認知症の母・ダウン症の姉・酔っ払いの父と同居するにしおかすみこの前で涙を流す人が続出した理由

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「母は81歳、認知症&糖尿病。姉は48歳、ダウン症。父は82歳、酔っ払い。私は47歳、元SMの女王様キャラの一発屋。毎日ジタバタしながら過ごしています」

パワーワードが連発の一文を、さわやかな笑顔で語ったのは、にしおかすみこさん。

これは、9月24日にブックファースト新宿店にて開催された『ポンコツ一家2年目』刊行記念サイン会&記者会見での一コマだ。本書の冒頭の「家族紹介」には、にしおかさんが語った言葉が綴られている。

そしてサイン会では、にしおかさんに会って涙する人が続出した。それはなぜなのか。連載から誕生した書籍に触れた人たちの反応から、「介護のリアル」が見えてくる。

「2007年の一発屋です」

”あ〜〜〜!にしおかぁ〜すみこだよっ。

2024年にポンコツ一家2年目という本を出して浮かれている、2007年の一発屋っていうのは、どこのどいつだ〜い?

あたしだよっ!”

記者会見にあらわれるやいなや、ムチを手に過去のネタで自己紹介をしたにしおかさん。トレードマークだったボンテージ衣装と黒髪ロングヘアとは一転したショートヘア姿で笑顔を見せる。

にしおかさんが、SMの女王様の格好で行う漫談で「エンタの神様」に出演、大ブレイクしたのが2007年のこと。それから17年あまり、2020年から認知症の母、ダウン症の姉、酔っ払いの父と同居を始め、その様子を赤裸々につづる連載が2021年9月より「FRaU web」にてスタート。連載と書きおろしをまとめた書籍『ポンコツ一家』が2023年1月に刊行となり、現在10刷のロングセラーを続けている。

『ポンコツ一家2年目』はその名の通り「同居から2年目」を描いた2作目だ。連載15編に書きおろし4編、番外編1編とボリュームアップした単行本が刊行。2作目も発売前に重版が決定、Amazonでは1冊目と2冊目が別々のカテゴリでベストセラー1位にもなった。

1作目からパワーアップ

「こんなに和やかで笑いがこぼれる記者会見、久々に見ました。その場に来ているみなさんがにしおかさんを応援したくなるんですかね」

記者会見の場では、こんな言葉をつぶやく人もいた。

それは、にしおかさんの人柄によることも多いだろう。撮影で、「“アーーー”ください」という記者からの声に、「アーーー!」と叫ぶこと計7回。動画で叫ぶのはわかるが、「写真なので声はいらない」と言われても「アーー――!」。

何度も全力で叫び続けるにしおかさんに、「これがにしおかすみこだもんなあ」とメディア側の顔も思わずほころび、会見そのものが温かさにつつまれ、笑いが溢れるものとなった。

「自分ファースト」はずっと大切にしています

会見では、「介護に疲れた時どうするのか」、という問いに「自分ファースト」を大事にしていると語った。

「私も迷うこともたくさんあるけど、“自分ファースト“はずっと大切にしています。自分が幸せじゃないと家族も幸せに出来ないと思っています。たまたま今実家に戻っていますけど、それが正解でもない。家族を施設に預けるのも、実家から逃げるのも選択肢の一つ。自分が選んだ道を大切にしていきたいと思っています」

この「自分ファースト」という言葉については、25日に放送された「めざまし8」でも長く語り、「自分ファーストと言ってくれてありがとう!」「そうだよね、自分を大切にしないとね」とSNSで多くの反響があった。その特集は現在YouTubeで見ることができる。

その動画には、サイン会に来た方々の姿も映されている。

「『ポンコツ一家』に出合って、すごく励まされて……」

思わず涙ぐむ女性。

その方だけではない。サイン会では多くの人が思わず涙する姿が何人も見られた。

「実は私も介護していて、こうして自分を大切にしていいんだってわかって、本当に救われたんです」

「にしおかさんが本当に明るくて、すごく笑って、ああ、私もこれでいいんだって思えて……」

言葉の奥に、「介護」という現実が多くの人を疲弊させているのだという現実が伝わってきた。

ユーモアと家族への愛情

2020年から母の様子が「おかしい」となり、現在要介護3の認定を受けているというライターの長谷川あやさんは、自身の介護の現状を綴った記事「トイレットペーパーは流さず、バナナを皮ごと…「認知症の母」自宅介護はもう限界」の中で、『ポンコツ一家2年目』を読んだ感想を綴っている。

”そんな時、にしおかすみこさんの『ポンコツ一家2年目』を読んだ。前述のように人生において比較は意味のないことだと思っている私だが、認知症の母に加え、ダウン症の姉も酔っ払いの父も世話もしているにしおかさんが、ユーモアと家族への愛情を交えながら介護のことを綴っていることに敬服する。文章にできない苦労も多いだろうに人間力が高すぎる!

人間ができていない私は怒鳴ってばかりだ。ショートステイに預けていた母が何日かぶりに戻ってくる日などは、「今日はやさしくしよう」「母が好きな料理を買って帰って一緒に食べよう」と思うのだが、問題行動に直面するとそんな気持ちも一気にしぼむ。

親の死により介護が終わった人たちは、口をそろえて、「親を介護する時間なんて永遠に続くものじゃない。もっとやさしくすればよかった」と言う。そうなんだろうなと思う。頭ではわかっている。人間の器が小さい私は、なかなかやさしく接することができない。”

ちなみににしおかさんは執筆時「介護」という言葉を使っていない。排泄の世話をするのではなく、徘徊するわけでもないという思いがあるからだろう。ただ、にしおかさんは毎日の3人のご飯を作り、経済面も含め家族の「できない」をすべてサポートしている。これももちろん「介護」だ。

にしおかすみこで「救われる」理由

サイン会に来て涙ぐんだ方々も、きっと様々な介護に直面しているのだろう。にしおかさんの母親よりも重度の認知症や病気を抱えている方もきっと少なくないだろう。だが、長谷川さんが書いた通り、徘徊があるか、重度か軽度か、という比較は関係ないのだ。2024年の今、「介護」によって辛い思いをしている人がとても多く、「介護をしているけどユーモアを忘れなかったらこういう風にも考えられるんだ」と気づいたり、同じような状況に思わず笑ったりできる。切ない状況に涙して、感情を外に出すことができる。それだけで「救われる」のではないだろうか。

1冊目が刊行されたときも「実はうちも介護しています」「私も介護をしてるけど、この本に出合って、つらいって言っていいんだ、自分を大切にしていいんだと励まされました」「すみちゃんみたいにできないけど、仲間がいるって思えました」「自分だけが悲劇のヒロインのように思ってたけど、認知症になった人もつらいんだと気づきをもらいました」と多くの賛同の声が寄せられた。

厚生労働省が発表している「介護保険事業状況報告」の最新は令和4年度のもの、これをみても要介護認定を受ける人は年々増加している。要介護認定者は前年比5万人増の694万人。介護サービスを受けているのは前年比10万人増の599万人だ。にしおかさんの家は要介護認定を受けていないので、その裏にさらに多くの人がいることは想像ができる。誰にとっても身近な問題なのだ。

にしおかさんは2024年の9月の時点で要介護認定を受けていない理由は、母が「できないこと」に傷つくのではないかということや、要介護認定を受けて受けられるサービスをいますぐ必要としているかどうか迷うからだとも語る。そんな中。記者会見では、「この前すごいことがあったんです。聞いてください!」と興奮気味に、ほやほやの家族エピソードを語っていた。

「この前うちの母が『県民共済入っているから大丈夫だよね』と言ってきたので、『お母さん81歳だからそろそろもうなくなるよ。でも介護保険っていうのがあって、それを使うとうちの家族が助かるよ』と言ったんです。そしたら『ええ、それやろうよ!』と前向きな答えが返ってきて。今まではこんな提案したら猛反対して『頭カチ割って死んでやる!』って言ってたのに……。このチャンスを逃すまいと地域包括支援センターに予約をとって今度行く、というところまできています」

記者会見は「たくさんの方に読んでいただきたいと思いますし、悩んでいる方や疲れている方に笑っていただいて、箸休めになれば嬉しいと思います」という言葉でしめくくられた。

シビアな現実を見据えながら、誰もが笑える時間を作るには、日本社会が少子高齢化に向き合い、支える仕組みを強固にし、事業所も含めた「介護をする側」のサポート体制を作ることが必要だ。そして同時に、「自分の選択でいいんだ」「大変だったら助けを求めていいんだ」「辛い中で笑っていいんだ」と思いながら、「そうそう」と笑うこと。そんな「箸休め」の時間がとても重要なのだということも、感じさせられるのである。

text:FRaUweb

◇通常の連載は10月20日に公開予定です。

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