意外と知らない、子どもの「学習」と「体験」にいくら使っているのか

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習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか?

低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。

発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。

*本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。

小4までは「学習」より「体験」

私たち自身が実施した全国調査の結果に入っていく前に、既存の調査から見えてくる現状についても少し触れておこう。

子どもの「体験格差」それ自体をメインの主題とする全国調査は見当たらないが、調査の一部で子どもの「体験」に関わる内容を聞いた調査や、ある地域に特化して子どもの体験について調べた調査などは存在しており、そこから学べることもたくさんある。そして、その多くで、親の所得や学歴などの違いや格差が、子どもの体験の機会の多寡と関係していることを示している。

例えば、文部科学省による「子供の学習費調査」を見てみよう。この調査には、各家庭が学校外で負担する費用を、学習塾や家庭教師などの「補助学習費」と「その他の学校外活動費」に分類し、子どもの年齢・学年ごとに平均的な年間の支出額を調べた項目がある(グラフ1)。

そして、この調査でいうところの「その他の学校外活動費」は、スポーツや音楽などの習い事にかかる費用、そしてキャンプやレジャーなどの費用であるとされているため、私たちが考える「体験」の範囲に近い。

グラフを見るとわかる通り、小学校5年生以降は補助学習費がその他の費用を上回り、高校受験を迎える中3時点にピークを迎えている。ここで多額の費用がかかることは明白なため、そのために何年も前からお金を貯め始めているという家庭も多いだろう。

こうした視点はもちろん重要なのだが、同じグラフを別の角度から見てみることもできる。小学校4年生、つまり10歳ごろまでは、補助学習費よりも「体験」に関わるその他の支出のほうが一貫して多くなっていることが読み取れるだろう。

金額が最も高い小3の時点では年間15万円ほどになり、月額ベースで1万円を超えている。特に低所得家庭を念頭に置いた場合、決して小さな金額とは言えない。

さらに、「その他の学校外活動費」では、家庭の経済状況による支出額の差も明確に出ている。公立学校に通う小学生の場合、世帯年収400万円未満の家庭で年間7.9万円、世帯年収1200万円以上の家庭で年間20.1万円だ。2.5倍以上の格差が生じている。

「体験格差」という問題の輪郭を捉えていくにあたって、これらはとても重要な情報だ。学校外活動費の負担という目線に立つと、どうしても中3や高3の受験に関係する費用の大きさに目が行ってしまう。実際に支援に関わってきた立場から見ても、それは否定できない。

しかし、そうであるからこそ、子どもたちがより幼い時期から継続的に生じていると考えられる「体験」の格差が相対的に見えづらくなり、後回しにされてきてしまった側面もあるのではないか。

そこで、今回の調査では、特に小学生の子どもたちの状況にフォーカスした。

「息子が突然正座になって泣きながら…」多くの人が知らない「体験格差」の厳しい実態