記事作成時点で地球の人口は約81億〜82億人といわれており、2080年代半ばには103億人でピークに達する見込みです。これだけの人々を養う食糧生産システムの構築が課題となっている中で、ドイツの研究チームが「微生物に水素・酸素・二酸化炭素だけを与えてタンパク質とビタミンB9(葉酸)を作り出すシステム」を考案しました。

Power-to-vitamins: producing folate (vitamin B9) from renewable electric power and CO2 with a microbial protein system: Trends in Biotechnology

https://www.cell.com/trends/biotechnology/fulltext/S0167-7799(24)00177-X



Powered by renewable energy, microbes turn CO2 into protein and vitamins | ScienceDaily

https://www.sciencedaily.com/releases/2024/09/240912135704.htm

ドイツのテュービンゲン大学で応用微生物学教授を務めるラルグス・アンゲネント氏は、「世界人口は100億人に近づいていますが、気候変動と土地資源の制限によって十分な食料を生産することはますます困難になっています。代替案の1つが、動物を育てるために作物を栽培するのではなく、バイオテクノロジーに基づいたバイオリアクターでタンパク質を栽培することです。これによって農業はより効率的になります」と述べています。

そこでアンゲネント氏らの研究チームは、タンパク質と葉酸を豊富に含む酵母を生産するための、2段階方式のバイオリアクターを設計しました。タンパク質は人間の筋肉や臓器、皮膚、髪などを作るために必要不可欠であり、葉酸は赤血球の生産を助け、代謝にも関与する重要な栄養素です。

研究チームが考案したバイオリアクターは、まずThermoanaerobacter kivuiという細菌に水素と二酸化炭素を与えることで、酢酸塩を作り出します。そして、酢酸塩と酸素をパン酵母として知られるSaccharomyces cerevisiae(出芽酵母)に与えることで、タンパク質と葉酸を作ることができるという仕組みです。

この反応に必要な水素と酸素は、風車のようなクリーンなエネルギー源で生成された電気を使い、水を電気分解することで生成できると研究チームは主張しています。



出芽酵母は、砂糖を与えられた時とほぼ同じ量の葉酸を、酢酸塩が与えられた場合でも生産することがわかりました。研究チームが収穫した乾燥酵母は、わずか6gで1日あたりの葉酸摂取量を満たしていたとのことです。

また、出芽酵母が生産するタンパク質の量は、同じ重量の牛肉や豚肉、魚、レンズ豆といった食品より多いことも判明。85gの乾燥酵母は1日の必要タンパク質量の約61%を含んでおり、これは同重量の牛肉の34%、豚肉の25%、魚の38%、レンズ豆の38%を大きく上回っています。

しかし、出芽酵母には摂取しすぎると痛風のリスクを高める化合物も含まれているため、摂取する前にこの化合物を取り除く処理が必要とのこと。それでも、処理後の酵母85gには1日の必要タンパク質量の41%が含まれていると報告されています。

アンゲネント氏は、「これはビールの作り方と似た発酵プロセスですが、微生物に糖分を与える代わりに、ガスと酢酸塩を与えました。酵母が砂糖で葉酸を生成できることは知っていましたが、酢酸塩でも同じことができるかどうかはわかっていませんでした」とコメントしています。



今回考案されたバイオリアクターはクリーンエネルギーと水、二酸化炭素で稼働するシステムであるため、食料生産における炭素排出量を削減できるほか、必要な土地が畜産や農業より少ないため環境保護にも役立ちます。

アンゲネント氏は、「土地を利用することなく、かなり高い効率でビタミンとタンパク質を同時に作ることができるという事実はエキサイティングです。最終的な製品はベジタリアンやヴィーガンも食べることができ、遺伝子組み換えではなく、持続可能です」と述べました。