「生活保護で酒を飲むのが恥ずかしい」「生活が苦しい」…「月10万の生活保護」で暮らす女性を苦しめた”習慣”と”スティグマ”

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1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるに至る。川口生まれの平凡な少女が送った波乱万丈な人生。その背後にはどんな時代の流れがあったのか。

「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。

『踊る菩薩』連載第118回

『引退から「四半世紀近く」経つのに突然生き生きと語りだす...「伝説の一条」を記者も驚愕の「ストリッパーの顔」にした意外な人物』より続く

徐々に増える通院回数

一条にインタビューしたときは、最後に次の訪問日時を決めていた。彼女の部屋には電話がなく、取材予定を変更するのが難しかった。

何度かに一度は、約束の時間に訪ねても不在だった。部屋の前でしばらくは待つ。それでも帰ってくる気配がないと、名刺の隅に訪問した趣旨を書き、それを玄関ドアに挟んで帰る。すると一条は翌日、公衆電話から電話をよこした。

「ごめんなさいね。急に身体の具合が悪うなって、病院に行っていました」

確かに声にも元気がない。改めて日時を決め、解放会館を訪ねる。一条は医師から受けた忠告について説明する。

食事制限と苦しくなる生活

「大切なのは運動やって。目方を減らしていかんとあかんらしい。病院で計ってもらったら糖はちょっと減ってきた。5キロくらいやせたかな。でも、あと3キロやせなあかん。お風呂行ったときに目方を計ってます」

一条はノートを広げる。医師から指導されているのか、その日に食べたものを記している。

「糖を減らすために食事も大事やって言われている。豆腐でしょ、そして納豆でしょ。こっちよりあっち(の店)が安いとわかったら、そこへ行って納豆と豆腐を買います」

私は横からノートをのぞき込んだ。ボールペンの文字が並んでいた。ノートを見ながら一条が言う。

「納豆、豆腐、納豆、豆腐。豆ばっかりやな。ご飯はちょっとだけ。このごろ物忘れがひどうて。こうやってつけるのも忘れるんよ」

豆類ばかりをとっているようだ。ノートを開いたまま話題は生活費に移った。

「今月はあと2万6000円でやっていかなあかんのか」

一条はため息をついた。彼女の支えは生活保護である。

西成区の場合、毎月1日に、口座振込もしくは直接、区福祉事務所の窓口で受け取る。一条は直接、受け取るようにしていた。支給金額は年齢や家族構成によって違うが一条の場合、月約10万円だった。

一条がノートを見ながらため息をついたこの月は、あと3週間ほど残っている。その時点で所持金が2万6000円というのはいかにも心細い。

それでも飲酒を止められず…

「かなり使ってしまいましたね」

こう話題をふると、彼女は病院の診療費を支払うため、生活が苦しいと説明した。ただ、生活保護を受けている患者については、病院が福祉事務所に費用を請求するため、本人の窓口負担はない。病院にかかっても生活保護費は減らないはずで、彼女の説明には整合性がなかった。

私が「酒代がかさむのか」と聞くと、一条は「酒は我慢している」と言った。会話のなかでつい、「昨日は屋台で飲んだ」と口にしたときは、後で「ウーロン茶しか飲まなかった」と言い繕った。

私は一条に飲酒をとがめたことはなかった。それでも彼女は生活保護を受けながら飲むことに、後ろめたい感覚、恥ずかしく、できれば隠したい感情を抱いていた。部屋の窓から外を見ながら、こう言ったことがある。

「この辺は昼から屋台が出ます。店の玄関で寝ている人もおる。それにしても屋台やっている人はひがみ根性もいいとこ。何が腹たつんかしらんけど、『生活保護受けとったら一杯くらい飲め』って言われる」

実際の彼女は午前中から飲んでいた。ただ、働いていないため、生活に余裕があるわけでもない。しかも、医師からは飲むなと指導されている。やめたいと思い、やめねばならないと知りながら、飲んでしまう自分を受け入れられなかったのかもしれない。

「昔は酒が好きで、よう飲んだ。切れたことなかった。楽屋でも、こたつで朝から燗のコップ酒。それから着替えて、よし舞台。夏は冷や酒をクククッと飲んでステージに上がった。お酒やめたのは稲垣さんとこ(解放会館)に来てから。あちこちに酒屋や販売機があるけど、我慢しとこと思うてます」

『「エアコンすらも買えない」...「際どすぎる踊り」で一世を風靡した伝説のストリッパー・一条さゆりの「転落人生」』へ続く

「エアコンすらも買えない」...「際どすぎる踊り」で一世を風靡した伝説のストリッパー・一条さゆりの「転落人生」