義両親に家を買ってもらった60代女性…「夫の死後」に待ち受けていた「意外な落とし穴」

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配偶者の突然の死。悲しみのなかでも考えなくてはならない問題のうちのひとつが相続です。特に、配偶者の両親がまだ健在、というケースでは問題はやや複雑になります。相続実務士の曽根恵子さんが相談者の60代女性Mさんのケースから、相続に関する疑問を紐解いていきます。

Mさんには独立して家を出た3人の子どもたちがいますが、それぞれ母親が相続をすればよい、という考えで手続きはスムーズに進んでいます。問題になったのは、Mさんが現在1人で暮らす自宅です。Mさんの義理の両親が、次男であるMさんの夫に買ってくれたもの、という認識だったのですが、実は自宅は義両親、Mさんの夫の3人の共有名義だったのです。義両親は90代ながら、2人とも健在。しかし、Mさんに義両親の相続権はないため、いざというときには自宅を自分名義にすることができなくなってしまうのです。

記事前編は【夫を突然亡くした60代女性が「自宅の登記簿」を見て愕然…発覚した「重大な問題」】から。

遺言書で遺贈

そこで、義両親に遺言書を作成してもらい、それぞれがMさんに遺贈してもらうようにと考えました。義両親は自分たちの名義はあるもののすでに家は夫に買ってあげたものという想いですので、遺言書でMさんに遺贈することに抵抗はありません。

義両親は昭和ひとケタ生まれでもう90代。それでもいつ相続人になるかわからず、また、どちらが先かもわかりません。

遺言書では次の計画的なことができないと不安もありました。

固定資産税の通知は義両親のもとに

そうこうするうちに今年の固定資産税の納付書が届きました。Mさんのもとには建物だけで、土地は15分の7を所有する義父のもとに送られていました。

いままでは住んでいるMさん夫婦が払ってきましたので、土地と建物が別々に請求されるとは予想外。義両親も名義はあるが、自分たちは住んでもなく、息子に買ってあげたという感覚ですので、固定資産税を負担する認識はありません。

贈与でなく、売買も選択肢

やはり早いうちにМさん名義にしようということになり、どうすればいいかということが相談の内容です。

義両親はすでにあげたものという感覚ですので、「贈与」が優先順位ですが、それでは贈与税がかかります。贈与の場合の価格は路線価が基準になりますが、それよりも少し低い程度の固定資産税評価額でも税務署から否認されることはないでしょう。

それでも、土地、建物の15分の10は600万円程度になるため、贈与税の基礎控除110万円は超えてしまいます。贈与税の計算をすると75万円ほどになります。さらに登記費用、不動産取得税もかかるため、100万円以上の費用が必要になります。

そうした負担をなるべく減らすとなると、「売買」が選択肢になります。土地、建物15分の10をМさんが義両親から固定資産税評価額で買い取るようにしますが、義両親は購入金額よりも安く売却するため、譲渡税がかからず、申告の必要もありません。

売買代金は支払うことになりますが、6年に分けて非課税枠の現金を贈与してもらうとして、売買代金と相殺することで現金の移動はなしとします。

司法書士から本人確認

他県に住む義両親ですので、契約書などは郵送でやり取りし、司法書士の売主側本人確認としては、『本人限定受取郵便での委任状等署名捺印書類の郵送+電話での本人確認・意思確認』が必要になります。

業務提携先の司法書士法人に依頼をして、必要書類や手続きをしてもらうように依頼することになりました。売買契約書は夢相続が作成、Mさんの署名、押印が終わり次第、義両親へ送って署名、押印してもらう段取りとなりました。

購入するときに義両親の名義を入れない

これでようやくMさん名義にできるのですが、そもそもが夫名義、あるいは夫とMさん名義だけであればこれだけの手間がかからずに、余計な名義替えの費用や不動産取得税がかかることはなかったと言えます。

親が子どもの住宅取得のため、お金を出してあげることはよくあることなのですが、名義を入れておくよりも、そのときに住宅取得資金贈与を活用して贈与しておくか、金銭消費貸借で貸付金にしておくべきことでした。

住宅を購入したときに仲介に入った不動産会社が、将来の相続のことを想定してアドバイスをしてあげないとこのように手間も、税金もかかるということになります。

一人暮らしの1戸建てから住み替えが必要

今回、Mさんは名義替えの費用や不動産取得税がかかるのですが、それでも義両親から自分名義に変えてもらうメリットがあります。現在は夫が亡くなって4LDKの一軒家に一人暮らしで、広すぎるのです。まだ60代とはいうものの、これからの生活を考えると今の家を売却してもう少しコンパクトなマンションに移るようにすれば、住みやすくなり、買い替え時にお金が余れば余裕にもなります。

そうした構想がある中、高齢の義両親が認知症になって意思確認もできないとなれば売りたいときに売れないは事態にもなりかねません。

よって固定資産税の納付書が送られた機会に決断して、名義を変えてもらおうということは必要だと言えます。幸い、現在では意思確認もできる状況ですので、早めに手続きをしようということでサポートさせていただくことになりました。

夫を突然亡くした60代女性が「自宅の登記簿」を見て愕然…発覚した「重大な問題」