これは「神業」か。「超新星爆発」から一瞬すぎる…地球で最初の石「橄欖岩」。「じつは、地球ができる前からあった」という納得の理由

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私たちが暮らす地球は、豊かな恵みを与えてくれるいっぽう、地震、火山噴火などの大きな災害をもたらすこともあります。こうした大地の性質を「地質」といい、これを研究する学問が「地質学」です。

地球はおもに、マントルなど基礎をなす部分に多い「橄欖岩(かんらんがん)」、海洋の近くで多く見られる「玄武岩」、大陸をなす「花崗岩」の三つの石でできているといいます。

今回は、地球の骨格を成す「橄欖岩(かんらんがん)」誕生の秘密を探っていきます。橄欖岩の誕生は、46億年前。なんと、地球の誕生と同時期です。ここに橄欖岩の由来をめぐる2つの謎が隠されていました。

*本稿は、ブルーバックス『三つの石で地球がわかる』の内容を再構成してお送りします。

この世に最初にできた石が秘める「誕生の謎」

約46億年前に誕生した私たちの地球は、現在の姿とは似ても似つかぬものでした。成り立ちから、最初にできた地球の骨格である「橄欖岩(かんらんがん)」であることがわかりましたが、ではこの橄欖岩は、いったいどのように誕生したのか。さらに踏み込んで考えてみます。

*原始地球で起きた、衝撃の「隕石の重爆撃期」と、引き寄せられてきた「地球の材料」を読む

この世に最初にできた石は、おそらく橄欖岩でしょう。おもに橄欖岩をつくっている橄欖石は、以前のこちらの記事で述べたようにSiO₄正四面体がばらばらに寄り集まっているだけの、最も簡単なネソケイ酸塩鉱物だからです。また、橄欖岩の「子ども」である玄武岩がいわゆる本源マグマとしてさまざまな岩石のもとになっていることからも、橄欖岩が「石の系譜」の最も古いところに位置していると考えてさしつかえないでしょう。

しかし、橄欖岩がいつ、どのようにしてできたのかは、私の知るかぎりまだ誰も書物には書いていません。いまだに と言っていいのです。いったい、この石は地球上でできたのか、それとも地球ができる前から宇宙に存在していたのか、いわば序章で述べた「鶏が先か、卵が先か」がわからないのです。にもかかわらず、この問題について考察されたものを少なくとも私は読んだことがありません。

謎はもうひとつあります。古い隕石の年代測定をすると、どれも約46億年という年代を示すことです。これを「コンドライト一致」と呼んでいます。

コンドライトは隕石の一種で、宇宙空間で急冷されたコンドリュールというケイ酸塩鉱物(橄欖石)の小さな粒子をもつものです。なぜそれより古い隕石がないのでしょうか。

理屈の上では、もっと古い隕石が地球に到達していたとしてもおかしくないのです。この隕石の年代測定により、地球ができた年代は約46億年前とされているのですが、そうすると、超新星の爆発から地球の誕生までが、ほぼ同時に起こったという神業のような話になるのです。これを太陽系の大きな謎と考えている研究者もいるくらいです。

一つめの謎からみていくと、橄欖岩の組成は隕石に似ています。そもそも地球は隕石が集まってできたのですから、それをもって橄欖岩が宇宙でできたと考えてよさそうですが、必ずしもそうとはいえません。隕石の年代が地球の年代と同じという二つめの謎があるからです。周囲の友人たちに聞いても、地球上でできたものと当然のように考えている人が多いようです。

そこで、ニュートンよろしく思考実験を試みて、私なりにこの に挑戦してみたいと思います。

橄欖石の材料は、隕石の材料と一致

繰り返しますが、石をつくる造岩鉱物は、SiO₄正四面体に、さまざまな金属元素が結びついてできています。橄欖岩をつくる橄欖石の場合、現在と同じ組成になるためには最低でも酸素、ケイ素、マグネシウム、鉄が必要で、さらにニッケルが少量ですが加わってきます。

これらの元素のうち、酸素(原子番号8番)、ケイ素(同14番)、マグネシウム(同

12番)、鉄(同26番)までは、第一世代の恒星の中での核融合反応によって形成され、恒星の超新星爆発によって宇宙空間にばらまかれます。しかし、鉄よりも重いニッケル(原子番号28番)は、この段階ではまだ存在していません。ニッケルが形成されるのは、第一世代の恒星の超新星爆発のときか、その残骸である星が集まってできた、第二世代の恒星の内部においてです。

言い換えれば、この段階ですでに、橄欖石をつくる材料がすべてそろっているわけです。

第二世代の恒星が超新星爆発すると、ニッケルなどの重い元素も宇宙空間にばらまかれます。それらが凝縮して、再び固まってできたのが、太陽などの第三世代の恒星と、地球などの惑星です。

では、この過程のどこで橄欖岩ができたのでしょうか。

「地球上でできた説」なら、一つめの謎はクリアできるけど…

橄欖岩は、仮に、多くの人が考えているように地球上でできたとしてみます。すると、気になるのは、石どうしは連続的に成分が変わっていく鉱物「固溶体」であり、いかなる割合でも混ざりあいますが、金属と石とは混ざりあわない関係にあるということです。このような関係を「不混和」といいます。

不混和の関係にある橄欖岩と鉄がマグマオーシャンの中で溶けあって、マントルのようなどろどろの液体を形成するためには、少なくとも2000℃を超える温度が必要でしょう。鉄の融点は1538℃、橄欖岩の融点は約1890℃だからです(フォルストライトの1気圧での融点)。前回の記事で述べた、原始地球の表面を覆ったマグマオーシャンのときの表面温度は2000℃にまで達していたと考えられますので、その点はぎりぎりクリア、という感じでしょうか。

しかし、ここで引っかかってくるのが、二つめの謎です。

二つめの謎「できるには一瞬すぎる」を、どう解決するか

さきほど述べたように、太陽や地球などの材料をつくった母天体の超新星爆発の時期と、その後に地球が形成された時期は、地球で発見されている隕石から年代を推定すると、どちらも約46億年前です。

つまり、星の材料が宇宙にばらまかれてから星ができあがるまでが、宇宙的なタイムスケールでみれば、ほとんど一瞬で起きているわけです。

もし地球の誕生がそうした一瞬のできごとだったとすると、橄欖岩が地球でつくられて、それからマントルをつくるには、マントルが地球体積の85%以上も占めていることを考えると、少し時間が足りない可能性もあります。

これなら、わかる「橄欖岩誕生のシナリオ」

それよりも、材料がすべてそろった第一世代の終わりにすでに橄欖岩ができていたと考えるほうが自然なのではないでしょうか。そして超新星爆発のときに、鉄と溶けあった状態で宇宙空間に投げ出されたのです。

超新星の温度は5500万℃ともいわれ、すべてのものを溶かすのに十分すぎます。宇宙空間の温度はおよそマイナス270℃ですから、どろどろの液体はすぐに冷えて、固体の塊になるでしょう。それらが集まって少しずつ大きな塊になり、それぞれが衝突を繰り返して、だんだん大きな隕石になっていきます。

このようなシナリオで橄欖岩ができたと考えてもよいのではないか、むしろこのほうが自然なのではないか、というのが私の仮説です。つまり、橄欖岩は現在の地球ができるより前からあって、地球をつくった隕石が橄欖岩そのものだったというわけです。

46億年より古い隕石が出てこないのは、超新星爆発のときにすべてが溶け、隕石の年代がリセットされてしまったためではないかとも考えられます。そして、宇宙からやってきたこの緑の石から、玄武岩や花崗岩が生まれてきたのです。いかがでしょうか。

隕石がつくった「原始地球の空」…いまなら猛毒ガスだった

宇宙から降りそそぐ橄欖岩の隕石が地表をマグマオーシャンにし、さらには地下にマントルを形成しはじめているころ、地球には原始の「空」も誕生しました。その形成は、2段階に分かれていたようです。

まず原始地球ができた当初の一次的な空は、宇宙空間にあるガスなどと同じような成分の、水素とヘリウムからなっていたと考えられます。しかし、これらの軽いガスは相次ぐ隕石の衝突によって、地球の引力を振り切って宇宙空間に逃げ去ってしまったとみられます。

そのかわりに、隕石の中に含まれていた揮発性成分が、マグマオーシャンができていく過程で地表へと出てきました。それらは地球の引力にとらえられて地球の周りを覆い、二次的な空、すなわち「原始大気」をつくりました。いわば石に含まれていた成分が空をつくったのです。

その組成は水素、水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、アルゴン、塩素ガス、塩酸、硫黄、亜硫酸ガスなどで、現在では火山活動の際に出てくるガスの成分がこれに近いものです。現在の地球の窒素、酸素、二酸化炭素などからなる大気とは似ても似つかない、人間にとっては猛毒ともいえる大気です。

大気中に酸素が豊富に含まれるようになるのは、光合成生物「シアノバクテリア」が出現する27億年前まで待たなくてはなりません。

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さて、空の誕生は、「海」の誕生へとつながります。海の誕生によって、この頃の地球の様子を私たちに伝えてくれる、もう一つの鉱物が出来てきます。続いては、海の誕生と、海洋が形成されたころの地球で生まれた「変わった特徴」のある鉱物についての解説をお届けします。

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