中国株の”虚しい”急騰…「経済オンチ」の習近平政権が失敗した、不動産バブル崩壊の「後始末」

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中国株の急騰は冷静に捉えるべき

2024年の年初から9月中旬まで、世界の株式市場の中で中国株の下落基調は際立った。この間、日米をはじめ主要先進国の株価は上昇した。米国のニューヨークダウ工業株30種平均株価、わが国の日経平均株価はともに10%程度上昇した。

一方、中国の上海総合指数は約9%下落。中国人民銀行(中央銀行)が9月下旬、8000億元を注入する株価支援など大型の景気刺激策を発表したことを受けて株価は一時急騰したが、冷ややかに見る市場関係者は少なくない。

その背景には、不動産バブル崩壊などいくつかの要因がある。最も重要なファクターの一つは、中国政府の期待外れな経済政策だろう。中国政府の経済政策は後手に回っており、肝心の不動産バブル崩壊の後始末が遅々として進んでいない。

現時点において過剰生産能力の解消に向けた施策が進む兆しも見えてこない。むしろ、国有企業などは生産能力を増強する傾向すらみられる。それでは、デフレ懸念の払しょくも容易ではない。また、政府は、社会の統制を重視しているようだ。それは民間の活力を削ぎ、経済成長を阻害する恐れもある。

今のところ中国政府は、これまでの経済運営の方針を抜本的に変える姿勢を示していない。一方、不良債権問題や過剰生産能力は深刻化し、経済成長率に下押し圧力がかかる恐れは高まっている。今後、中国から海外に流出(脱出)する“ヒト、モノ、カネ”は増加傾向となる可能性が高い。

ひとり負けだった中国株

中国人民銀行による景気刺激策の発表で、9月下旬に中国株が急伸したのは事実だ。しかし、9月中旬までの過去5年間の主要インデックスの展開は悲惨だった。

まず上海総合指数は約10%下落した。上海証券取引所と深圳証券取引所に上場している、本土株の上位300銘柄が構成するCSI300インデックスは約20%の下落。香港のハンセン指数の下落率は約35%だ。

中国本土と異なり資本規制が緩い香港株の下落は、中国経済の先行きに対する不安と中国政府による香港への締め付け強化の懸念の両面を浮き彫りにしているようだった。

中国本土の株式市場の特徴の一つは、個人の投資家の取引ウェイトが高いことだ。

過去、中国経済の成長率が高かった時期、上海証券取引所における個人投資家の取引割合は全体の80%を超えたこともあったという。リーマンショック後の中国本土株の値動きを見ると、基本的には政府の政策期待の高まりを支えに本土株は上昇し、それにつられて香港株も上昇することが多かった。

株価が下落すると、一般的に個人投資家は損失に直面し政府への不満や批判は増える可能性は高い。そのため、政府は株価の下落を防ぐ危機感は強かったようだ。2015年夏場の株価急落以降、国家隊と呼ばれる政府系の金融機関による本土株の購入[株価の下支え策、PKO(プライス・キーピング・オペレーション)と呼ばれる]を繰り返した。

2020年8月の“3つのレッドライン”をきっかけに、不動産バブルが崩壊した後も政府は株価対策を実施した。ただ、これまで明確な効果は見られなかった。2024年2月には、株価下落の責任から証券行政トップの更迭もあった。

4月、7月と中国政府はEV(電気自動車)、デジタル家電などの購入支援策も拡充。地方政府は優良なマンション案件を買い入れる措置も導入したが、本土、香港の株価の下落は止まらなかったのだ。

そもそもの経済状況はかなり深刻とみるべきで、今回の急騰で相場が本格的に回復するかは疑わしい。

デフレ懸念を払拭できていない

経済政策で最も深刻なのは、不動産バブル崩壊の後始末が進んでいないことだ。

8月、主要70都市の新築住宅価格は前年比5.3%下落した。下げ幅は2015年5月以来の大きさだった。これまでの教訓として、大型のバブルが崩壊すると、当局は金融機関などへの公的資金注入で不良債権処理を進めることが必要になるケースが多い。

1990年代初め以降、わが国政府の対応は遅れ、景気は“失われた30年”と呼ばれるような長期停滞に陥った。リーマンショック後の米国は、迅速にバブルの後始末を進め、景気は回復に向かった。

過去、中国の政策担当者は、「バブル崩壊後の日本経済の轍は踏まない」と主張してきたのだが、実際は中国政府の思ったように動いていない。

不良債権が増加すると金融機関の信用創造は阻害される。それに伴い、成長分野への資金供給は減少する。家計や企業は債務の圧縮を優先して貯蓄を増やす。その結果、経済全体で需要は減少し、物価は持続的に下落する恐れが高まる。

中国では、川上の物価が下落し、川下の消費分野でも耐久財などの価格下押し圧力が強まった。中国経済のデフレ懸念は高まっている。

これを払しょくするためには、まず、不良債権の処理の目途をつけて、人々の安心感を醸成することが必要だ。それと同時に、政府が時間をかけて構造改革を進め、成長期待の高い分野にヒト、モノ、カネの再配分を促す政策が有効になる。

過去、中国は改革開放を進めIT先端分野を中心に成長を実現した。今なお、中国の半導体製造能力の習得力は高い。しかし、現在の政策はそうした強みを伸ばすよりも、“共同富裕策”や改正反スパイ法などにより個人、企業への締め付けを強めている。そうした政策スタンスでは、デフレ圧力を食い止めることは難しいだろう。

つづく記事〈もう中国から逃げ出したい…!「経済オンチ」の習近平政権が加速させる《ヒト・モノ・カネ》の大流出〉では、今後中国国内で起こりうる展開を解説する。

もう中国から逃げ出したい…!「経済オンチ」の習近平政権が加速させる《ヒト・モノ・カネ》の大流出