石破総理の「北朝鮮との連絡事務所設置」はあまりにもナンセンス…本気で拉致被害者を救出する意思があるなら「特殊部隊による救出作戦決行の覚悟」が必要だ

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横田早紀江さんの悲願

いまから約47年前の11月15日、新潟の街から北朝鮮の工作員によって拉致された横田めぐみさんが、今月5日に60歳の誕生日を迎えた。

この前夜、東京都文京区で支援団体などによって開かれた集会に出席した母親の早紀江さん(88歳)は、「もう47年ということばに出したくないほどの長い年月、人の一生に関わるくらいの長い年月です。何にも悪いことをしていないのに、北朝鮮に連れて行かれたまま、考えられないような時間が過ぎてしまいました」などと話し、一刻も早いすべての拉致被害者の救出を求めた。

同じくこの集会に参加していた、めぐみさんの弟で拉致被害者の家族会代表の横田拓也さんは、今回新たに就任した石破総理大臣が提唱している、東京と北朝鮮のピョンヤンにそれぞれ連絡事務所を開設し交渉の足がかりを作るという政策について触れ、「北朝鮮においては、拉致被害者が厳重な監視下で、誰が、どこで、いつ、何をしているかを把握しています。(拉致被害者が)どこにいるかわからないという、うその前提にたっての連絡事務所の設置というアプローチは、彼らの工作活動に手を貸すことになるのです。単に、北朝鮮がたくらんでいる、時間稼ぎや幕引きに加担することになるのです」と述べ、家族会としてこの石破総理の政策に反対する意向を示した。

信じられない発言

この横田拓也さんのおっしゃることを全面的に支持したい。まったくこの通りだと強く思う。

連絡事務所の設置については、米国の前トランプ政権の時代に北朝鮮との間で、約2年近くに及ぶ交渉の最終段階で合意にこぎつける寸前までいった際に、具体的な合意内容として持ち上がったような類の話である。未だ、金正恩総書記との間で一度も日朝首脳会談も行われていない段階で、交渉も行う前から相手を信頼してその懐(ふところ)に飛び込むような内容の発言は信じられない。金総書記の嘲笑が思わず目に浮かんでしまった。

しかも、対北朝鮮政策で日米韓の結束が何より重要なこの時期である、米国や韓国の対北朝鮮に関わる外交や防衛当局者にとってこのような発言は「寝耳に水」であったのではないか。おそらく、今頃はあっけにとられていることだろう。

それにしても、これまでの北朝鮮に対する日米韓を中心とする取り組みの経緯、北朝鮮のロシアに対する軍事的支援など昨今の北朝鮮を取り巻く情勢、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後の日米韓による北朝鮮に対する軍事的対応の状況などのさまざまな要素を俯瞰して、一体どのような考え方に基づけば、この日朝相互の連絡事務所設置というような結論に至るのであろう。全くもって、ナンセンスこの上ないと言わざるを得ない。

石破総理は、就任後、外務省や防衛省などで朝鮮半島情勢を専門に分析している部署からしかるべき昨今の情勢に関わる報告を受けた上で、このような判断をしたのだろうか。とてもそのようには思えない。かかる報告を受けるような時間は未だ取れていないだろうし、ひとえに、自らの信念に基づく先走った発言のように思えてならない。

これまでの経緯

北朝鮮の金正恩総書記は、2019年2月にベトナムのハノイで行われた(トランプ大統領と2018年6月に初めて開催して以来)2回目となる米朝首脳会談で合意が決裂して以降は、その対米姿勢を対話から対決へと180度転換し、再び核・ミサイル開発を加速させるなど、軍事力の強化に邁進しているところである。

加えて、2022年5月に対北宥和政策をとっていた文在寅(ムン・ジェイン)政権が、対北強硬派の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に交代してからは、さらに韓国との対決姿勢も露わにし、本年1月に行われた北朝鮮の最高人民会議で金総書記は演説し、「韓国との統一がもはや不可能というのが自身の最終結論だ」と述べた上で、韓国を「第1の敵国、不変の主敵と定めて自国民を教育すべきだ」と表明した。

なお、今月7日と8日に再び行われた最高人民会議においては、この韓国の「主敵」扱いについて憲法で明文化された可能性もあると見られている。

北朝鮮は変容した

北朝鮮が、1948年の建国以来、金日成や金正日など歴代の最高指導者たちが、祖国や民族の至上命題として掲げていた朝鮮半島の統一という国家目標を捨てた意義はあまりにも大きい。

つまり、金正恩総書記によって、もはや「朝鮮民主主義人民共和国」は完全に以前とは別の独裁国家に変容した、と見なければならないということである。

一方の韓国は、今月1日に行われた「国軍の日」で自国の新型弾道ミサイル「玄武(ヒョンム)5」を初めて公開するとともに、尹大統領が演説で「北朝鮮が核兵器の使用を企てるなら、韓米同盟の圧倒的な対応で、その日が(北朝鮮政権の)終末の日になる」と、自国を主敵と位置付けた北朝鮮を牽制した。

かかる情勢で、日本が今なすべきは、この米韓との連携をさらに強固にして、北朝鮮への圧力を強めることである。すでに、軍事面においては、北朝鮮の弾道ミサイルなどの発射に際し、日米韓が連携してこれに対抗するような北朝鮮への示威行動を実施しているところでもある。

したがって、石破新総理が、拉致被害者を取り戻すことを最優先の政策課題にするというならば、現時点で明言すべきは、「北朝鮮による日本人拉致被害者全員を救済するためには、あらゆる選択肢を排除しない」ということではないか。即ち、力づくでも取り戻す覚悟を示すことだ。

血を流す覚悟があってこその「交渉」

力づくで拉致被害者を取り戻すための選択肢は大きく二つ。

一つは、「特殊部隊を編成して救出作戦を実行する」ことであり、もう一つは、「金総書記による独裁体制を終わらせ、朝鮮半島の休戦状態を完結(南北が自由に行き来できる又は南北が統一)させる」ことである。

この内、わが国が主体的に行えるのは前者であるが、この場合も米韓による軍事協力は不可欠となろう。

以上を考慮すると、いずれも極めてリスクが高い選択肢であるとは思われるものの、救出作戦に関しては、前述のとおり米韓との軍事協力の機は熟している状況にある。何より重要なのは、これを実行しようという意志を示すことであり、米韓の協力を得てこの救出作戦を実行可能にするための訓練を始めることだ。

本年6月25日の拙稿『「電撃訪朝」のウラでプーチンと金正恩が最も恐怖していた「米韓特殊作戦部隊」の正体』で述べたように、米韓による特殊作戦訓練は年々深化しており、これに伴ってその能力も向上を遂げている。わが自衛隊も、今後このような訓練に積極的に参加して、北朝鮮にその意志をアピールすべきではないか。

日米韓の軍事的圧力がさらに高まり、北朝鮮国内における特殊作戦の遂行が現実味を帯び、金総書記が自らの命運に危害が及ぶような事態を察知すれば、拉致被害者の解放のための交渉も現実味が帯びることになるであろう。

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