平均観客数1723人…悲惨な女子サッカープロリーグの大改革が始まった!

写真拡大 (全6枚)

女子プロに“異例”の男性理事長

9月26日、日本初の女子サッカーのプロリーグ「WEリーグ」の第3代理事長(チェア)に野々村芳和Jリーグ・チェアマン、副理事長に宮本恒靖日本サッカー協会会長がそれぞれ正式に就任した。

これまでWEリーグの理事長は初代、2代ともに女性が務めていたので大きな方針転換だ。また、Jリーグと協会のトップが他のリーグのトップを兼任するというのもきわめて異例だ。

WEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)は2020年に創設され、翌2021年から実際のリーグ戦が始まった。「女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する」との理念を掲げ、理事の過半数を女性とし、初代理事長にも女性実業家の岡島喜久子氏が就任。Jリーグ理事長が「チェアマン」と呼ばれていたのにならって「チェア」と称した。

岡島チェアは1期2年で退任。2代目チェアには、やはり女性実業家の高田春奈氏が就任した。WEリーグは所属クラブにも女性役員の登用を求めるなど、人事面でも「女性活躍」の理念を優先したのだ。

ただ、問題は理事に就任した女性たちの一部は、必ずしもサッカー、女子サッカーに造詣が深いわけではなかったことだ。

そうした意味で、初代チェアの岡島氏はうってつけの人物だった。

サッカーも企業経営も経験あり

中学時代にサッカーを初め、FCジンナンのメンバーとして第1回全日本女子サッカー選手権(1979年)で優勝した経歴の持ち主だったからだ。一方で、金融証券業界で活躍し、企業経営にも通じていた。

ただ、岡島氏はアメリカ人男性と結婚し、ビジネス上の活動拠点もアメリカにあったため、WEリーグ経営に全面的に関わることはできなかった。

2代目チェアの高田氏は「ジャパネットたかた」の創業者、高田明氏の長女で、ジャパネットホールディングスで経営手腕を発揮していた。2017年に経営が悪化した地元長崎のJリーグクラブ、V・ファーレン長崎を同ホールディングスが子会社化して、明氏が社長に就任。その後任として同クラブ社長を引き受けた春奈氏は、その後Jリーグや日本サッカー協会の理事を歴任していた。

ただ、初代チェアの岡島氏のようにサッカー経験があるわけでなく、女子サッカーについてはチェアに就任してから、観戦して魅力を感じたと語っていた。

こうした経緯から分かるのは、WEリーグは「女性活躍」の理念が優先されすぎたものだったということだ。

競技レベルでは世界に比肩しうるが…

WEリーグの最大の使命は、第一に女子サッカーの競技レベルを上げることであり、もう一つは女子サッカーの社会的認知度を上げることだ。

競技レベルという意味では、WEリーグが成功を収めたのは間違いない。

開幕した2021年の段階では、プロリーグに参加しなかった「なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)」所属のアマチュアとの実力差は小さかった。そのため、すべてのチームが参加する皇后杯全日本女子選手権では、WEリーグ勢がアマチュアチームに食われる番狂わせが続出した。

だが、2年目以降はWEリーグとアマチュアとの差は開いていった。技術レベルの高い選手が揃っていることはもちろん、フィジカル面での違いも大きく、WEリーグの試合は男子並みのスピードや激しさを加えていった。

9月に南米コロンビアで行われた20歳以下の女子ワールドカップ決勝で、日本は北朝鮮に敗れて準優勝に終わった。スコアは0対1だったが、内容は完敗だった。だが、年齢制限のないフル代表レベルでは、日本は北朝鮮を凌駕しており、2月のパリ五輪の最終予選でも日本は北朝鮮を破って出場権を獲得している。

フル代表で日本が上回ることができるのは、WEリーグというハイレベルの国内リーグが存在するからだ。

一方、20歳以下の大会では、過去2大会連続で日本とスペインが決勝で対戦しており、2018年大会では日本、2022年大会ではスペインが勝利していた。今年も両国は準々決勝で対戦して日本が勝利した。しかし、フル代表では日本はスペインには敵わないのが現状だ。

平均動員数“1723人”…まだまだ低い「社会的認知」

スペインでは最近女子サッカーへの注目度が急上昇しており、人気カードには8万人を超える観衆が詰めかけることすらある。日本が、フル代表でもスペイン相手に優位に立つためには、WEリーグのさらなる発展が必要となるはずだ。

一方、「社会的認知」という面では、WEリーグは成功からは程遠い。

開幕当初、WEリーグは1試合平均5000人の観客動員を目標としていた。だが、3シーズン目の昨シーズンの平均は1723人。リーグのスタートとコロナ禍が重なったという不運はあったものの、満足すべき数字からはほど遠い。観客が1000人に満たない試合もけっして珍しくないのだ。

これでプロとしての経営が成り立つわけがない。

運営経費を自前で賄えず、補助金頼りのままではプロリーグとして成功したとは言えない。万一、WEリーグが破綻してしまったとしたら、日本の女子サッカーにとっては大きな打撃となるし、「女性活躍」の理念にも逆行することになる。

もちろん、女子リーグが女性役員たちの手によって運営されるというのは理想ではあろうが、もはやそんな悠長なことを言っている場合ではない。そこで、緊急避難的にJリーグ・チェアマンと協会会長の出番となったのだ。

30年前にJリーグが発足して、予想以上の成功を収めた。川淵三郎初代チェアマンは「地域密着」という理念を掲げたが、「理念」の追求と同時に血の出るような経営努力を行った。大手広告代理店を巻き込んでのスポンサー集めを行ったからこそ、Jリーグは成功。“大法螺のよう”だった「理念」も、他のスポーツにも取り入れられるようになった。

WEリーグには、そうした地道な経営努力が足りなかったのではないか。立て直しは急務である。

改革のカギを握るのは「Jリーグとの“連携”」

幸い、日本のサッカー界には30年以上の歴史を持つJリーグというモデルがある。クラブ経営や試合の運営など学ぶところは多いはず。Jリーグチェアマンを新理事長に迎えたWEリーグ。今後はJリーグのノウハウを取り入れて観客動員や経営の改善に向かってほしいものだ。

WEリーグの中で、観客動員力が高いのはサンフレッチェ広島レジーナ、セレッソ大阪ヤンマーレディース、浦和レッズ・レディースの3チームだ。浦和の場合はJリーグで最多の観客動員を誇るレッズ・サポーターの存在が大きい。広島、C大阪の場合は試合会場としてJリーグと同じスタジアムを使っていることで、サポーターが集まりやすいという。とくに、広島の場合、今年2月に新スタジアムが完成してから観客動員が急増した。

WEリーグの12クラブのうち、8クラブがJリーグクラブの女子部門という形になっている。こうしたクラブでは、Jリーグとの連携が人気獲得のきっかけになるはずだ。

先日、J2リーグのジェフ千葉がWEリーグとJ2リーグをダブルヘッダーで開催し、WEリーグの試合にも2905人の観客が集まった。千葉が、昨シーズンのWEリーグ観客動員数で最下位だったことを考えれば画期的な数字だった。

野々村新理事長就任によって、いわば「J直轄」になったWEリーグ。これからがWEリーグにとっても、日本の女子サッカー全体にとっても正念場となる。

ココが違う! W杯最終予選「アジア5強」から「日本1強」となれたワケ