「我々も騙された側で...」”被害者”を主張した地面師詐欺の仲介者…ペーパーカンパニーとしての実態と不透明な”カネの流れ”

写真拡大 (全3枚)

今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第13回

『〈積水ハウス地面師詐欺事件〉「引き返す最後のチャンスだった...」決済前日に積水ハウスが見逃した、地面師の“唯一のミス”とは』より続く

現金はどこに消えた?

売買代金60億円のうち、手付金を差し引いた残金の48億円の処理については、次のように記している。

〈この確約書の差し入れを受け、積水ハウス側は4月24日の売買契約書に基づく決済時期が7月末日になっていたのを第三者による契約履行の妨害が考えられ、それを回避するためにできる限り早めたいということになり、変更契約を締結し直して、6月1日には本登記と引換えに売買残代金約48億円を一部留保して決済するという方針が決まった〉

一方、民事訴訟における生田側の準備書面によれば、残金である48億円の支払いの大半が預金小切手でなされていた、と詳細に記されている。小切手はぜんぶで5枚あったという。

最も大きな海老澤佐妃子への支払いについては、およそ37億円の支払いのうち、28億3884万4000円が銀行口座に入金されている。

むろん入金先は地面師たちが偽造書類を使って新たに作成したニセ佐妃子の口座だ。その他、残りはさらに5000万円から3億3000万円までの範囲で6つに細かく分散されて入金されている。

そこから、いったん地面師グループにおける「銀行屋」、つまり金融ブローカーが、積水ハウスの振り出した小切手を現金化する役割を担った。最終的にそれらの現金がどこに流れたか。それが捜査の焦点になる。

私も騙された…

積水ハウスの払い込み窓口となったIKUTAについては、さすがに民事訴訟の資料からは大きな金の流れは見えない。オーナーの生田におよそ10億円が渡っている、という新聞報道もあった。が、実際にそれがすべて生田の懐に入ったかどうかは不明だ。

ちなみに生田は政界や芸能界にも知己の多いある種の著名人でもある。会社の所在地が元代議士の小林興起事務所に登記され、小林夫人の明子も役員として名を連ねていたことでも、注目を集めてきた。まだ事件が摘発される前、その小林興起に取材した。

「詐欺が表沙汰になってから、初めて私どもの事務所にIKUTAが登記されていることを知りました」

はじめは、そんな話をして埒が明かなかった小林事務所だが、当人に確認してもらうとニュアンスが変わってきた。

「小林の記憶によれば、IKUTAから小林事務所に登記を置かせてほしいと依頼があったのが(事件の)2年ほど前だそうです。

当時、支援企業の対応を任せていた秘書が、小林が落選中だったので事務所に何か利益になればいい、という思いもあって話を持ってきたそうです。その方(生田のこと)ともお会いし、女性向けの美容、健康事業をする会社だとのことで夫人も名前を貸した。

ですが、実際には何の事業もスタートしませんでした。事務所のスペースを貸す窓口の秘書は家賃収入なども期待していたが、それもまったく発生しませんでした。

先方からは、『今回はこんなことになってしまって申し訳ない。ただ、自分も騙された側で小林事務所にはご迷惑をかけないので、ご心配なく』とご連絡があり、『自分は積水ハウスさんに繋いだだけ。まさか本人確認もしないでこの案件を進めていたとは理解できない』と言っているそうです」

『積水ハウス「地面師詐欺の“実質的被害額”は55億円」 取引総額70億円から消えた15億円の謎…調査報告書から紐解く積水ハウスの“ウラ事情”』へ続く

積水ハウス「地面師詐欺の″実質的被害額”は55億円」 取引総額70億円から消えた15億円の謎…調査報告書から紐解く積水ハウスの″ウラ事情”