発生から半年以上が経過したが紅麹問題はいまだ未解明(※写真はイメージ 清十郎 / PIXTA)

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小林製薬の紅麹(べにこうじ)関連製品による健康被害拡大から半年以上が経過した。9月18日に原因物質が「プベルル酸」と特定されたものの、その混入経路などは不明で、補償の先行きは不透明だ。

厚労省の発表ではサプリ摂取と死亡との因果関係を調査中の死者は97人(7月8日時点) 。 創業家の小林一雅会長と長男の小林章浩社長が引責辞任(7月23日)したものの、なぜ製造工程で原因物質が発生したのかはわかっていない。

台湾では集団訴訟も

そうした中、台湾の消費者支援団体が9月27日、小林製薬の現地法人や輸入業者など6業者を相手取り、被害を訴える55人に対する約1億6800万台湾ドル(約7億6000万円)の損害賠償を求める集団訴訟を台北地裁に起こした。

国内では同社による補償が8月8日から始まっているものの、あくまで暫定的。補償開始と併せ、同社は紅麴事業からの撤退も発表しているが、求められているのは一刻も早い全容の解明であり、被害者に対し、補償問題の道筋を明確にすることだ。

「被害者の方が個人で訴訟を提起するにしても、原因がハッキリしない中で、責任を明確にしていくプロセスは負担も大きいですし、時間がかかります。個々で状況や症状も違ってくるでしょうし、双方に負担も大きい。原因が特定されても、被害者の方が本当に当該製品を摂取したことを証明する必要もあります」

現状で訴訟を提起した場合の見通しをこう展望するのは、消費者問題に詳しい辻󠄀本奈保弁護士だ。

小林製薬が8月に開始した被害者への補償内容は、医療費・交通費、慰謝料、休業補償、後遺障害による逸失利益となっている。

ただし、対象となるのは、「医師の診断書の内容等を総合的に勘案して、対象製品の摂取と腎関連疾患およびその他の症状の間に相関関係が認められるお客様」とし、そのハードルは高い。

原因物質特定で賠償の行方は

一方で、原因物質がほぼプベルル酸と特定されたことは、大きな前進になり得るという。

「原因がよくわからない状態での交渉と判明した中での交渉では当然、後者の方が被害者側は強気に出られます。同社の製造物の『欠陥』が明らかになり、製造物にプベルル酸が含まれていたことと、死亡や腎関連疾患等との因果関係が証明されれば、製造物責任法(PL法)※が適用されやすくなり被害者側にとっては話を進めやすくなるでしょう」(辻󠄀本弁護士)

※メーカーと直接契約関係にない消費者が製品によって損害を受けた場合、メーカーに無過失責任を負わせることによって消費者を保護することを目的とする(1条)。製品に欠陥があれば、過失の立証を要せず責任追及を行うことが可能。

すでに同社は補償を開始しており、製品が原因で被害を起こしたことは認めている。今後の争点は、どういうメカニズムでプベルル酸が製品に混入したかだ。

今後は補償・賠償の行方も軸になっていく

閉鎖された同社大阪工場では、ずさんな原料管理が明らかになっている。この辺りの実態がわかってくれば、悪質性の判断も可能になり、補償・賠償の額にも影響が及ぶだろう。

過去には石鹸で類似の事例が

今回の健康被害と似たような事案で過去には、「茶のしずく石鹸」事件がある。同石鹼を使用した人が次々に小麦アレルギーを発症。2004年から2010年までの間、累計4650万個、467万人に販売され、被害者は2000人以上におよんだ事件は社会問題になった。

この事件では、いくつかの訴訟が提起されたが、被害者6人が原材料メーカーに約7600万円の損害賠償を求めた裁判では、控訴審でも一審を支持し、原材料の「欠陥」を認め、製造物責任法に基づき、全員に計130万円の支払いを命じている。

「今後、同社の対応として、株主に対する責任等も出てくるかもしれませんが、これだけ世間を騒がせた事件ですから、(小林製薬は)まずは被害者に対し、真摯に、誠実に向き合うことが求められると思います。そもそも初動が遅く被害が拡大したと思われる経緯もありますから、企業としての今後を考えても、被害者に対してどのようなスタンスをとっていくのかはポイントになってくるでしょう」(辻󠄀本弁護士)

世間を騒がせた事件の発覚から半年以上。いまだ明らかになっていない部分もあるが、包み隠さず情報を公開し、原因究明と再発防止に全力を尽くし、被害者に誠心誠意対応する。その先にしか、地に落ちた信頼回復の道はないだろう。