ガザ戦闘から1年「終わりなきパレスチナ問題」に明日はあるか…二つの正義の相克、その現状と今後

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昨年の10月7日、ハマスが、イスラエルを奇襲攻撃し、1200人が死亡、250人が拉致された。イスラエルでは、第2のホロコースト(ナチスによるユダヤ人虐殺)として、戦慄が走った。

イスラエルはハマスに対して報復に出た。それから1年が経つが、停戦の見通しも人質の解放も先が見えない。ガザでの犠牲者の数は4万1千人を越えている。現状を分析し、今後を展望する。

レバノン侵攻の規模拡大へ

レバノン南部に拠点を置くシーア派武装集団ヒズボラは、ハマスを支援してイスラエルを攻撃している。

9月17、18日に、レバノンでポケベルなど通信機器が一斉に爆発し、多数の死傷者が出た。これはイスラエルが仕掛けたものだと判断したヒズボラは、9月22日、イスラエルに対して報復攻撃を行った。イスラエルも反撃し、27日にはヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害した。また、その後継者のサフィエディン師も殺害したという。

イスラエルは、10月1日、レバノン南部への地上侵攻を開始した。空爆も引き続き継続しており、大きな被害となっている。

ナスララ師の殺害に対する報復として、10月1日夜、イランはイスラエルに対して、過去最大規模のミサイル攻撃を行った。約200発の弾道ミサイルが使われたが、そのほとんどが迎撃された。迎撃には、アメリカやイギリスも参加した。

ヒズボラは、強力な軍事力を保持しているとはいえ、国家ではない。レバノンという国家は、十分な統治ができないほど弱体化している。

人口530万人のうち、120万人が避難民となっている。また、今回の戦闘でのレバノン側の犠牲者は1400人で、過去1年間では2千人を越えている。このように緊迫する情勢下で、航空自衛隊の輸送機が、退避する邦人を乗せて現地を発った。

一方、イスラエル軍は、ガザ北部のジャバリヤを包囲して、地上攻撃を始めた。ハマスに復活の兆しが見られるという。イスラエル軍は、ガザ中部でも空爆を行っている。

イスラエルはどう出るのか

当面の焦点は、イスラエルが、イランのミサイル攻撃に対して、どのような報復をするかということである。

イランとイスラエルの本格的な武力衝突となると、中東全域での戦争へと拡大しかねない。両国とも、それは望んではいないだろう。戦争になれば、イランは、アメリカに支援されるイスラエルに負ける確率が高い。

また、イスラエルもアメリカの同意を取り付ける必要がある。

バイデン大統領は、核施設や石油関連施設への攻撃には否定的である。一方、トランプ前大統領は、ノースカロライナ州の集会で、イランの核施設を攻撃すべきだと述べた。トランプは、「まずは核施設を叩き、残りのことは後で心配すればよいとバイデンは答えるべきだった」と、バイデン外交を痛烈に批判した。

バイデンは、「イスラエルが早急に決断することはない」と述べ、イスラエルに対して慎重な対応を求めている。イスラエルは、まだ何のシグナルもバイデン政権に対して発していない。

イランとの全面戦争はイスラエルも望んではおらず、核施設への攻撃はないであろう。しかし、石油関連施設については、港湾施設などを攻撃する可能性は皆無ではない。

もし、イスラエルがそれを実行に移せば、イランからの石油の輸出が減り、世界的に石油価格の高騰という事態が生じてしまう。日本にとっても、他人事ではないのである。

ヒズボラ壊滅のチャンス

ヒズボラは、イラン革命防衛隊の庇護の下、1982年にイスラエルがベイルートを侵攻した際に発足した。兵士の訓練、武器供与など、イランが支援を続けている。この組織の目的は、イスラエルの抹殺である。

シリアもまた、ヒズボラを支援しているが、スンニ派のサウジアラビア、ヨルダン、エジプトはヒズボラには批判的である。

2000年には、ヒズボラはイスラエルを南イエメンから撤退させた。

2006年7月にはヒズボラとイスラエルが大規模な戦闘を行い、34日間の戦闘でイスラエルは苦戦したが、8月には停戦した。8月11日の国連安保理決議1701は、イスラエルのレバノンからの撤退、ヒズボラの武装解除を要求しているが、ヒズボラは応じず、今日に至っている。

ヒズボラの軍事力は、非国家組織としては最大級で、戦闘員は3万〜5万人、射程500kmのミサイルを含め、12万〜20万発のロケットとミサイルを保有し、イスラエル全土を攻撃できる能力を持つ。しかし、イスラエルは、アイアンドームをはじめとする強力な防空システムを保持しており、飛来するミサイルを殆ど全て迎撃できる。

イスラエルは、2006年に殲滅できなかったヒズボラの息の根を止めるチャンスが、今まさに到来したという認識である。ナスララ師など幹部の殺害によって、ヒズボラは相当に弱体化している。

これまでは、ヒズボラもイスラエルも、戦闘を国境地帯にのみ限定してきた。ところが、イスラエルは、ポケベル爆弾という無差別な全面攻撃を敢行した。これは、レッドラインを越えたことを意味する。

そして、遂に地上侵攻に踏み切ったのである。空爆も継続し、10月5日から6日にかけて30回も行っている。今回の攻撃で、ヒズボラの軍事力は20年前の水準に落ちたという。しかし、ヒズボラはイスラエルへの攻撃を続けており、6日、130発以上のロケット弾をイスラエル領内に打ち込んでいる。

18年ぶりに目標達成を期す

人質の解放を実現できないネタニヤフ首相に対して、国内の不満が高まっているが、国民は、ヒズボラを殲滅することを支持している。ヒズボラは、反イスラエルの武装闘争を止めず、ハマスを支援してきたからである。そこで、ネタニヤフは、ヒズボラを徹底的に叩くことによって、自らの支持率を上げ、求心力を高めようとしているのである。

ガザへの侵攻が人質解放とハマスの殲滅であるように、今回のレバノン地上侵攻は、18年前に実現できなかったヒズボラの壊滅が目的である。

イランを後ろ盾にして、反米、反イスラエルの武装活動を行っているのが、ヒズボラやハマスやフーシである。ハマスは、今回のガザでの戦争の発端となったテロ活動を行った組織である。ハマスは、2万〜2万5千人の戦闘員、ロケット弾1万8千〜2万発を、フーシは10万〜30万人の戦闘員、多数の弾道ミサイルやドローンを擁している。

これを「抵抗の枢軸」と呼ぶが、イランが、1979年のイスラム革命を周辺地域に「輸出」するために育てた武装組織である。

これらの組織は、いずれもイスラエルの地球上からの抹消を求めており、イスラエルとパレスチナの二国家共存という考え方を根本から排除する。

ネタニヤフもまた、二国家共存には反対である。二国家共存については、イスラエルでもパレスチナでも、10年前には支持する者が多かったが、今では逆に少なくなっている。

ギャラップの調査によると、2012年には、イスラエルでは支持が61%、不支持が30%だったのが、ガザでの戦闘開始後の2023年7〜9月には、支持が25%、不支持が65%となっている。

パレスチナでは2012年に支持が59%、不支持が40%だったのが、ハマス襲撃前の2023年の7〜9月に行った調査では、支持が24%、不支持が72%となっている。

パレスチナ問題は、二つの正義の相克である。その原因を作ったのは、第一次世界大戦中のイギリスの2枚舌外交である。具体的には、アラブ人に独立を認めたフセイン・マクマホン協定(1915年7月)とユダヤ人にパレスチナでの国家建設を認めたバルフォア宣言(1917年11月)の矛盾である。

その矛盾を解決するにはイスラエルとパレスチナの双方が妥協して二国家を建設するしかない。しかし、そのための機運は、この1年間ですっかり萎んでしまった。パレスチナ問題の解決はいつになるのであろうか。

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