「大阪生まれの在日コリアン3世」が、韓国に留学した直後「とにかく不便だった」意外なこと

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在日コリアン3世で元全国紙記者の韓光勲さんは、30歳にして韓国留学を決断しました。韓国籍ではあるものの、「大阪生まれ、大阪育ち」であり、韓国語が苦手。それでも韓国に留学し、在日コリアンという立場からさまざまな発見をします。そんな彼の発見をギュッとまとめたのが『在日コリアンが韓国に留学したら』という本。

韓国留学で最初に必要だと感じたのが「住民登録」でした。完全な外国人であれば必要ないものですが、韓国籍である韓さんはこれを行わないと現地でスマホを契約することもできないのです。この手続きの過程で、在日コリアンという立場のむずかしさを感じたといいます。

韓国籍は住民登録がなければ何もできない

韓国に到着してから、すぐに必要だと気づいたのは住民登録である。韓国では、日本でいう「マイナンバーカード」のような「住民登録証」が国民に発給される。

韓国ではこの住民登録証が身分証明書になる。別名で「身分証」とも呼ばれている。日本では学生証や運転免許証も身分証になるが、韓国ではこの住民登録証しか身分証として認められない。銀行口座を開くにも、携帯電話を契約するにも、この住民登録証が必要になる。あらゆる手続きに紐づけられているのだ。

韓国に着いてすぐ、住民登録証を持っていなかったために苦労した。住民登録証が無ければ、文字通り何もできないのだ。オンラインチケットの購入もできない。スマホの契約もできない。とにかく不便だった。

僕のような「在外国民」が韓国に31日以上滞在する場合、かならず住民登録をしないといけない。住民登録をして、身分証をゲットして初めて、携帯のSIMカードを契約できる。全くの外国人であれば、ビザや外国人登録証明書を見せれば携帯番号をゲットできる。なのに、在日コリアンは住民登録証がないと契約できない。在日コリアンという立場ゆえの難しさを感じた。

在日コリアンゆえの手続きの煩雑さ

行政手続きをする「住民センター」に行った。「住民登録をしたい」と申し出ると、「いままで住民登録をしたことがないのですか?」と驚かれた。この時行ったのは、実は隣の区の住民センターで、「あなたが手続きをするのはここじゃない」と言われた。かなり適当な対応をされて、外国人用の書類を渡された。外国人じゃないのに。「韓国籍だぞ」と思ったが、何も言わなかった。

僕の住む安岩洞(アナムドン)の住民センターに向かった。こちらは丁寧な対応だった。ベテランの人が対応してくれた。寮で書類を発行してもらわないといけないらしい。写真も2枚必要とのことだ。この女性職員はすごく親切な方で、その後も何度かお世話になった。

韓国政府は在外国民の現実を想定していないと思った。発行までに1カ月かかるというし、それによって受ける不利益は大きい。これが、在日コリアンが韓国に住むということだ。その煩雑さはある程度受け入れないといけないのだろう。

外で携帯が全く使えないのはさすがに不便なので、中国系資本の携帯会社「チング通信」でポケットワイファイを契約した。1カ月で約4500円だった。

「キンパ天国」で物価の高さに驚く

留学開始当初、よく通ったのは定食屋チェーン店の「キンパ天国(チョングク)」である。寮から歩いて10分のところにあった。

どんなメニューがあるかというと、まずはもちろんキンパ(韓国風海苔巻き)。普通のキンパ、キムチキンパ、チーズキンパなど、6種類のキンパがある。

つぎは「トンカツ類」。普通のトンカツ、スペシャルトンカツ、チーズトンカツがある。「軽食類」としては、カルククス(韓国のうどん)、おでん、トック(餅)スープ、ラーメン、トッポッキ。ほかに「食事類」として、スンドゥブ、キムチチゲ、テンジャンチゲ(みそ汁)、チャーハン、オムライスがある。メニューは豊富だ。

初めて行った日は「オルクンカルククス」を注文した。カルククスは、うどんのような麺。辛いスープに野菜が入った麺がでてきた。「サジャンニム」(店主)に聞くと、「オルクン」は「辛い」という意味らしい。「辛くないのにしてって言ってくれたら、辛くないのもできるよ」とのことだった。

値段は手頃だ。キンパは3000ウォン。僕が食べたカルククスは8000ウォン。合わせて11000ウォンなので、だいたい1000円と少しか。これでも、かなり高くなった。僕が短期留学に来た2017年と比べて、物価は1・5倍くらいになっていると思う。

いまはまだ日本と韓国の物価はそんなに変わらないから、韓国は旅行しやすい国である。これがあと10年もしたら、韓国のほうが、物価がはるかに高い国になるかもしれない。韓国は物価が上がっている分、賃金も上がっているようである。実はすでに、韓国は平均賃金などで日本を上回っている。1人当たりのGDPは2018年に日本を追い抜き、その差は広がっている。2021年の平均賃金は、日本は4万849ドルで、韓国は4万4813ドルだ(https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/900/473324.html)。

僕は、韓国が物価も賃金も安かった時代を知っているので、現状には驚いてしまう。時代は変わるものだ。韓国は変化の激しい国だ。それにしても、日本はほんとうに時間が止まっている。最近ようやく物価が上がり始めたけど、賃金の伸びがあまり追いついていないから、なかなか大変だ。

「キンパ天国」は3日連続で通うと飽きてしまった。チェーン店特有の味というのか、代わり映えしない味に飽きたのだ。

【つづき】「「大阪生まれの在日コリアン3世」が韓国留学で目にした、「親日派の銅像」という興味深い存在」(10月10日公開)の記事では、韓さんが花見中に見た、意外な光景を紹介します。

「大阪生まれの在日コリアン3世」が韓国留学で目にした、「親日派の銅像」という興味深い存在