ほとんどの人が気づいていないけれど…岸田文雄前総理が退任直前、台湾海峡に放った「最後っ屁」

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シン・石破ショック

自民党の石破茂新総裁誕生後、最初の営業日となった9月30日の東京証券取引所の日経平均株価が前週末の終値より1910円超下落して3万7919円で取引を終えた。それを市場関係者は「石破ショック」と呼んだ。

アベノミクスの継承者を自任する高市早苗前経済安全保障相が決戦投票で勝利すれば「円安・金利下げ・株高」到来と目論んだ市場関係者の「捕らぬ狸の皮算用」は大外れとなった。

だが、今回の「シン・石破ショック」は全く様相が違う。10月6日午後0時59分、東京・永田町の自民党本部に入った石破首相は招集した森山裕幹事長、小泉進次郎選対委員長と1時間超、4階の総裁応接室で余人を交えず協議した。前日夜も石破、森山、小泉氏はやはり同所で約1時間半協議している。この日は首相最側近の赤澤亮正経済再生相が同席した。

協議目的は、政治資金パーティーを巡る政治資金収支報告書に不記載があった議員の衆院選(9日解散・15日公示・27日投開票)の対応(党公認の是非)について新たな方針を打ち出すためだった。

首相就任後初の報道各社内閣支持率調査は石破氏周辺が期待したほど高くなかった(読売新聞51%、日経新聞51%、朝日新聞46%、共同通信50.7%。各社1〜2日実施)。共同調査の質問「石破首相に交代したことで自民党の政治とカネの問題が解決に向かうと思いますか?」に対し「向かうと思う」が22.8%、「向かうと思わない」は73.0%だった。

石破氏の危機感は半端ないものとなった。当初、首相を含め党執行部は裏金問題を公認・非公認の判断基準にしない方針で一致をみていたが、世論の反発だけではなく党内からも異論が噴出したため、石破・森山・小泉鳩首会合で強硬姿勢に転じたのだ。

石破総理のさらなる危機感

「石破ショック第2弾」の直撃を受けた「裏金議員」は、自民党の旧安倍派を中心に政治資金規正法違反事件で党内処分を受けた衆院議員のうち、処分の重かった議員ら一部を次期衆院選で非公認とする。

同派幹部の下村博文元文部科学相、西村康稔元経産相、高木毅元国対委員長、萩生田光一元政調会長、三ッ林裕巳衆院議員と旧二階派の平沢勝栄元復興相らが非公認。他にも説明責任を十分に果たさず地元の理解が十分に進んでいないと判断される議員も非公認にすると、石破首相は3者協議後の官邸記者団とのインタビューで言明している。

最終的に非公認通告される現職議員は10人ぐらいとされる。この数が多いのか、少ないのか判断は分かれるところだが、森山執行部が背負うリスクは非公認で立候補・当選した者を追加公認した場合の世上の評価である。

実は自民党は独自の情勢調査を行い(10月5〜6日)、次期衆院選は自民、公明両党合わせて過半数233議席をギリギリ上回る程度との中間報告を森山幹事長と小泉選対委員長に上げていた。これまた石破氏の危機感をより強めたのである。

この情勢調査の結果は、小泉氏の後見人である菅義偉副総裁(元首相)と森山氏と気脈を通じる岸田文雄前首相にもほぼリアルタイムで伝えられた。新旧キングメーカー揃い踏みなのだ。

筆者が名付けた「岸石破(キシーバ)内閣」が業界内で流通しているという。それはともかく今、岸田氏は実に熱量が高い。米欧の政権に留まらず、メディアでも岸田首相時の外交安保政策に極めて高い評価を与えているからだ。

その最後っ屁と言えるのが、9月25日に海上自衛隊護衛艦「さざなみ」が台湾海峡を通過したことである。

岸田前首相のレガシー

自衛隊発足70年にして初めて、主戦場・台湾海峡に海自船舶派遣・通過の出動命令が発出されたのだ。もちろん、軍事的な威圧を繰り返す中国への強い牽制である。

総裁選5日前の21日午後(米東部時間)、米デラウェア州滞在中の岸田首相が随行した秋葉剛男国家安全保障局長らと最終協議後に保秘装置付き電話で木原稔防衛相に出動を命じた。その後の28日、「さざなみ」は南シナ海で行われた日米豪比NZ5ヵ国海軍合同演習に参加した。

日米豪印4ヵ国枠組み(Quad)は安倍晋三元首相が提唱者だが、日米韓と日米比の3ヵ国安保枠組みは岸田前首相のレガシー(政治遺産)である。熱量の源はここなのだ。

総裁退任後、失意に沈むひまもなく高い熱量を保ちつづける岸田前首相の動向に注目が集まっている。

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