝の勝負強さに期待して、目標の3位以上を達成したいと思います」と攻めのオーダーを組んできた。

 しかし、日本インカレ5000m王者のスティーブン・ムチーニ(2年)は欠場。エース区間の3区をルーキー山口翔輝に託すことになった。そして2区吉田響(4年)が爆走する。トップと26秒差の10位でタスキを受け取ると、9人をゴボウ抜き。一気にトップを奪ったのだ。3区で4位に転落するも、山口は区間7位でカバー。その後は安定したレース運びを見せて、4位に入った。

出雲駅伝、2区の区間賞に輝いた創価大・吉田響 写真/日刊スポーツ/アフロ


 前回2位に大躍進した城西大。櫛部静二監督は、「前回は1区斎藤が転倒して1分遅れた。その分がなくなれば、3区キムタイにいい状態で渡せるのかな。4区の主将・平林で大きくリードできれば、6区の久保出は自己ベスト以上の力があるので、期待したいと思います」と直前に目標を「5位」から「2位」に上方修正して、勝負に臨んだ。

 2年連続の1区となった斎藤将也(3年)は11位と出遅れて、3区のヴィクター・キムタイ(3年)に12位でタスキが渡る。キムタイは2年連続の区間賞で5位に浮上するも、4区平林樹(4年)と6区久保出雄太(4年)は区間9位と伸び悩み、7位でレースを終えた。

 前回5位の早大は、「優勝争いをするチームにしたいので、先頭を走る経験をさせたい。1区にエース山口、2区に主将・伊藤を置きました。1年生の山口は高校時代からロードに強いので、あえて厳しい3区を任せました。直近のロードレースで良かった4区藤本が終わった時点でどのあたりにいるのか。5区長屋、6区工藤はロードの安定性がある選手なので、最後まで先頭が見える位置でレースを進めたい」と花田勝彦監督が話していた。

 1区山口智規(3年)が12位と波に乗れず、2区伊藤大志(4年)も区間10位と大苦戦。3区山口竣平(1年)は区間11位と持ち味を発揮できず、4区終了時で9位と伸び悩んだ。それでも5区長屋匡起(2年)が区間3位、5区工藤慎作(2年)が区間2位と好走して、最後は6位まで順位を押し上げた。

 9年ぶりの出場となった大東大。真名子圭監督は、「目標の5位を確実にとれるオーダーを組みました。1区に10000mで本学最高タイムを持つ入茺、2区に5000mで本学最高タイムを持つ大濱を置いて勢いをつけたい。何かあった場合でも盛り返せるように3区には留学生を配置しました。最終的にはエース西川が5番でゴールできる流れで考えています」と自信を口にしていた。

 1区入茺輝大(3年)が5位で発進して、2区大濱逞真(1年)も区間3位と活躍。2区終了時で4位につけたが、3区キプロップ・エヴァンス(1年)で7位、4区小田恭平(4年)で10位に転落する。アンカー西川千青(4年)が区間5位と奮起するも、10位と振るわなかった。

 次なる戦いは約3週間後の全日本大学駅伝(11月3日)だ。有力校の指揮官たちは出雲駅伝の結果を踏まえて、新たな戦略を考えることになる。

筆者:酒井 政人