「待望論はゼロ」高木毅氏、無所属で出馬も「自民党はおろか地元からも見放された」過酷な現実

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高木の「弁明」を聞きにきたが…

長い鼻を左側に向けた、象の顔のような形をした福井県。その目の付近に位置する越前市内のJA越前たけふ会館で、4月13日午後4時から、自民党武生支部の総会が開かれた。

自民党の地方組織は、開業医、郵便局、神社、農業、自動車といった業界団体ごとの職域支部と、基礎自治体ごとに設けられた地域支部に大別される。武生支部は、県内に26ある地域支部の1つだ。衆院議員を国会に送りだす総選挙をはじめ、自民党では、こうした地方組織に所属する党員が選挙活動の担い手となる。

この日、会場となった3階の会議室には、例年に比べて2倍近い約50人の自民党員が詰めかけていた。彼らが足を運んだ理由は1つ。武生支部を含む衆院・福井2区選出の高木毅衆院議員が来賓として訪れることから、その“弁明”を聞くためである。

安倍派の事務総長を務めた高木氏はこの10日ほど前、派閥パーティーをめぐる問題で、5年間で1019万円の裏金をつくっていたとして、自民党から党員資格停止6ヵ月の処分を受けたばかりだった。

ところが、総会で上程されたすべての議案が可決・成立し、終盤にさしかかっても、多くの参加者は釈然としない表情を浮かべていた。1人の党員が突然立ちあがって、発言を始めたのはそんなときである。

「これは、おかしいんじゃないですか。説明責任を果たさんような人を、武生支部として(衆院議員の候補者に)推薦するべきじゃない」

「誰に向かって話しているんだ」

総会に参加した別の党員が振り返る。

「あの日、あいさつした高木さんは、私たちが聞きたいことにまったく答えてくれなかった。なんで裏金をつくったのか、1000万円を超えるお金をいったい何に使ったのか、どうして(政治資金)収支報告書に書かなかったのか。みんなが聞きたいことには答えず、『安倍派が裏金事件を起こした』『国民の皆さまにお詫びしたい』と、最後まで他人事のような話しぶりでした。

私らが聞いているのは、政治家個人としての高木さんの責任であって、安倍派がどうしたなんて関係ない。地元の支援者を前にしているのに、『国民の皆さま』って、誰に向かって話しているんだって。

総会の最後に発言したのは、選挙になるといつも一生懸命やってくれる仲間です。総会で発言したのはおそらく初めてで、聞いている私たちの方が驚いた。武生支部では、彼の発言を緊急動議として扱い、最後まで反対の声は上がらなかったので、次の総選挙で高木さんを推薦しないよう(上部団体の)福井県連に求めることを決めました」

自民党が国政選挙の候補者を選ぶ際は、地域支部からの推薦を募り、各都道府県の支部連合会(都道府県連)がとりまとめて、党本部が最終決定する。つまり、この日の武生支部の総会で起こったことは、裏金問題をめぐる説明責任を果たさない高木氏に対して、地元での選挙活動を担い、有権者でもある党員が、国会議員失格の烙印を押したことを意味するのだ。

実際、武生支部では6月にあらためて、福井県連に対して、高木氏を次期総選挙の候補者として推薦しないよう上申書を提出している。

「ところが、高木さん本人が、私たちの思いをどこまで真摯に受けとめてくれたのかわからない。なぜなら高木さんは、総会の冒頭であいさつを終えると、そのまま帰ってしまいましたから。処分を受けて間もない時期に開かれた総会でしたから、当然、最後まで残って説明を尽くすものと思っていたのですが……」(同前)

もはや地元に「待望論」はなく

9人の候補者が乱立した総裁選、石破政権の発足、10月27日の総選挙――。自民党派閥の裏金問題が明るみになって以降、有権者の信を問う初めてのフルスペックの国政選挙が決まったことで、裏金議員の公認問題が差し迫った課題となっている。なかでも高木氏の福井2区は特殊なケースだ。

「自民党は4月、政治資金収支報告書に不記載のあった裏金議員39人を処分しました。なかでも処分が重かったのは、高木さんを含む安倍派の幹部を務めた5人だった。ところが、高木さんだけが、総選挙を前にした10月4日に処分が明けることになってしまった。このため福井県連では、高木さんが党員資格を回復したことを受けて、禊を経た清廉潔白な候補者として扱っていいものか、難しい判断を迫られることになったのです」(地元紙記者)

高木氏の処分が最初に明けることはあらかじめわかっていたことだが、処分期間中も地元で“待望論”があったわけではないという。福井県連幹部が語る。

「高木さんに対する地元の見方は『裏金議員の急先鋒』。県民の間には不信感しかないという印象です。だからこそ、高木さんが自民党の公認候補になった場合、選挙運動を支えなければならない県議や市議たちは戸惑っていた。高木さんの選挙を手伝えば、自分たちも『同じ穴のムジナ』だと見なされてしまうからです。実際に福井県連の幹部の間でも、処分が明けた高木さんをすんなり推薦しようとする空気はありません」

その一方で、10月4日には、朝日新聞が〈裏金議員を原則公認へ/首相、比例重複も容認〉と特報。党内基盤の弱い石破茂首相が、森山裕幹事長ら「早期解散派」に主導権を奪われた結果、裏金議員の公認見直しなど、党内の反発を招くような政治決断が困難な状況にあることがわかってきた。

新しい公認候補擁立を模索していた

そうしたなかで本誌は、福井2区内で、高木氏に対する根強い不信感が渦巻いていることを示す内部メモを入手した。1行目に〈本件取扱注意願います。(党県連、支部への逆流も禁止です)〉(原文ママ、以下同)と書かれたメモは、7月下旬、自民党敦賀支部の関係者が、福井県連トップで参院議員の山崎正昭会長と懇談した際の発言をまとめたものだとみられる。同支部が拠点を置く敦賀市は、高木氏の出身地だ。

山崎会長の発言でまず目を引くのは、高木氏に対する評価である。〈山崎先生より以下の話があったようです〉と書かれ、いくつかの話題が箇条書きでまとめられたなかに、次のような記述がある。

〈現職高木議員は地元、党本部でも評判が悪く(例えば高木先生と松野官房長官(当時)は同期議員で、ある国会議員同士の懇親会の場で「松野!」と呼び捨てにしていたのを多くの同席自民党議員が見ていた等)、今回の裏金問題もあり勝てない〉

そして、次期総選挙に向けて、水面下で次のような動きがあったという。

〈次期候補について(中略)A県議(メモでは実名、編集部注)を口説いたが本人は固辞された〉

〈B議員(メモでは実名、編集部注)は高木議員と近い関係なので本人は受けないだろう〉

苦戦が見込まれる高木氏を見限り、新しい公認候補の擁立を模索していたのである。福井県連の関係者が語る。

「A県議は、過去に山崎会長の秘書を務めていたことから、最後は説得に応じると思われていました。しかし、本人の意思は固く、最近になって周囲に、県議を辞めて、福井県内のある自治体の首長選挙に臨む考えを伝えた。

党本部からは各都道府県連に対して、10月7日までに候補者の推薦を出すよう要請がありましたが、山崎会長や県連執行部の一部は、ギリギリまで高木氏に代わる候補者を探していた。そのなかで、福井県内のある元首長にも声をかけたと聞きます」

A県議は9月29日、本誌の電話取材に「(高木氏に代わる候補者として)まあ、実際、声はかかっているし、正直な」と認めた。一方、要請に応じる意欲はあるかと尋ねると「それはもう、なんとも言えないね」とだけ語った。

「現実にはなかなか厳しい」

山崎会長にも10月2日、高木氏に代わる公認候補を探していた経緯などについて尋ねた。

――高木さんの処分が10月4日に明ける。福井県連では、高木さんを公認することになるか。

うん、どうなんだろう。そのへんのところは、あんまりはっきりしていないんだよな。処分が切れりゃ(公認しても)いいって問題でもないし、公認してもいいという人もいるし。

――裏金問題がある高木さんの次の選挙をどうみているか。

厳しいということだけは間違いないと思います。世論とか、党員党友の意見を聞いてみるとね、厳しいという表現しか、いまはできない。

――高木さんに代わる自民党の公認候補として、A県議をかつぐ動きが水面下であったという。

いま、私は聞いていない。

――元首長を擁立しようとしたか。

それは全然ないです。

一方、石破茂首相は10月6日、裏金問題で党内処分を受けた議員のうち、処分の重かった議員らを総選挙で非公認とする方針を一転して発表した。これによって、前出の朝日のスクープは“誤報”となり、高木氏は無所属で選挙に臨むことが決まった。同日、ふたたび山崎会長に話を聞いた。

――党本部は、高木さんを非公認にすると判断した。県連独自で新しい候補を立てるという考えはあるか。

まだ、きょう決まったあれですから。そんな、時間的余裕はまだないですよね。(新しい候補者を立てるか、福井県連の)皆さんとも諮ってみなければなりませんから。私が個人的な意見を申しあげるわけにはいかない。

しかし、これ、不戦敗ちゅうわけにもいかんていう意見も出てきますから。そうしたら、誰かを立てるっていうことも考えるけれども、現実にはなかなか(難しい)。準備期間がないでしょう、全然。

ただ、10月7日には、自民党の元衆院議員の山本拓氏が福井2区から出馬することを表明。期せずして保守分裂選挙の可能性が高まり、高木氏はますます苦しい立場に置かれることになった。

15年に復興大臣に就任したことを機に、週刊誌等で過去の下着泥棒疑惑が掘り起こされ、「パンツ大臣」の異名がつきまとった高木氏。選挙戦の行方は“パンツ下ろし”を画策していた地元の信頼を取り戻せるかにかかっている。

取材・文/宮下直之(『週刊現代』記者)

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