ネコは「はじめからネコ」だったのに…現生のイメージを覆す「イヌのご先祖」その驚きの姿を公開しよう

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新生代は、今から約6600万年前に始まって、現在まで続く、顕生代の区分です。古生代や中生代と比べると、圧倒的に短い期間ですが、地層に残るさまざまな「情報」は、新しい時代ほど詳しく、多く、残っています。つまり、「密度の濃い情報」という視点でいえば、新生代はとても「豊富な時代」です。

マンモスやサーベルタイガーなど、多くの哺乳類が登場した時代ですが、もちろん、この時代に登場した動物群のすべてが、子孫を残せたわけではありません。ある期間だけ栄え、そしてグループ丸ごと姿を消したものもいます。

そこで、好評のシリーズ『生命の大進化40億年史』の「新生代編」より、この時代の特徴的な生物種をご紹介していきましょう。今回は、わたしたちヒトと、もっとも親しい動物である「イヌ」と「ネコ」の始祖を取り上げます。

*本記事は、ブルーバックス『カラー図説 生命の大進化40億年史 新生代編 哺乳類の時代ーー多様化、氷河の時代、そして人類の誕生』より、内容を再構成・再編集してお届けします。

暁新世から始新世へ…変化する環境

約5600万年前、急速な温暖化が進行した。

ノースウェスタン大学(アメリカ)のクリストファー・R・スコテーゼたちの2021年の論文によると、直前まで23℃ほどだった地球の平均気温は、このとき、25.2℃にまで上昇したという。現代日本でいうところの「夏日」が平均気温となったことになる。

この突発的な温暖化は、暁新世とその次の時代である「始新世」の境の時期に発生したため、暁新世の英語名である「Paleocene」と始新世を指す「Eocene」に、「極端な温暖化」を示唆する「Thermal Maximum」を加えた単語の頭文字を並べて「PETM」と呼ばれている。

PETMはほどなく終息し、平均気温はまた2℃ほど下がった。その後、始新世のとくに前半期はゆるゆるとした温暖傾向が続き、500万年間ほどは新生代で最も暖かい時代となる。最も暖かくなったときは、PETMにせまるほどの気温だった。

始新世の半ばをすぎると、気温変化の傾向は転じる。概ね寒冷傾向となり、地球はしだいに冷え込んでいくことになる。

そんな気候の中で、多くの哺乳類が台頭した。

この時代、世界は分裂が続いている。すでに南極大陸・オーストラリアと南アメリカは分裂していたことに加え、南極大陸とオーストラリアの分裂も始まる。オーストラリアは北上をはじめ、南極大陸は南極に残る孤高の大陸となっていく。

「食肉類」の台頭

「食肉類」という哺乳類グループがある。

文字通り、肉食性の哺乳類が大半を占めるグループで、端的にいえば、「イヌとネコの仲間」たちである。このグループの始祖は暁新世に出現したとみられている。ただし、暁新世には目立った多様化をみせなかった。始新世になって、彼らは頭角を現し始めた。

初期の食肉類は、「ミアキス(Miacis)」に代表される。頭胴長は20センチメートルほどで、長い尾をもち、その見た目は現生のイタチ(Mustela)に似る。

特徴の一つは、歩行時に足の踵かかとを着くということだ。これは「蹠行性(しょこうせい)」と呼ばれる歩き方である。同じ食肉類であっても、現生のイヌの仲間やネコの仲間は、踵を着かずに歩く「指行性(しこうせい)」だ(「趾行性」とも書く)。蹠行性は指行性と比べると安定感が強く、指行性は蹠行性よりも1歩の歩幅が大きいために高速移動に向いている。

ミアキスに代表される小型の食肉類が、事実上「食肉類の始まり」だった。厳密な意味での「共通祖先」は不明ながらも、最初期の食肉類の姿はいずれも似通っていた。

すなわち、イタチのような姿で蹠行性だ。ミアキスたちは、樹上も地上も生活圏としていたとみられている。高温期だった始新世の前半期、世界各地には亜熱帯の森が広がっており、その森の中で食肉類の歴史は本格的にスタートしたのである。

そして、始新世の気候が温暖傾向から寒冷傾向に変わると、あわせて乾燥化が進み、森は縮小して土地が開けていく。

開けた土地へ歩み始めた「イヌ類」

その開けた土地を舞台として進化を歩み始めたグループが、「イヌ類」である。最初期のイヌ類を代表するのは、「ヘスペロキオン(Hesperocyon)」だ。頭胴長約40センチメートル、体重1〜2キログラム程度。ミアキスよりは大きいが、現生のイヌの仲間と比較するとかなりの小型のサイズである。イエイヌ(Canis lupus familiaris)の犬種でいえば、チワワとほぼ同等の重さである。

もっとも、ヘスペロキオンの姿はチワワというよりはイタチに……つまり、ミアキスに近い。足は蹠行性だ。

さて、現生のイヌ類は足の指が何本あるか、あなたはご存じだろうか? もしも、あなたの家族や友人の家族にイヌがいるのなら、ちょいと失敬して指を数えてみるとよい。前足に5本、後ろ足に4本の指があるはずである。

一方のヘスペロキオンの指は、前後ともに5本ある。本書だけではなく、この「生命の大進化40億年史」のシリーズをお読みになられた方であれば、「進化とともに指の数が少なくなる」という例は、いくつかご記憶かもしれない。イヌ類においても、同じことが起きたのだ。

なお、ヘスペロキオンは、イヌ類ではあるけれども、まだ樹上に登ることができたとみられている。現代のイヌは樹木に登ることはできないので、これは大きなちがいといえるだろう。ただし、ヘスペロキオンのそれは「名残」ともいえるもので、基本的にはイヌ類は開けた土地を走り回る方向へと進化していくことになる。

ネコは最初からネコ

イヌ類が開けた土地に適応しはじめた一方で、縮小しつつある森林に残って進化を重ね始めたグループもあった。そのグループは、「ネコ型類」と呼ばれている。その名前が示唆するようにやがて「ネコ類」を生むグループであるものの、始新世の段階ではネコ類はまだ登場していない。

初期のネコ型類を代表するのは、「ホプロフォネウス(Hoplophoneus)」だ。頭胴長は1メートル前後で、小柄なヒョウ(Panthera pardus)に近い姿をしていた。ヒョウはネコ類の一員だ。すなわち、ネコ類ならずとも、ネコ型類の段階で、すでにネコ類らしい姿であった。

もっとも、その犬歯はヒョウなどと比べると長く鋭く発達している。いわゆる「サーベルタイガー」に近い風貌ともいえよう。もっとも、「タイガー(トラ:Panthera tigris)」もネコ類であることを考えると、ネコ類ではないホプロフォネウスを「サーベルタイガー」と呼ぶのは不適かもしれない。「広義のサーベルタイガー」というべきだろうか。

かくして、イヌ類とネコ型類は始新世で袂たもとを分かち、それぞれ別の道を歩み始める。あなたがいわゆる「イヌ派」なのか「ネコ派」なのかは知らないが、その分裂の歴史は、始新世まで遡るのだ。

さて、現在の哺乳類世界では、「肉食性」といえば、食肉類が主流だが、かつての始新世の世界において、食肉類以外の肉食哺乳類が生態系の上位に君臨したこともあった。続いては、それらの食肉類以外の肉食哺乳類を取り上げよう。

カラー図説 生命の大進化40億年史 シリーズ

全3巻で40億年の生命史が全部読める、好評シリーズの新生代編。哺乳類の多様化と進化を中心に、さまざまな種を取り上げながら、豊富な化石写真と復元画とともに解説していきます。

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