積水ハウス「地面師詐欺の″実質的被害額”は55億円」 取引総額70億円から消えた15億円の謎…調査報告書から紐解く積水ハウスの″ウラ事情”

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第14回

『「我々も騙された側で...」″被害者”を主張した地面師詐欺の仲介者…ペーパーカンパニーとしての実態と不透明な”カネの流れ”』より続く

事件の説明

「分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告」

犯行から9ヵ月後の2018年3月6日、積水ハウス株式会社代表取締役社長、仲井嘉浩の名でこう題した発表がなされた。

〈平成29(2017)年8月2日付で発表いたしました『分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして』(以下、「本件」といいます。)に関し、社外役員による『調査対策委員会』の平成30年1月24日付調査報告書を受領いたしました。これを受けまして、当社としての本件に関する経緯概要並びに再発防止に向けた取組み等を以下の通りご報告いたします〉

その〈1.事件の経緯概要〉という項目でこう記している。

〈東京マンション事業部が担当する業務のなかで、東京都品川区西五反田の土地建物(以下、「本件不動産」といいます。)につき、その所有者と称するA氏(後に、偽者と判明しました。)から、その知人の仲介者が実質的に経営する会社(以下、「X社」といいます。)を中間の売買当事者とし、X社から転売される形式で、当社がこれを買い受けることとなりました。4月24日、A氏とX社の間の売買契約、X社と当社との間の売買契約という2件の売買契約を同時に締結するとともに、所有権移転の仮登記申請手続を行った上で、手付金を支払い、仮登記が完了しました〉

繰り返すまでもなく、A氏がニセ海老澤佐妃子の羽毛田正美で、X社がIKUTA社である。

減り続ける被害額

これではほとんど事件の詳細がわからない。報告書にはこうも書かれている。

〈なお、事件経緯のご報告につきましては、捜査上の機密保持への配慮のため、これ以上の詳細説明は差し控えさせていただきます〉

とどのつまり60億円あまりを手にしたのは誰か。そこが事件解明の焦点になる。事件はこれで終わらない。「調査対策委員会」の事件の経緯概要はこう続く。

〈売買契約締結後、本件不動産の取引に関連した複数のリスク情報が、当社の複数の部署に、訪問、電話、文書通知等の形で届くようになりましたが、当社の関係部署は、これらのリスク情報を取引妨害の嫌がらせの類であると判断していました。そのため、本件不動産の所有権移転登記を完全に履行することによって、これらが鎮静化することもあるだろうと考え、6月1日に残代金支払いを実施し、所有権移転登記申請手続を進めましたが、6月9日に、登記申請却下の通知が届き、A氏の詐称が判明しました。当社は、直ちにA氏との間での留保金の相殺手続を実施し、実質的被害額は約55億5千万円となりました〉

そもそも積水ハウスが17年8月に公表した詐欺の被害額は63億円だった。総額70億円の取引総額からすると、7億円も少ない。さらに次の調査委員会で特定した〈実質的被害額〉となると、そこからさらに8億円近く減り、55億5000万円としている。その分、積水ハウスが被害を免れていることになるが、実質的な被害とは何を意味するのか。そこには妙なカラクリがある。

『実は積水ハウスは「地面師詐欺」に気づいていた⁉...被害額の誤差や不自然な取引が与える”違和感”』へ続く

実は積水ハウスは「地面師詐欺」に気づいていた⁉...被害額の誤差や不自然な取引が与える”違和感”